次期フランス首相、バルニエ氏失脚劇から学べ-ルペン氏は宥められず
退任するフランスのバルニエ首相は、マリーヌ・ル・ペン氏を宥(なだ)めることは不可能だと、身をもって学んだ。次期首相もこの教訓を肝に銘じるべきだ。
バルニエ氏は2日、極右政党・国民連合(RN)を事実上率いるルペン氏に、午前8時半から電話をかけた。予算案と政権を救うための土壇場の策として、ルペン氏の要求をほとんど受け入れた。両者は合意に達し、ルペン氏はRNのバルデラ党首と共に昼食に出かけた。
午後になって、ルペン氏はさらに多くを要求してきた。その時、バルニエ氏はこれが譲歩や予算案の問題ではないと気づいた。事情に詳しい関係者が匿名を条件に語った。
ルペン氏が左派と手を組んでバルニエ氏を退陣に追い込んだのは、フランスの政治におけるルペン氏の圧倒的な影響力を示す力の誇示だった。
同時に、ルペン氏の最終的な政治戦略が何なのかという疑問も生じさせた。バルニエ氏に対してルペン氏が手のひらを返したことは、2027年に任期が終了する前にマクロン大統領を追い落とす決意であることを示している。
マクロン氏の方も、ルペン氏の思い通りにはさせないと決意しているもようだ。
予算ドラマについて知る人々が語った舞台裏の交渉の話からは、ルペン氏がバルニエ氏から次々と譲歩を引き出し偽りの安心感を抱かせた挙句に裏切ったことが明らかになる。
マクロン氏は13日に次の首相を指名する予定だが、何回人が入れ替わっても、フランス首相というのはルペン氏の気まぐれの犠牲になるという報われない仕事であるように見えてくる。
2日の電話で、バルニエ氏はルペン氏に、患者が支払った薬代を還付する額を減らす重要な措置を撤回する意思があることを伝えた。さらに、ルペン氏と同氏の支持者のために譲歩したことを公に認めるつもりだと告げた。ルペン氏はバルニエ氏の条件に同意した。
ルペン氏はバルデラ氏と会った後、午後に再び連絡するとバルニエ氏に伝えた。
パリ6区にある高級イタリアンレストランで、極右の2人はバルニエ氏から引き出した譲歩の数々について祝杯をあげた。電気税引き上げ計画の撤回、外国人への医療補助金の削減、2025年に新しい移民法を制定する可能性などだ。
一方、首相府は午後1時30分に声明を発表し、医療費払い戻し削減案を断念することを明らかにするとともに、それがルペン氏の要求によるものであることを明確にした。バルニエ氏は、これで予算案の可決がほぼ確実となり、少なくとも当面は政府の存続が確保されると考えた。
午後2時頃、ルペン氏から電話がかかった。
ルペン氏はバルニエ氏に対し、来年1月から年金を事実上削減する案も撤回してほしいと述べた。年金削減によって、財政赤字を減らすための約9億ユーロ(約1400億円)が捻出される予定だった。
バルニエ氏はこの時、どれほど譲歩したとしても、ルペン氏は自分に不信任を突きつけるつもりであることに気づいた。
午後2時40分、バルニエ氏は国民議会で、憲法規定を発動して予算案を通過させると発表した。それは不信任投票につながり自分は退陣に追い込まれるだろうと述べた。バルニエ氏の任期は、第五共和制史上最も短い3カ月だった。
バルニエ氏の事務所は、この記事に関するコメントを控えた。RNの広報担当者はコメント要請にすぐには回答しなかった。
今週の世論調査では、ルペン氏の決断が同氏に良い結果をもたらしたことが示された。支持率は上昇し、27年の次期大統領選における最有力候補としての地位を固めた。
しかし、バルニエ氏を倒したことは長期的にはルペン氏にマイナスとなる可能性がある。財政危機の真っただ中に首相を退陣に追い込むという行動は、国民連合が統治に不適格な政党であるという評判を復活させるかもしれない。ルペン氏は長年これと闘ってきた。
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「バルニエ氏に対する仕打ちは一部の有権者を喜ばせたかもしれないが、ルペン氏に傾倒していた保守派を怖がらせる結果にもなった」と、政治史家のジャン・ガリグ氏は語った。
原題:Le Pen Takedown of Barnier Holds Lessons for Next French PM (1)(抜粋)