“台湾有事”発言支持の世論調査があっても首相自身はトーンダウン 世論を煽るトランプとの違いとは #エキスパートトピ
高市早苗首相の台湾有事をめぐる発言には、これを支持する世論調査の結果が珍しくない。
例えば共同通信によると、集団的自衛権の行使に「賛成」「どちらかといえば賛成」が48%を超えた。
その一方で、首相のトーンは明らかに弱くなっている。
11月26日の党首討論では発言撤回を拒否しながらも「対話を通じてより包括的な良い関係を作り、国益を最大化する」ことが責任と述べるにとどまった。
打開策や対中強硬路線の先の損益がみえず、先行する反中世論も抑制できない高市政権には、実利のため世論を意図的に煽るトランプ政権との違いが鮮明だ。
ココがポイント
(前略)93.5%が、高市首相の発言を「問題なし」と考えているという投稿がXで拡散しましたが、ミスリードで不正確です。出典:日本ファクトチェックセンター 2025/11/21(金)
このように米中は今、かつてないほどの「蜜月状況」にあることを見落としてはならない。そこにはトランプの命運がかかっている。出典:47news 2025/11/28(金)
トランプ大統領は一歩さらに進んで来年4月の中国訪問と習主席の米国国賓訪問も約束した。出典:中央日報日本語版 2025/11/29(土)
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エキスパートの補足・見解
「台湾有事は存立危機事態になり得る」という発言は歴代政権より踏み込んだ表現で、首相個人の信念を示したものでも、緊張を高めるきっかけになったことは疑いない。
それは結果的に米国や台湾とのギャップも露わにした。
米トランプ政権は10月末の関税協議で一定の進展を得るなど対中関係を急速に改善している。
トランプは2020年、新型コロナ感染が拡大するとこれを「中国カゼ」と呼び、台湾への武器売却を増やしたり、対中デカップリングを主張するなど、ことさら反中世論を煽って支持を広げようとした経緯がある。
これに照らすと、トランプの「反中」は基本的に実利を得るための手段といえる。だから状況によって自分の煽った反中世論を平然と無視し、台湾への関与をトーンダウンさせるのも不思議でない。
一方の台湾も、外交部が高市発言が有事における日本の軍事支援とは解釈できないと述べた。これは事態収拾に苦慮する高市首相を側面支援すると同時に、中国をことさら刺激しない態度といえる。
つまり、首相の信念は国内の反中世論には響いても、損益や国際的支持についての戦略性を欠いたものになりがちだ。
世論を煽るリーダーは危ういが、世論に乗っかるリーダーもまた危ういといえる。