ファストフードで脳に貯まったマイクロプラスチックはメンタルに影響する

Image: 三浦一紀 - Generated with Dall-E 3

加工食品がよくない理由は、プラスチックだった?

海の生物から人間まで、生き物の体の中からさまざまな量のマイクロプラスチックが検出されてきています。小さなプラスチック粒子であるマイクロプラスチック、海の生物に深刻な影響を与えていると話題ですが、人間の脳の中にもスプーン1杯分が見つかったことが最近の研究でわかりました。そして、研究チームは脳内に蓄積されたプラスチックが健康に及ぼす影響を調査しました。

学術誌Brain Medicineに発表された新研究によると、マイクロプラスチックが、超加工食品とうつ病や認知症などの神経疾患をつなぐ「見落とされていた原因」かもしれないと指摘されています。

チキンナゲットは鶏むね肉の30倍のマイクロプラスチック

今、人間誰もが心配すべきことがいろいろなところから出てきているんです。アメリカなどの国では、高度に加工された食品が食事全体の50%以上を占めていますが、こういった食品には自然な未加工食品よりもずっと多くのマイクロプラスチックが含まれているのです。

と、この研究の主任研究者でオタワ大学の精神科医Nicholas Fabiano氏は説明しています。

実は、複数の研究で食品が加工されればされるほど、マイクロプラスチックの含有量が多くなる傾向があることが示されています。ある研究では、チキンナゲットには鶏むね肉の30倍ものマイクロプラスチックが1gあたりに含まれていることが判明しています。これは、超加工食品が加工や包装の過程でより多くのプラスチックにさらされることが原因であると Food Processing Forumは指摘しています。

マイクロプラスチックは脳に到達してしまう大きさ

他の研究では、マイクロプラスチックが血液脳関門を通過できることが示されています。血液脳関門とは、脳を取り囲む細胞の保護層のこと。脳組織への血液中からの有害な物質の侵入を防ぎ、よい化学物質を脳内に保つ役割をしています。また、ニューメキシコ大学のAlexander Nihart氏、Marcus Garcia氏、Eliane El Hayek氏の研究では、マイクロプラスチックが脂肪分子に付着して血液脳関門を通過すると説明されています。

今回の研究論文では、マイクロプラスチックの粒子が脳内に侵入すると、細胞を損傷し神経疾患のリスクを高める酸化ストレスを引き起こすと指摘しています。また、マイクロプラスチックがうつ病や認知症などの神経精神疾患に関与する神経伝達物質に特に影響を与えていると研究チームは考えているとのこと。もちろんこれには、さらなる研究による検証が必要となってきます。

こうした有害な影響は超加工食品によって引き起こされる作用と非常によく似ていると研究チームは指摘しています。以前行なわれたある研究では、超加工食品を多く摂取する人は、うつ病、不安、不眠などのリスクが有意に高いことがわかっています。また、複数の研究でもこういった食生活と認知症リスクの増加を関連づけています。

これらの結果を踏まえ、今回の研究論文を発表した研究チームは、マイクロプラスチックが超加工食品の摂取と関連する神経疾患の「隠れた原因」である可能性があるとしているのです。

超加工食品はメンタルヘルスに悪影響

この考えが特に説得力があるのは、生物の仕組みに似た影響がたくさん見られるからです。超加工食品は、体の炎症や酸化ストレス、遺伝子の働き方の変化、ミトコンドリア機能障害、神経伝達物質システムの乱れを通して、メンタルヘルスに悪い影響を与えることがわかっています。そして、マイクロプラスチックも、ほとんど同じような経路で体に影響を与えているように見えるのです。

と、共同著者でオーストラリアのディーキン大学の研究員Wolfgang Marx氏は話しています。

さて、ここまでは悪いことばかりでしたが、希望もちゃんとあります。Brain Medicine誌に掲載された研究では、「アフェレシス療法」という確立された医療技術によって、体内からマイクロプラスチックを除去できる可能性があるという初の証拠が掲載されています。

マイクロプラスチックは除去できる

アフェレシス療法は、まず患者の血液を体外に取り出し、機械に通して血漿(けっしょう)と血球に分離。その後、血漿をフィルターに通してマイクロプラスチックなどの不要物質を取り除き、きれいになった血漿と血球を体内に戻すというもの。

これは比較的シンプルな技術で、世界中で特定のタイプの献血、治療目的、幹細胞の採取などに広く利用されています。今回の研究では21人の患者に対して、2回以上の二重ろ過付き体外アフェレーシス療法を行なった結果、血液中のマイクロプラスチックを除去することに成功したと報告されています。

マイクロプラスチックに触れるのを減らすために、もっと安全な食品や包装を選ぶことが大切です。でも、それだけでなく、体の中からマイクロプラスチックを取り除く方法を調べることも必要です。

と、本研究のリーダーでロンドンのキングス・カレッジのStefan Bornstein教授は話しています。

「私たちの最初の研究では、アフェレーシスという方法がマイクロプラスチックを体から取り除くための道であることがわかりましたが、まだ多くの研究が必要です」とBornstein教授は説明しています 。つまり、世界中でプラスチック問題がどんどん深刻になる中で、マイクロプラスチックから体を守る方法を見つけることは、文字通り「心(脳)をクリアにする」手助けになるかもしれません。

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