危険な人格「ダークエンパス」は、いかにして周囲の人々を貶めるのか?
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Text by Anita Chaudhuri
2021年に発表された新たな人格「ダークエンパス」は、あからさまなサイコパスやナルシシストたちとは異なり、一見「思いやりのあるいい人」のように見える。しかし実際には、彼らは他人を操ろうとしているのだ。ダークエンパスの発見者である心理学者ナジャ・ハイムら専門家が、彼らの危険性と見分け方を解説する。
心理学者が新たに重要な性格類型を発見するなど、よくあることではない。ふつう人間は、「この秋冬でいちばん話題の性格特性」といった話をメディア向けにどんどん生産するようにはできていない。 とはいえ現在、これに近いような状況が、いわゆる「ダークエンパス」への関心の高まりとともに発生している。 この用語はTikTokでも流行しており、すでに260万を超えるメンションがある。「#darkempathtok(ダークエンパストック)」なるハッシュタグもあり、「エンパス(共感能力の高い人)がダークになるとき」とか、「最も危険なパーソナリティ」といった不吉なタイトルの動画を見つけるのに役立つ。
ダークエンパスを最初に定義したのは、2021年に学術雑誌「人格と個性」に掲載された1本の論文だった。論文の共著者たちはダークエンパスを、「闇の性格特性(サイコパス、マキャベリズム、ナルシシズム)」と高度な共感能力を同時に有する個人に関する「新たなの心理学的構成概念」であると定義した。
この特性をもつ人は、繊細で他者への思いやりがあるように見えるものの、実際にはそうした能力を利己的な目的のために利用しているのだ。
だが、共感を意図的に発生させるなど、どうしたら可能になるのか? そんなことが起きていたら、人は気づくのではないだろうか? 実のところ、共感の種類はひとつではないことが明らかになっている。我々の多くが理解している「他者を深く思いやる」タイプの共感は、「情動的共感」と呼ばれており、これは真の共感といえる。
論文の著者の一人で、ノッティンガム・トレント大学のパーソナリティ心理学・精神病理学科のナジャ・ハイム准教授によれば、この概念は「他者が感じていることを自分もどのくらい感じるかの度合い」だ。
「たとえば、あなたが悲しんでいるとき、それによって私も悲しくなる、といったことです。しかし、『認知的共感』という別の共感もあります。それは、『私はあなたの考えていることがわかるし、あなたの精神状態もわかる。だが、私にとってはどうでもいいことだ』というものです。
ただ、この場合、相手の心理状態に関する情報は、ダークエンパスにとって重要です。というのも、ダークエンパスがあなたの行動を予測したい場合、彼らはあなたの考えていることを知る必要があるからです。そして、それによってあなたをコントロールしようとするのです」
自分が気づかぬままにこのようなことをされてしまった場合、ひどく不安を感じることがある。イベントマネジメント業に従事するヤスミンは、次のような経験をした。
「とても社交的な雰囲気の職場で、新しい上司のエレインは金曜の午後になると、炭酸入りのお酒のボトルを部下の各デスクに配りに来ました。そういう日の夜はたいてい、パブに繰り出すことになりました」 まもなく、その上司は自分の私生活に関する秘密を打ち明けはじめ、そのうち促されるままに、ヤスミンも妊活がうまくいかない苦労を明かすようになった。
「自分の上司が友人でありメンターでもあるのは素晴らしいことだと思ったし、職場環境も楽しくなるんじゃないかと思ったんです」
おかしなことになりはじめたのは、エレインがストレスで健康を害していると打ち明けたときからだ。彼女はヤスミンに対し、頻繁に余分の仕事を頼むようになった。
「管理職の彼女が大変なプレッシャーを感じているのはわかっていたので、喜んで助けになりたいと思いました。それに、私がもうすぐ昇進できると匂わせてきたんです。でも、その後、彼女はかなりあからさまに、子供をもつことを遅らせたほうがいいと私が思うように仕向けてきました。35歳ならまだたっぷり時間はあるとか、自分のキャリアや将来の稼ぎを優先させたほうがいいんじゃない? みたいなことをよく言ってきました。
許しちゃいけない領域にまで踏み込まれていたと気づくのは、ずっと後のことです。そのときは本気で私のことを心配してくれていると思っていました」
数ヵ月後、ヤスミンはついに自身が妊娠したことを知る。
「エレインにはそもそも打ち明けにくかったんですが、まさかあれほどひどい反応をされるとは思ってませんでした。すごく攻撃的になって叫び出したんです。『どうして私にこんな仕打ちができるわけ? あれだけいろいろしてやったのに!』って。
その後、彼女は私をミーティングから締め出し、あんなに匂わせていた昇進の件も当然なかったことになりました。人事に言ってもよかったんですが、でも、それで何が手に入ったっていうんでしょう? もう二度とあの女とは働きたくなかったので、娘が生まれる前に違う部署に移りました。いまでも、彼女を信じた自分を思い出して嫌な気持ちになります」(続く)
ダークエンパスはターゲットの警戒心を解き、独特の方法で人を操っていく。だが、職場だけでなく、家族や恋人、友人関係でも、自分が被害に遭う前にダークエンパスを見抜くことは可能かもしれない。後編では、彼らの具体的な言動を例とともに解説する。