陳述擬制とは?訴訟告知なぜ行われた?奥谷県議が立花孝志氏を「名誉毀損」で訴えた裁判はじまる【弁護士解説】

兵庫県議の奥谷謙一氏が、政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏らに対し、名誉毀損に基づく損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が、2月17日に神戸地裁で開かれたと報じられました。

この訴訟では、奥谷氏が、立花孝志氏の知事選中の街頭演説等での発言によって名誉を毀損されたとして、約1100万円の損害賠償を求めています。報道によると、立花氏側は口頭弁論に出席していなかったとのことです。第1回期日のポイントを簡単に解説します。

●立花氏が欠席した理由

立花氏は、亡くなった元兵庫県議・竹内英明氏への名誉毀損の罪で起訴され、勾留が続いています。

このため、第1回口頭弁論に立花氏は出頭しておらず、法廷には原告・奥谷氏とその代理人のみが出席しました。 なお、この訴訟で立花氏には今のところ代理人弁護士はついていないそうです。

そもそも、民事訴訟では被告が第1回期日に欠席することはそれほど珍しくありません。

第1回期日は原告と裁判所の都合で決まるため、被告としては準備が間に合わなかったり、日程の都合がつかないことも多々あります。仮に立花氏が勾留中でなくても、第1回期日に出席していなかった可能性も十分にあります。

●裁判の期日を欠席しても問題ないの?

民事訴訟では、被告が期日に出頭しなくても、あらかじめ提出した答弁書や準備書面を「口頭で陳述したものとみなす」ことができる仕組みがあります。これを陳述擬制(民事訴訟法158条)といいます。

本人や代理人が来られない事情があっても、書面で主張を出していれば、欠席のままでも裁判が進められる制度です。

立花氏からは第1回期日までに答弁書が提出されているそうです。内容は形式的なもので、「原告の請求を棄却すること」「訴訟費用は原告の負担とすること」を求める一方、具体的な事実の認否や反論は「追って主張する」としており、実質的な内容についての主張はまだ出ていないようです。

原告の記者会見によると、今回は、裁判所が訴状と答弁書の採用を保留したそうです。原告代理人弁護士によれば、その理由は被告・立花氏側への配慮ではないかといいます。

立花氏は現時点で代理人がおらず、今後の対応が不透明なため、裁判所は「立花氏が次回以降も欠席したままとなる」可能性を想定しているようです。

裁判所としては、一方当事者が事実上不在のままで裁判が進行していくことは公平の観点から避けたいと考えると思われます。

陳述擬制は初回しか使えず、続行期日で欠席を続けると、自白したとみなされるリスクがあります(擬制自白といいます)。そのため、立花氏側からある程度具体的な主張がなされた時点で陳述擬制を使えるようにし、当事者を公平に扱おうとしたものと思われます。

したがって、今回の期日では書面の採用なども先送りされた状態で、事実上あまり進捗がなかったといえます。

●「訴訟告知」ってなに?

今回の訴訟では、原告・奥谷氏から、元日本維新の会の3名の県議に対して「訴訟告知」がなされたそうです。

訴訟告知(民事訴訟法53条)とは、簡単にいえば、訴訟の係属中に、第三者に対して「この訴訟が行われていること」と「結果によってはあなたの権利・利益に影響があるかもしれないこと」を通知し、訴訟への参加を促す手続きです。

告知された人は、原告や被告という当事者そのものにならず、原告や被告を「補助」するために訴訟に「参加」することができます。これを補助参加といいます。(他の参加方法もありますが省略します)

告知を受けた人は、参加するかどうかを決められますし、原告側に補助参加することも、被告側に補助参加することもできます。

なお、一度「参加しない」と表明したあとに、途中から補助参加することも可能です。

●なぜ訴訟告知なの?全員訴えればよいのでは?

奥谷氏側は、なぜこの3名を、立花氏の「共同被告」として訴えるのではなく、訴訟告知をしたのでしょうか。

その理由は定かではありませんが、たとえば以下のようにも考えられそうです。

全員を訴える、ということは、原告が3人を「立花氏と一緒に損害賠償責任を負うべき相手」として訴えることを意味します。 これに対し、訴訟告知は「この訴訟の結果があなたにも影響する可能性があるので、参加するかどうか決めてください」と呼びかける手続きです。

先に述べたように、原告側に参加することも、被告側に参加することもできますが、原告側としては、3人に「原告側として」補助参加することを促しているのではないでしょうか。

今回の裁判では、立花氏は「原告の請求を棄却する」ことを求めて争うそうです。 具体的には、立花氏は、自身の発言が「相当な根拠」に基づいていて、真実だと信じたことが相当だと主張することが考えられます。 そうすると、立花氏としては、「3人から、これだけ確実な情報や資料を受け取っていた」と主張することになりそうです。

しかし、3人としては、百条委員会や内部の話を事細かに立花氏にリークしていたとなれば、立場上様々な責任を問われかねません。

そうすると、3人は「情報提供は限定的で、立花氏が話を大きくしたにすぎない」と主張することが考えられます。これは立花氏の主張として予想されるものとは相反しますし、むしろ奥谷氏側の主張(立花氏の演説は虚偽・デマである)と整合することになります。

そのようなわけで、原告の奥谷氏側としては、3人を立花氏とともに被告として訴えるのではなく、原告側に補助参加することを求めて訴訟告知した、ということは一応考えられます。

●訴訟告知を受けた3人は「参加しない」と表明

3名の代理人から「本訴訟に参加する利益を有していないため、参加しない」旨の書面が裁判所に提出されているそうです。

補助参加できるのは、訴訟の結果について利害関係を有する場合に限られます。 3名の代理人の主張は、この3名は訴訟の結果について利害関係を有しておらず、したがって補助参加の要件を満たさないため訴訟に参加しません、という主張と考えられます。

原告の記者会見によると、3名の代理人は川崎貴浩弁護士とのことです。川崎弁護士は、かつて「NHKから国民を守る党」の副代表を務め、参院選に同党公認で出馬した経歴があります。

立花氏側の弁護士が、訴訟告知を受けた3名の代理人として「参加しない」と回答してきた形になっており、原告側は記者会見で、立花氏と3名の県議の関係の近さを指摘しています。

なお、このまま3人が訴訟に参加しなくても、この裁判で認定された事実について、後日、別の訴訟、たとえば奥谷氏が3人を訴えた場合などに、3人がそれを覆せなくなる場合があります。これを参加的効力といいますが、専門的になりすぎるので解説は割愛します。

●今後どうなるか

立花氏は、答弁書で請求の棄却を求めています。おそらくは、確実な資料に基づいた発言であるとして、真実相当性について争うものと考えられます。

原告代理人の会見では、立花氏には弁護士費用がない可能性が示唆されています。

立花氏は名誉毀損訴訟を多く手がけ、本人訴訟で勝訴した経験もありますから、能力的には弁護士をつけずに訴訟を続けることもできるでしょう。

しかし、現状は身柄を拘束されており、書面の作成・提出、証拠の収集、期日出頭といった基本的な裁判のための活動が困難です。このため、今後は弁護士を依頼して争っていくものと思われます。

次回期日(2026年4月15日)までに、立花氏が弁護士を選任するか、するとしたら誰なのか。あるいは本人訴訟のままで準備書面などを提出するか。今後の動向が注目されます。

監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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