NY市長選、マムダニ氏優勢 「億万長者との戦い」公約、トランプ氏は批判「共産主義者」

8日、ニューヨーク市で記者会見に臨むマムダニ氏(ロイター)

【ニューヨーク=本間英士】11月4日の米ニューヨーク市長選を控え、急進左派の民主党候補、マムダニ・ニューヨーク州下院議員(34)が最有力候補となっている。社会主義的政策を志向するマムダニ氏は「億万長者との戦い」を公約に掲げ、物価高に苦しむ市民らの支持を獲得。一方、大企業や富裕層の課税強化など急進的政策も打ち出し、トランプ大統領は「狂った共産主義者」と非難する。民主党内にも懸念の声は根強い。

初のイスラム系市長へ

「ニューヨーカーとして生きてきた私が経験から学んだのは、この街で暮らすにはあまりにも多くの生活費がかかるという現実だ」

今月16日のテレビ討論会でこう訴えたマムダニ氏は、家賃値上げ凍結や保育の拡充、市営バス無料化など生活に直結した公約を掲げた。全米随一の物価高に苦しむ市民や既存政治に不満を抱く若者らを魅了する。

インド系のマムダニ氏はアフリカのウガンダで生まれ、7歳でニューヨークに移住した移民だ。当選すれば初のイスラム教徒のニューヨーク市長となる。市長選に名乗りを上げた1年前はほぼ無名だったが、巧みな弁舌やSNSを活用した選挙戦術で知名度が急上昇。6月の民主党予備選では本命と目されたクオモ前ニューヨーク州知事(67)を破り、米メディアに「大番狂わせ」と報じられた。

このほか、移民への寛容な姿勢を示しており、性的少数者の権利擁護も強調。政治的信条が近いサンダース上院議員はマムダニ氏を「民主党の未来だ」と称賛する。2028年大統領選出馬を視野に入れるオカシオコルテス下院議員ら党内の有力左派も支持表明している。

民主党内にも警戒感

一方、マムダニ氏は公約に掲げる生活支援策に必要な100億ドルともいわれる財源を大企業や高所得者への課税強化で賄おうとしており、ウォール街関係者は反発。マムダニ氏が当選すれば多くの富裕層が市外に流出するとみる向きもあり、対抗馬のクオモ氏もマムダニ氏の公約を「極端で実現不可能だ」と批判する。

ユダヤ系移民の多いニューヨーク市では異例となるイスラエルへの批判的姿勢も崩さない。ネタニヤフ首相への非難も強めており、市長に当選した場合には国際刑事裁判所(ICC)が同氏への逮捕状を出していることを踏まえ、ニューヨークを訪問した場合は逮捕すると示唆している。

トランプ政権との対決姿勢も前面に打ち出しており、マムダニ氏を「狂った共産主義者」と呼ぶトランプ氏はニューヨーク市への州兵派遣や、連邦予算の配分凍結を警告する。

急進的な政策には民主党内でも警戒感が根強い。ホークル・ニューヨーク州知事は「トランプ氏に立ち向かえるリーダーが必要だ」と支持しつつ、「全ての政策に賛同するわけではない」と付け加えた。党内の中道派も沈黙を続ける。

「トランプ市長」誕生の口実に?

現職のアダムズ氏は昨年9月に汚職事件で起訴されたことなどを受けて支持率が低迷し、今年9月に市長選からの撤退を表明した。

米キニピアック大が10月上旬に実施した世論調査では、マムダニ氏の支持率が46%と優勢を保ち、中道派のクオモ氏が33%で続く。共和党候補で防犯活動NPO「ガーディアン・エンジェルス」創設者のスリワ氏(71)は15%だった。

民主党予備選で敗れ、無所属で出馬するクオモ氏は長年の政治手腕に定評があるものの、21年にセクハラ疑惑で州知事を辞任したことが影を落とす。クオモ氏はテレビ討論会でマムダニ氏の経験不足を指摘。「過度なリベラル」であるマムダニ氏が勝利すれば、「トランプ氏がニューヨーク市を乗っ取る口実となり、『トランプ市長』が誕生するだろう」と警告する。

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