関電工「高卒」1000万円超、ブルーカラー人材を奪取 AI普及で電気工事に特需
街中で見かける電線工事の現場技能者が、激しい人材争奪戦を背景に、いまや年収1000万円を超える報酬を手にしている。 【関連画像】手元の「ホットスティック(絶縁された操作棒)」を自在に操り、作業を進める(写真=都築 雅人) 2026年1月、都内の閑静な住宅街を取材で訪れると、高所作業車に乗り込んだ熟練技能者が機体を縦横無尽に操り、地上約15mの配電線へ神経を集中させていた。6600ボルトの高圧に注意を払いながら、古い電柱から新しい電柱へ配電線を移し替えていく。 こうした工事を担う関電工の技能者は、腕を磨けば年収1000万円超に達することもある。多くは高卒で入社した社員だ。 高年収のカギは、基本給に上乗せされる「能率給」にある。安全と品質を守りつつ、段取り良く工事をこなせば、成果が報酬に跳ね返る。熟練技能者は「現場を率いる作業長なら、成果次第で営業所長より高給なこともある」と明かす。若手も「同級生より収入が大幅に多くて驚いた。駅近の築浅マンションの寮に月1万円で入れ、暮らしやすくお金もたまる」と話す。 現場の人手不足を受け、関電工は待遇改善に踏み切っている。2025年4月、技能職(高卒)の初任給を一律5万円引き上げ、月給26万円とした。併せて手当も見直し、賃金水準を底上げする。さらに57歳や60歳を超えると給与が下がりやすかった仕組みも改め、現場で活躍している限りは給料を減らさない制度へ切り替えた。
同社の杉田裕市CHRO(最高人事責任者)は「採用は他産業も巻き込む競争。手厚い処遇でなければ入社や定着がままならない」と語り、危機意識を隠さない。「将来は業界全体の賃金水準を引き上げたい」とも意欲を示す。 背景にあるのは、人工知能(AI)普及だ。データセンター(DC)や半導体工場の整備、再開発、配電設備の更新で、電力工事の需要が膨らんでいる。大手発電会社の社長は「これまでと異なるのは、成熟社会にもかかわらず電力需要が増すという異例の時代が来た」と強調する。 元請けの建設会社では、下請けの電気設備の専門工事会社(サブコン)を確保できなければ着工できないという見方が強まっている。例えば、DCが集積する需要地では電力系統への接続申し込みが集中し、接続に10年以上かかるケースがあるとされる。 かつては安値や無理な工期も辞さなかったサブコンだが、いまは余力が乏しく、元請けを選別し強気の価格交渉に臨む。そうした「逆襲劇」の裏側を支えるのが、電気工事の技能者である。 ●震災後も新卒採用続け、直用2100人体制に 一方で、協力会社と呼ばれ、サブコンから工事を請け負う地方中小企業などに属する電気工事の技能者は高齢化が進む。関電工は施工力を維持するため、技能を社内に抱える「直用」を手放さず、採用と育成を自前で回す方針を貫く。 「東日本大震災後の(仕事が減った)苦しい時代でも、電力の安定供給を担うという使命感のもと、高卒技能者の新卒採用をしっかり続けてきた」(杉田CHRO)からこそ、現在では関電工の直用技能者は約2100人に達した。社員総数の4分の1を超える規模で、国内最大級だと見られる。 工事需要が膨らむ局面では、施工力の確保こそが受注力を左右する。直用部隊を築き上げた同社は、需要拡大に即応できる体制を整えている点が大きな強みだ。 関電工の2026年3月期の売上高は前期比9%増の7350億円、営業利益は37%増の800億円で営業利益率は10%を超える見通しだ。足元の株価は1年前に比べ、2倍以上に達している。現場を大事にする経営が、着実に成果として表れている。
佐藤 斗夢