ドイツ主導の欧州製戦闘機計画、GCAP亀裂による新パートナー獲得にも期待
エアバスを中心としたドイツ産業界とインドラを中心としたスペイン産業界は欧州製戦闘機計画で協力する可能性が高く、スウェーデン、ベルギー、ポーランド、オランダを潜在的なパートナー候補と見なし、さらにGCAPに亀裂が生じれば新たなパートナーシップの機会が開けるとも期待している。
参考:Europe’s Future Fighter Shifts From Deadlock To Divorce
ドイツ企業8社=エアバス、オートフルーク、ディール・ディフェンス、ヘンゾルト、リープヘル、MBDA、MTUエアロ・エンジンズ、ローデ・シュワルツはILA Berlin 2026で「Team Gen 6」と名付けられた枠組みを発表、配布された共同声明の中で「集団安全保障のための卓越した欧州製戦闘機という共通目標を達成するためには効果的な新体制が今や不可欠である」「我々には一刻の猶予もない。ドイツ側として責任を引き受け行動する能力を示すとともに、強力な主導権を持ってネットワーク化された航空兵器システムへの道を断固として進み続けなければならない」と言及。
An exciting step for European sovereignty at ILA Berlin: “Team Gen 6”, a group of eight leading German defence and aviation companies signed a strategic positioning paper. The German and French governments have announced a realignment of the European Future Combat Air System… pic.twitter.com/aZcjAaO6dE
— Airbus Defence (@AirbusDefence) June 11, 2026
さらに「スペインの航空産業界もドイツのパートナー企業と緊密に連携し、インドラ、エアバス・スペイン部門、グルポ・オエシア、GMV、ITP、セナーといった企業とも協力関係を築いている」と付け加えており、Team Gen 6の取り組みはドイツ産業界の単独ではなく「ドイツ産業界とスペイン産業界が協力する形」を示唆し、エアバス防衛部門のミヒャエル・ショルホルン氏も「今こそアクセルを踏み込む時だ」と述べ、FCASの後継となる欧州プロジェクトについて迅速な行動を促した。
インドラも11日「スペインの次世代戦闘システム=NGWS産業を牽引する国内主要企業(インドラ、エアバス・スペイン部門、グルポ・オエシア、GMV、ITP、セナー)は本日、FCAS/NGWSプログラムのコミットメントに関する共同宣言に署名した」「この文書にはNGWSプログラムの継続または発展に関する意思決定を進める必要性の共通見解が盛り込まれている」「ドイツの産業界も本日、同様の声明を発表して欧州の安全保障に結束し、FCASの新たな針路に向けた準備が整っていることを示した」と発表。
出典:indra
インドラの声明に「FCAS」という語句が登場するのは「FCASの主要構成要素だった有人戦闘機=NGFの共同開発が中止されただけで、他の要素(無人戦闘機、センサー、ステルス技術、クラウド・ネットワークなど)は継続される余地を残している」という意味で、フランスとドイツは7月17日にFCASの他の要素について協議を行う予定だ。
Aviationweekは12日「フランスとドイツがFCAS計画で合意に至った当初、次世代戦闘機開発の意欲は軍事的な必然性というよりも産業振興や雇用創出という側面が強かったが、2022年にロシアがウクライナへ本格侵攻すると次世代戦闘機への意識に変化をもたらし、両国にとって開発意欲は産業振興や雇用創出という側面から軍事的な必然性に切り替わった。これが次世代戦闘機への要求性能に対する違いを浮き彫りにし、フランスは空母での運用が可能で核兵器を搭載できる戦闘機を必要とし、ドイツはそれを必要としていなかった」と報じた。
出典:AIRBUS
“エアバスのギヨーム・フォーリ最高経営責任者は2026年5月「ウクライナ情勢が激化する前にFCASの基盤となっていた多くの前提はもはや通用しなくなっており、それが本プロジェクトが直面する2つの大きな課題のうちの1つだ」「プログラムの立ち上げ当初、関係各方面は最小限のコストで次世代戦闘機を実用化するため妥協した」「しかし、欧州の目と鼻の先で戦争が起こり、より広範な紛争の可能性が高まる中で仕様がより重要になっている」と語った”
“フランスとドイツはFCASの主要構成要素だった次世代戦闘機の共同開発で決裂したが、これがどれほど広範に影響を及ぼすかはまだ不明だ。MTUエアロ・エンジンズとサフランは次世代戦闘機のターボジェットエンジンを共同開発するためEuropean Military Engine Team(EUMET)という合弁会社を設立しており、両社はダッソーとエアバスが次世代戦闘機の機体設計で決裂した後もパートナーシップの継続に前向きな姿勢を示している”
“FCASフェーズ1Bの開発資金は今年9月で底をつくため、関係者らはフランスやドイツが今後の対応策を協議する間、現在の開発作業を続けられるようつなぎ資金を求めている。ある関係者は「政府と産業界が年末までに新たな計画で合意することが理想的だ」「とにかくスピードが何よりも重要だ」と言う。次世代戦闘機への要求性能も再検討される可能性が高く、もうドイツとスペインは空母運用という制約を受けていたフランスの要求仕様に自国のニーズを無理やり押し込める必要はない”
“ドイツは大型の長射程兵器の搭載、機体内部の大きなウェポンベイ、大きな航続距離を備えた制空戦闘機を求めており、そのため機体の大型化と大きな推力が必要で、ステルス性能についてもロッキード・マーティンのF-35よりも優れたものを要求している。ドイツのピストリウス国防相は「今後どのように進むかを述べるのは時期尚早だ」としながらも「政府が数ヶ月にわたり様々な関係者と協議を重ねてきた」と指摘し、ドイツとスペインは新たな主要パートナーや小規模な参加企業を探しながら引き続き協力関係を維持していく可能性が高い”
出典:Dassault Aviation
“政府関係者や業界関係者は、あまりにも多くのパートナーを巻き込むことで「要件のすり合わせやプログラムの実行が不可能になる」という落とし穴を避けたいと考えている。ピストリウス国防相も「現在の経験値があればFCASのプログラム構成をあのようにはしなかっただろう」「これは我々が学ぶべき教訓だ」「戦闘機プログラムは野心的で大規模な取り組みだったが現実と衝突してしまった」「我々はそれを受け入れなければならない」と述べた”
“潜在的なプログラムパートナーとしてスウェーデンが挙げられるが、同国の戦闘機に対する要求は控えめなものだ。FCASのオブザーバー参加国だったベルギー、さらにポーランドやオランダも小規模な参加者として貢献できる能力がある。そして産業界関係者は静かに競合するGCAPの動向を注視している。GCAPは緊張がくすぶっており、日本とイタリアはプログラムの一部要素について不満を表明している。英国では6月11日に国防相の辞任を招いた国防費増額をめぐる内紛が勃発している。もしGCAPにも亀裂が生じれば新たなパートナーシップの機会が開ける可能性がある”
出典:GlobalCombatAir
日本視点だと「FCASの有人戦闘機開発でフランスと決裂したドイツやスペインをGCAPに参加させるかどうか」について憶測が流れているが、欧州視点だと「FCASと同じようにGCAPも決裂する可能性を秘めているため、もしそうなれば有人戦闘機開発で新たなパートナーシップの機会が開けるかもしれない」と密かに期待しており、恐らく次世代戦闘機の配備時期に関するニーズ=2035年を主張する日本ではなく、2040年でも間に合う英国とイタリアの取り込みを狙っているのかもしれない。
欧州製戦闘機開発の枠組みがドイツ、スペイン、英国、イタリアに再編されればタイフーン開発の再来で、この1年でそこまで状況がダイナミックに変化するのであれば日本人は度肝を抜かれるだろう。
関連記事:ドイツとスペインの産業界が結集、欧州製戦闘機計画を継続するため協力 関連記事:レオナルドはGCAPへのドイツ参加を歓迎、同時に配備時期への影響も警告 関連記事:独企業8社、欧州製戦闘機の開発に向けて新たな枠組みを6月10日に発表 関連記事:スペイン、トルコ製第5世代戦闘機に関して予備的な政府間交渉を開始 関連記事:仏独FCASの有人戦闘機開発は中止、6月10日にベルリンで発表予定 関連記事:仏ダッソー、次世代戦闘機開発について傲慢なのはエアバスの方だ 関連記事:エアバス、顧客から要望があればFCASの有人戦闘機2機種開発を支持 関連記事:独首相は仏設計戦闘機ならFCAS離脱を示唆、ベルギー国防相もFCASが死んだと発言 関連記事:独ディフェンスメディア、GCAPはFCASの代替案にはなり得ない 関連記事:仏独西は再編でFCAS生き残りを模索、有人戦闘機の開発は分裂が濃厚 関連記事:伊紙、GCAPにドイツの資金を確保するにはワークシェアの調整が必要 関連記事:伊首相はドイツのGCAP参加に前向き、これに決定的な発言権を持つのは英国
※アイキャッチ画像の出典:Edgewing