台頭する国家資本主義 自由と協調の価値損なう

米中の経済覇権争いは、自国産業への補助金合戦の様相も呈している。ワシントンのホワイトハウスで会談したドナルド・トランプ米大統領(右)と中国の習近平国家主席=2026年9月24日、ロイター

 日米欧が多額の補助金を投じ、自国産業を支援する動きを強めている。国家の行き過ぎた介入は民間企業の競争をゆがめる上、保護主義の拡大を招いて自由貿易体制を損なう懸念がある。

 先進国は従来、市場経済を重視する立場だった。特定産業への大規模な支援は、米国がリーマン・ショック後に大手自動車メーカーを救済した例など、経済危機時にとどめていた。国家の介入で民間の創意工夫によるイノベーションが阻害されれば、経済成長にマイナスになるとみていたためだ。

Advertisement

 だが、そうした正論は、中国の経済的脅威を前に後景に追いやられた。

 習近平政権は「製造強国」を目指して2015年に掲げた国家計画の下、国有企業などに巨額の補助金を注ぎ込んだ。この10年で経済的パワーを飛躍的に高めた。

背景に中国の脅威拡大

 官民一体で重要産業に集中投資する国家資本主義を推進し、鉄鋼、造船から電気自動車、再生可能エネルギー関連設備まで圧倒的な世界シェアを握った。内需を上回る過剰な生産のはけ口は輸出に向かい、西側諸国の産業に深刻な打撃を与えた。

 ハイテク製品製造に不可欠なレアアース(希土類)の供給網を支配し、外交的に対立する国への輸出を差し止める「経済の武器化」も常態化させている。

 世界貿易機関(WTO)のルールを無視した振る舞いに日米欧は反発を強め、「目には目を」とばかりに対抗策に乗り出した。

 人工知能(AI)や半導体など軍民両用(デュアルユース)技術が急速に発展し経済構造が激変する事情も重なった。各国は競争力を確保したい思惑もあって産業てこ入れ策にのめり込んだ。

 経済・軍事両面で中国と覇権を競う米国では、トランプ政権が高関税政策や補助金政策を繰り出し、露骨に自国産業を保護する。半導体大手インテルなど個別企業に出資して経営を指図するほどだ。日欧も幅広く補助金を投入し、自国産業優遇に走っている。

 高市早苗政権は40年度までにAI・半導体など17分野に370兆円超の官民投資を行う方針だ。最先端半導体を製造する国策会社、ラピダスへの公的支援は2・9兆円にも上る。

 経済協力開発機構(OECD)によると、世界の主要な製造企業が24年に受けた補助金は約1080億ドル(約17兆円)に上った。リーマン・ショック後に企業救済の動きが広がった09年に次ぐ高水準だ。平時の補助金急増は国家資本主義の世界的な拡大を裏付ける。

 「基幹技術や重要鉱物の供給を(中国など)海外に過度に依存する状況を改め、経済を強じん化する必要がある」(経済産業省幹部)。日米欧の当局者に共通した主張である。だが、経済安全保障を隠れみのに保護主義が際限なく広がれば、貿易が落ち込み、世界経済を悪化させるだけだ。

負の連鎖避けなければ

高市早苗政権は2040年度までに人工知能(AI)・半導体など17分野に370兆円超の官民投資を行う方針を打ち出した。経済財政諮問会議と日本成長戦略会議の合同会議で発言する高市首相(中央)=首相官邸で2026年7月21日、平田明浩撮影

 国家による支援は大企業に集中しがちだ。産業の新陳代謝が滞って、技術革新が生まれなくなる懸念もある。ノーベル経済学賞を受賞した米国人学者は、政治指導者の恣意(しい)的な政策判断が資本配分をゆがめ、経済効率の低下と物価上昇を招くと警告している。

 中国についても、国際通貨基金(IMF)は国家による不適切な資源配分が生産性や成長率を押し下げた可能性があると分析する。

 経済介入を強める米中に他国も追随すれば「負の連鎖」に陥る。WTOが機能不全となる中、求められるのは通商秩序の再構築だ。

 「日本は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を土台に、欧州や東南アジアと信頼できる市場を形成し、新たな貿易ルールづくりを主導すべきだ」。経産省で通商交渉に携わった宗像直子・東大公共政策大学院特任教授はこう提言する。

 資源が乏しい日本にとって、経済安保上最も重要なのは自由貿易体制を死守することであるはずだ。欧州などと手を携え、過剰な補助金の是正や、レアアースの不当な輸出停止など「経済の武器化」を抑える規律を提唱すべきだ。さもなければ米中の暴走に歯止めはかからない。

 保護主義のまん延による世界経済の分断が第二次大戦を招いた苦い教訓もある。国家資本主義の風潮に翻弄(ほんろう)されるのではなく、貿易立国としての範を示すことが日本に求められている。

Google検索で「毎日新聞」の記事を優先的に表示できます。

関連記事: