焦点:トランプ氏の減税案、低所得者は収入減に

 6月2日、 トランプ米大統領(写真)が、与党共和党が多数派となっている議会での成立を求めている税制・歳出法案に盛り込まれた各種減税・税控除措置には、トランプ氏の主要支持基盤である労働者向けの目玉として掲げた「チップ収入非課税」が含まれている。ホワイトハウスで5月撮影(2025年 ロイター/Leah Millis)

[ワシントン 2日 ロイター] - トランプ米大統領が、与党共和党が多数派となっている議会での成立を求めている税制・歳出法案に盛り込まれた各種減税・税控除措置には、トランプ氏の主要支持基盤である労働者向けの目玉として掲げた「チップ収入非課税」が含まれている。しかし、全体として見れば低所得者にとって恩恵は乏しいどころか、逆に収入減を招くと専門家らが指摘している。

専門家らによると、チップ収入に依存しているのは労働者のごく一部に過ぎず、医療や食品などの分野で支援が削られる痛みの方がはるかに大きいという。

イェール大予算研究所のマーサ・ギンベル所長は「低所得労働者の助けになり得る政策を検討するなら、チップ非課税は私のリストの上位に入らない」と述べた。

幾つかの独立機関の分析によると、議会上院で現在審議中の法案は実質的に貧しい人たちから富める人たちにお金を移転させるとの結論が下されている。

一例としてペンシルベニア大ウォートン・スクール予算モデル(PWBM)は、年収2万2000ドル未満の世帯は税引き後収入が1500ドル減少するのに対し、年収520万ドル超の世帯は10万4000ドルの増収につながると導き出した。議会予算局(CBO)も同様の結論に達した。

<さまざまな制限>

今回のチップ非課税措置では、年収16万ドル以下の労働者は2029年までは課税所得からチップ収入を除外できる。

ただ、チップ収入で稼ぐ人は米国の全労働者の2.5%程度に過ぎない。しかもイェール大予算研究所によると、チップ労働者の37%は既に所得税を払えないほど収入が少なくなっており、この制度の恩恵に浴することができない。

残業代や自動車ローンの利払いに対する控除なども、勤労者世帯へのプラス効果は限られる。どちらも相対的に所得の多い世帯が最大のメリットを享受する仕組みになっているからだ。

ニューヨーク大税法センターの政策ディレクター、ブランドン・デボット氏は「これらは全て、納税額がプラスになるだけの所得がある人々しか恩恵が受けられない」と指摘した。

さらに新たな税控除のプラスよりも、社会保障プログラムの縮小や政府債務増加に伴うマイナスの方がずっと大きい。

CBOの見積もりに基づくと、低所得者向け医療保険「メディケイド」とオバマケアに新たな制限が設けられることで、少なくとも870万人の低所得者が医療保険の加入対象からはじかれる見通しだ。

共和党は、低所得者支援を目的とした子育てと勤労所得の税額控除にも制限を導入。子育て関連の控除枠は28年まで2000ドルから2500ドルに引き上げられ、その後は物価調整されるものの、資格要件を得るには両親が社会保険番号を提出しなければならない。非営利団体の移民研究センターの調査では、これによって450万人の児童が対象外になってしまう。併せて、勤労所得税控除の資格要件も厳格化される。

複数の専門家は、内国歳入庁(IRS)の予算と人員が削減されることで、低所得層がこうした新しい制限に対応するのをIRSが支援しにくくなるとも警告する。

税制・歳出法案が成立すれば、現在36兆2000億ドルに達する連邦政府債務は、3兆8000億ドル上積みされる。

PWBMは、最終的にそのコストの大半が低所得者にのしかかるとみている。セーフティーネットの弱体化と債務返済額の増加を通じて将来的に低所得世帯は生涯収入が8500ドル目減りするが、一部の高所得世帯は生涯収入が1万7800ドル増えると試算した。

PWBMディレクターのケント・スメッターズ氏は「より多い借金とより多い(返済)負担が受け継がれ、誰かがそれを支払わなければならない」と言及した。

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