円安時代の終焉に現実味

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自由貿易から保護貿易の時代転換は、円安から円高トレンドへの転換を誘発する。先週からニューヨーク(NY)市場の色々な人たちと話し合う機会が増え、ドル円にパラダイムシフトが起こっていることをつくづく痛感した。

米国の景気後退は疑うべくもなく、関税によるインフレ再燃の可能性も高い。雇用と価格というデュアル・マンデート(2つの政策目標)を課せられた米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の立場で見れば、この2つの変数を同時に満たす正解はない。利下げに踏み切れば、インフレ再燃のリスクがある。

しかも、トランプ政権のハセット国家経済会議(NEC)委員長は、やはり忠誠心の高さから指名された人物だ。最側近のナバロ通商担当大統領上級顧問は「中国による死」と題する本を執筆したが、読めば経済には疎いことがあらわになっている。トランプ氏の為替論を、家老たちが繰り返し語ることになろう。

頼みは、ベッセント財務長官とラトニック商務長官だが、この2人は、財務長官ポストを争う過程で激しい批判合戦を繰り返し、いまだに政権内でも犬猿の仲だ。

このようなホワイトハウスの実態を知るウォール街の指導的立場にいる人たちが、強引な自国通貨安政策に対して、物申しても、軽くスルーされるは必至。このような成り行きを見せつけられ、世界で、米ドルの国際基軸通貨としての信認は希薄化の道をたどっている。

中央銀行の外貨準備としてドルが売られ、ドルの代替資産とされる金が買われる傾向が加速している。2025年は、金が1トロイオンス3000ドルという超高値にもかかわらず、量的に過去最高を記録する可能性が強まっている。

マーケット感覚で見れば、ドル・インデックスが、この1年で、瞬間的に110をつけた後、本日は100の大台を割り込み、99台まで急落中だ。

一方、円は相互関税国別交渉で、為替問題が議論され、円高容認が声明文の行間に示唆される可能性が強まっている。日米両国が受け入れられる数少ない項目なのだ。日銀は、明言は絶対的に避けるが、円安のマイナス効果にてこずっている。

来たるべき総選挙でも、円安による物価高是正が大きな争点になろう。国際通貨投機筋は、円ロング(買い持ち)のポジションを記録的な額にまで膨らませたのち、円買いを手じまっては買い直しを繰り返し、徐々に円の上値を切り上げている。「狙いは130円台」の声がNY市場では頻繁に聞かれるようになった。

円キャリートレードと異なり、巨大な投機集団が一斉に攻勢をかけるわけではないので、ボディーブローのごとく、影響は中期的趨勢としてじわりマーケットに効いてゆく。

米国債券市場発の「米国債の乱」により、安全資産としての米国債に疑念が生じる過程で、円の安全通貨神話が復活していることも重要だ。

かくして、日米金融当局の暗黙のお墨付きのもと、トレンドは円安から円高にシフトしていく。NYのヘッジファンドと話していると、円安派もいるので、ボラティリティーは相当に激しいドル円相場となりそうだ。

そもそも、為替相場はひとたび方向性が決まると、ある時期に急速に驚くほど進行するものだ。円にしても125円がクロダ・ラインと言われた時期があったが、ひとたび突破されると、後の動きのスピードは速かった。

今の140円台半ばという位置は、なんとも中途半端な水準で、トランプ氏の思わぬ一言でもあれば、一気に130円台に突入するリスクを秘める。これが、いわゆる「トランプ相場」の特徴だ。

株価急落の際に、同氏は「薬が必要」と語ったが、為替の薬は種類を間違えると思わぬ副作用もある。トランプ政権好みの言い回しだが、痛みをともなう「手術=surgical」が必要であろう。

豊島逸夫(としま・いつお)豊島&アソシエイツ代表。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラー。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験とヘッジファンド・欧米年金などの幅広いネットワークをもとに、独立系の立場から自由に分かりやすく経済市場動向を説く。株式・債券・外為・商品を総合的にカバー。日経マネー「豊島逸夫の世界経済の深層真理」を連載。・ブルームバーグ情報提供社コードGLD(Toshima&Associates)・X(旧ツイッター)@jefftoshima

YouTube豊島逸夫チャンネル

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