ベンチ外続きでも…鹿島MFターレスは腐らず日々全力 J初得点に鈴木優磨は「自分のことのように嬉しい」

◆明治安田J1リーグ▽第11節 岡山1―2鹿島(20日・JFEス)

 鹿島は岡山に2―1で競り勝った。途中出場のブラジル人MFターレス・ブレーネルのゴールで後半に逆転し、3位に浮上した。

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 勝ち越し点が決まったのだから、当然鹿島ベンチは沸いた。後半28分、1―1から2―1。選手・スタッフがベンチを飛び出し、ピッチに向かって叫ぶ。拳を突き上げる。

 ただ、記者席から見たその時のベンチは、いつも以上の大盛り上がりだった。今季出場2試合目、ベンチ外続きでも腐らずに努力を続けてきたターレスが奪った決勝点。ヒーローに1番に駆け寄った鈴木優磨は「彼の活躍は、本当に自分のことのように嬉しい」と笑った。歓喜の中に、ある種の温かさもあるように感じた。

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 ターレスの立場は、非常に厳しいものがある。

 昨夏、ウクライナリーグで活躍していたターレスの獲得を決めたポポヴィッチ監督、吉岡宗重フットボールダイレクターは、その2か月後にクラブを去った。

 現在の4―4―2のシステムにおいて、最も輝けるであろうトップ下のポジションは存在しない。サイドの選手に何かしらの一芸を求める鬼木達監督の戦術上、総合力にこそ長けるが、特出した能力を持ち合わせないターレスの序列は低い。始動からここまで、ずっと控えの立場だった。

 メンバー外練習では、十代後半、二十代前半の若手選手とともに汗を流す日々。期限付きでの加入とあって、クラブにとって「何とかして戦力にしたい」という立場でもない。非公開で行われる練習試合でゴールを決めても、メンバー入りすら叶わない日々が続いた。

 海外挑戦の経験があり、異国での生活の苦しみを知る安西幸輝はこう言う。

 「試合に出られない時に、監督や環境、人のせいにする外国人選手も多いんですけど。ターレスは『守備をもっと頑張らないと』って、自分に全部矢印が向く。苦しかったと思うけど、人柄も含めて、今日の1点はすごくうれしかった。サッカーの神様が見てくれてたんじゃないかって思います」

 鈴木優磨曰く、ターレスは「俺よりも日本人」だそうだ。

 「彼は練習でも本当に手を抜かない。自分はロッカーが隣なので、苦しんでいる姿も見ていた。でも文句1つ言わずに、毎日ジムに向かって、自分のやるべきことをやっていた」

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 けが人続出で巡ってきた好機を生かした。ターレスは「チームの力になるため、自分ができることに取り組むことで未来は変わると思っていました」と振り返る。

 出場機会が巡ってこなかったことにも「チーム内競争も激しいし、いい選手はいっぱいいる。監督の判断はもちろんリスペクトしています」とキッパリ。「必ずチャンスは来るだろうと。チャンスをつかみ取るため、1つ1つの練習を大事にしてきました」と胸を張った。

 不遇の立場でも腐らない選手は、状況が好転したとしても、驕(おご)ることなく、慢心することもなく、自分に矢印を向け続けるだろう。どんな状況でも、ターレスブレーネルは鹿島のために走る。(岡島 智哉)

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