3人重体の衝撃、1万人が宝木を奪い合う岡山・裸祭り 外国人も1割 問われる伝統と安全
「裸祭り」として知られ、岡山市東区の西大寺観音院で室町時代から続く国の重要無形民俗文化財「西大寺会陽(えよう)」で21日、祭りの参加者6人が救急搬送され、うち3人が意識不明となる事故が起きた。長野県諏訪市の諏訪大社御柱(おんばしら)祭や大阪府岸和田市のだんじり祭など勇壮な祭りには危険を伴うものも少なくないが、専門家は「そうしたスリルこそが長年にわたり祭りを維持してきた側面がある」と指摘。伝統を守ることと安全を確保することを両立していく難しさが浮かび上がる。
1万人が2本を争奪
主催する西大寺会陽奉賛会や岡山県警などによると、事故が起きたのは祭りがクライマックスに近づいた21日午後10時15分ごろ。消防警備本部に「人が倒れている」と連絡があり、42~58歳の男性3人が意識不明の状態で相次いで発見された。このうち42歳の男性はのちに意識を取り戻したが、2人は重体のままだという。
平成28年に国の重要無形民俗文化財に指定された西大寺会陽は、まわし姿の裸衆が福男を目指し、本堂2階から投げ込まれる長さ約20センチの「宝木(しんぎ)」2本を奪い合う。負傷した6人はいずれも裸衆で、宝木が投げ入れられた直後にもみ合いが生じる中、負傷したとみられる。
西大寺会陽奉賛会の大森実会長によると、今年は例年とほぼ同じ規模の約1万人の裸衆が参加したが、例年に比べ初めての参加者が多く、外国人も1割ほどいたという。警察や民間の警備会社、ボランティアら約1150人で警備していたが、事故は防げなかった。
「西大寺会陽」で暗闇の中、宝木を奪い合う参加者=平成31年2月、岡山市東区の西大寺観音院(鈴木健児撮影)「自己責任で」と注意喚起
西大寺会陽では平成19年にも他の裸衆の下敷きになった男性が死亡する事故が発生。これを受けて安全対策が強化され、22年からは宝木を投下する時刻を午前0時から2時間前倒しして午後10時に変更した。
参加申し込みのホームページでは「他の参加者との接触、転倒などにより事故が発生する危険性がある」と注意をうながし、眼鏡やネックレスなどの着用や酒を飲んでの参加の禁止を明記。今年は飲酒の有無をチェックする検問を2カ所に増やした。また、転倒した際は腹ばいになるなど身を守るための注意事項も記している。
そのうえで「自己責任のもと参加してください。いかなる盗難、怪我、死亡などの事故に関して、主催者は一切の責任を負いません」としている。
大森会長は「参加される方には注意喚起してきたが、事故を防げなかった。来年の開催は原因を究明したうえで、安全確保が最優先になる。なによりも、けがをされた方の一日も早い回復をお祈りしている」と話した。
宮司が告発されたケースも
各地で営まれる祭りには西大寺会陽と同様、危険を伴うものも少なくなく、事故対策に苦慮している。
福岡の夏の風物詩として知られる博多祇園山笠では令和5年、転倒した男性が重さ約1トンの山車にひかれて死亡。翌年は警戒のため山車に並走する人員を増やすなどの対策を講じたうえで行われた。
諏訪大社で6年に1度営まれる御柱祭では平成22年に2人、28年にも1人が死亡する事故が発生。28年の事故をめぐっては、事故を防止する注意義務を怠ったとして弁護士らが宮司を業務上過失致死罪で告発したが、不起訴処分となった。
こうした危険を伴う祭礼が長年にわたり営まれてきた理由について、法政大学の武田俊輔教授(社会学)は「単なる神事ではなく、祭りには『奇跡』が求められる。西大寺会陽であれば幸福を呼ぶ宝木が全員にいきわたるのではなく、2人だけだから意味がある。岸和田だんじり祭なども含め競い合いがあるからこそ熱狂を呼び、それが祭りを続けるモチベーションになってきた」と指摘する。
ただ、かつては背景を理解した人が危険も承知で参加してきたが、メディアやインターネットの普及で祭りに向けられるまなざしも変化してきた。「ローカルであれば自己責任で問題なかったことが、その祭りの文脈を理解していない人からみれば危険、となる。事故が起きれば社会問題化しやすくなった」
そのうえで、事故を防ぐには参加者を地域ごとの輪番にするなど人数に制限を設けることも考えられるとし、「環境の変化に伴い、祭りも変化していかざるを得ない。伝統と安全性の間で折り合いをつける方策を見いだしてほしい」としている。(福富正大)