トランプ氏、南アフリカで「白人が迫害されている」 ラマポーザ大統領との会談で主張

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画像説明, 米ホワイトハウスで会談するドナルド・トランプ米大統領(右)と南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領(21日)

アメリカのドナルド・トランプ大統領は21日、ホワイトハウスで南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領と会談した。その中で、南アフリカの白人農民が「迫害」されていると主張し、それを裏付けるとする動画を流すなど、ラマポーザ氏と意見が対立する場面もあった。

ラマポーザ大統領との会談で、トランプ大統領は記者団を前に、南アフリカの白人農民の迫害を裏付けるとする動画を流した。その動画には、数千もの十字架が道路沿いに並ぶ様子が映っていた。トランプ氏は、これが殺害された白人農民の埋葬地だと主張した。

トランプ氏は、この動画が南アフリカのどこで撮影されたものかはわからないとした。これらの十字架は、実際の墓ではなく、クワズールー・ナタール州で農家夫妻が殺害された後の2020年にあった抗議デモで使われたものとみられる。デモ主催者は当時、長年にわたって殺害された農民を象徴する展示物だと述べていた。

ラマポーザ氏は、慎重に返答を検討しているようなそぶりを見せながら、トランプ氏の主張に反論した。南アフリカでは白人よりも黒人の方が暴力の犠牲になる可能性がはるかに高いと、ラマポーザ氏は述べた。

トランプ氏は、南アフリカで白人の「ジェノサイド(集団虐殺)」が起きているとの主張について、ラマポーザ氏に「説明」を求めたいとも述べた。

ラマポーザ氏はこの日、アメリカと南アフリカの関係回復に向けた貿易協議を行うため、ホワイトハウスを訪れた。南アフリカ代表団に、同国で最も有名なゴルファー2人を加えることで、トランプ氏の気を引こうとした。また、南アフリカのゴルフコースを紹介する大きな本をトランプ氏にプレゼントした。

米大統領執務室での会談は和やかに始まった。しかし、そのムードは、トランプ氏が動画の上映のために照明を落とすよう指示して一変した。

この動画では、南アフリカの野党政治家ジュリアス・マレマ氏が、「ボーア人(アフリカーナー=主にオランダ系移民の子孫)を撃て、農民を撃て」と白人に対する暴力を呼びかける声が流れた。続いて、十字架が並ぶ野原が映し出された。トランプ氏はこれが白人農民の埋葬地だと語った。しかし実際には、これらの十字架は墓ではなく、殺害された農民をめぐる抗議の一環だった。

トランプ氏はまた、南アフリカで襲撃されたとする記事の印刷物とみられる資料をラマポーザ氏に手渡した。

動画を見たラマポーザ氏は、「あなたが見たものや主張は(中略)政府の方針ではない」と述べた。「南アフリカには多党制の民主主義があり、国民は自分自身を表現することができる」。

「我が政府の方針は、彼(マレマ氏)が議会で言っていたことと完全に反対だ。彼の党は少数政党だが、憲法でその存在が認められている」

トランプ氏は動画に登場した十字架にも言及。その後、「農民は黒人ではない。それがいいとも悪いとも言わないが、農民は黒人ではない」と述べた。

南アフリカでジェノサイドが起きているとの主張は、ここ数年、右翼団体の間で流布されてきた。南アフリカの判事は2月、白人至上主義団体への寄付をめぐる相続裁判の判決で、こうした主張は「明らかに想像上のもの」で「現実のものではない」と退けた。

ラマポーザ氏は21日、トランプ氏がこの問題について、南アフリカ国民の声に耳を傾けることを望んでいると述べた。そして、アメリカを訪れた南アフリカ代表団には、ゴルファーのアーニー・エルス氏とレティーフ・グーセン氏、南アフリカで最も裕福なヨハン・ルパート氏の白人3人が含まれているとした。

「もしジェノサイドが起きているなら、この3人はここにはいないだろう」と、ラマポーザ氏は述べた。

すると、トランプ氏は、こう口をはさんだ。「だが、あなたは彼ら(黒人)が土地を奪うことを許している。彼らは土地を奪うと白人農民を殺す。白人農民を殺しても彼らには何も起こらない」。

トランプ氏は、マレマ氏とその野党政党に、白人農民から土地を奪う権限があると考えているようだが、実際はそうではない。

トランプ氏は、南ア政府が個人所有の土地を補償なしに収用できる法律についても言及したとみられる。

今年1月、ラマポーザ氏は「公正かつ公益にかなう」と判断された場合に、政府が特定の状況下で補償なしに個人所有の土地を収用することを認める、物議を醸してきた法案に署名した。

ただ、南ア政府は、この法律に基づく土地の収用はまだないとしている。

ラマポーザ氏はトランプ氏との会談で、「我が国には犯罪行為はある」と認めつつ、

「犯罪行為によって殺されるのは白人だけでなく、その大半は黒人だ」と述べた。

南アフリカは人種に基づく犯罪件数を公表していない。しかし、最新のデータでは、同国で2024年10月から12月の間に約1万人が殺害されたことが示されている。そのうち12人は農場で襲われて殺害された。12人のうちの1人は農場主で、5人は農場の住人、4人は黒人の可能性が高い従業員だった。

トランプ氏がこの問題を追及するなか、ラマポーザ氏は冷静さを保っていた。そして、アメリカに航空機を提供するなどといったジョークを飛ばして和ませようとした。

ラマポーザ氏は、南アの反アパルトヘイト(人種隔離政策)の象徴であるネルソン・マンデラ元大統領を引き合いに出して、同国は人種間の和解に尽力していると語った。

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画像説明, 農民の経験について話をするため、トランプ氏とラマポーザ氏の会談に招かれた南アフリカのジョン・スティーンヘイゼン農相

白人農民が南アフリカを離れたらどうなるかとジャーナリストが尋ねると、ラマポーザ氏は、白人のジョン・スティーンヘイゼン農相に回答をゆだねた。スティーンヘイゼン農相は、大半の農民は南アに残ることを望んでいるとした。

今月12日に、南アフリカ国籍の白人59人のグループがアメリカに到着し、難民認定を受けた際、ラマポーザ氏は彼らを「臆病者」と呼んでいた

トランプ氏との会談に先立ち、ラマポーザ氏は、アメリカとの貿易関係の改善が優先事項だと強調していた。

トランプ氏は現在、各国への「相互関税」措置を7月まで一時停止しているが、その後は南アからアメリカへの輸出品に30%の関税がかけられることになる。

南アの野党政治家マレマ氏は、ラマポーザ氏とトランプ氏の会談について、「私のうわさ話をするために年配の男たちがワシントンに集まっている」とあざけった。

「白人に対するジェノサイドの証拠となる重要な情報はほとんど提示されていない。我々は、政治的便宜のために補償なしに土地を収用するという政治原則について、妥協することには同意しない」と、マレマ氏はソーシャルメディアに投稿した。

南アフリカとアメリカの緊張は、トランプ氏が1月に米大統領に復帰した数日後に高まった。

これは、ラマポーザ氏が、「公正かつ公益にかなう」と判断された場合に、政府が特定の状況下で補償なしに個人所有の土地を収用することを認める法案に署名した時期だった。

南ア政府のこの動きは、アフリカ最大の経済大国のイメージを損なうものとして、トランプ政権には映った。南ア政府が、イスラエルがパレスチナ・ガザ地区でジェノサイドを行っているとして国際司法裁判所(ICJ)に対応を要請したことで、トランプ政権はすでに憤っていたが、それに拍車をかけることとなった。

トランプ氏は2月、南アへの重要な援助を停止し、アフリカーナーが難民としてアメリカに定住することを認めると発表した。

3月には、南アのエブラヒム・ラスール駐米大使がトランプ氏を、「至上主義を動員」して「白人の被害者意識を犬笛のように使っている」と非難。米政府は同大使を国外追放にした。

(追加取材:クハニシル・ヌグコボ、ファルーク・チョシア)

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