小学教員合格者280人中204人辞退 大学3年生の「青田買い」に踏み切る高知県の現実

高知県教育委員会の辞令交付式=4月1日、高知市(前川康二撮影)

さまざまな業種で人手不足が深刻化する中、各自治体が教員確保に苦心している。特に幅広い教科を教える必要のある小学校教諭が深刻で、高知県は令和7年度採用(6年度実施)の1次試験を他の地域より約1カ月早く実施したものの、合格者の約7割が辞退。12月に実施した2次募集で何とか例年並みの人数を確保した。全国的にも6年度の採用倍率は2・2倍と過去最低を記録。文部科学省は今年度から試験日の基準を民間並みの5月11日に前倒しするよう各教育委員会に要請し、一部では試験を1年前倒しして大学3年生に内定を出す制度を創設するなど試行錯誤が続く。

倍率は例年並みも

「教職員は決して楽ではないが非常にやりがいのある仕事。高知の教育をともに進めていきましょう」。高知県教育委員会の辞令交付式が開かれた4月1日、高知市内の会場で今城純子教育長が新たに採用された教職員271人に呼びかけた。

県教委によると、7年度の採用試験を経た採用者の内訳は小学教諭127人、中学教諭42人、高校教諭44人など。いずれもほぼ採用予定人数に達しており、競争倍率は全体で約4・8倍と例年並みとなった。

県教委が昨年6月に実施した1次試験で、小学校教員(募集人員130人程度)に578人が応募し、2次の面接試験を経て前年より80人多い280人が合格した。しかし、10月末までに204人が辞退。県教委は13人を追加で合格とし、11月時点の採用内定者は89人に。その後、12月に2回目の試験を実施して何とか人員を確保した。

辞退者は内定者全体の7割にも及んだが、県教委の担当者は「より多くの受験者を集めることを第一に採用活動を進めており、例年より特別、辞退者が多かったわけではない」と説明する。

受験の間口広げる

県教委は1次試験を採用試験実施の目安となる文科省の標準日(6月16日)より早い6月1日に実施した。平成29年度以降は高知市内に加え、大阪府内にも試験会場を設けている。他と時期をずらすことで、多くの大学がある関西圏で「本命前の腕だめし」の受験を可能にしており、昨年度は大阪会場で高知会場の約2・5倍に上る393人が試験を受けた。いわば一定の辞退者は織り込み済みというわけだ。

「受験の間口を広げ、高知ならではの魅力を知ってもらうことが採用につながる」と県教委の担当者は説明する。大阪会場で受験し、4月から小学校教諭となった兵庫県西宮市出身の川西羽純さん(22)は「大阪で受験できると聞いたのが応募のきっかけ。説明会でも担当者の熱意を感じて高知で教員になろうと決めた」と振り返る。

試行錯誤するしか…

全国的に小学校教員の不足は深刻だ。文科省によると、小学校教員試験の採用倍率は平成12年度の12・5倍から下落傾向が続き、令和6年度は2・2倍で過去最低を記録した。背景には、定年による大量退職に加え、産休・育休取得者や特別支援学級の増加で採用枠の拡大がある。労働時間が長く激務というイメージもつきまとい、近年採用を拡大している民間企業との競合も厳しさを増しているという。

文科省は教員確保に向け、今年度は「標準日」を5月11日に前倒し。各教育委員会に対し、免許を保有しているものの長く教員として働いていない、いわゆる「ペーパーティーチャー」の現場復帰や多様な経験を持つ社会人経験者の採用を促すなど取り組みを進める。

新潟、茨城県は大学3年生の6月ごろに1年前倒しで受験できるようにしており、高知県も今年から同様の制度の導入を決めた。青森県は昨年度から幼稚園や中学校の教員免許を持っていれば受験できる特別選考を実施している。特別選考で合格後3年以内に小学校の教員免許を取れば正規採用し、取得前でも臨時講師として勤務できる。

文科省の担当者は「定年退職や民間企業との競合は構造的な問題で、教員不足を一朝一夕で解決するのは難しい。各現場で教員の魅力を発信するなど試行錯誤するしかない」と話している。(前川康二)

教員確保の実現へ危機感 国や自治体の努力不可欠 中教審が給与アップを答申

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