家賃高騰、住宅不足に対する大規模デモ発生のスペインでサンチェス首相が国会解散、前倒し総選挙へ 舛添要一氏は「極右の伸長」による“分断”を警戒

NEWSポストセブン

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 住宅危機や家賃高騰に端を発する大規模な抗議行動が発生したスペインで何が起きているのか。少数与党による左派政権を率いるペドロ・サンチェス首相の内政の舵取りと、イラン攻撃などをめぐりアメリカのトランプ政権と対峙する直近の外交姿勢について、国際政治学者の舛添要一氏が解説する。

【写真】トランプ米大統領に異を唱える一方、中国との関係を強化するスペインのサンチェス首相

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 スペインでは、住宅不足や家賃の高騰が大きな政治問題となっている。大規模な抗議デモが全国で繰り広げられ、政府も弱者保護などを内容とする対策法案を提出したが、少数与党のため議会で否決された。ペドロ・サンチェス首相は、11月29日に総選挙を実施することを決めた。

87歳女性の強制退去

 マドリードで暮らす87歳の女性、マリカルメン・アバスカルさんが、70年以上住んでいたアパートから立ち退きを余儀なくされた。家賃が500ユーロ(約8万8000円)から2650ユーロ(約47万円)に、実に5.3倍に値上げされたからである。彼女の年金額で支払える額ではなかった。

 9月23日に強制退去となったアバスカルさんは、体調を崩して入院する。その経緯が広く知られると、全国で抗議デモが巻き起こり、家主は値上げを撤回した。

 しかし、アパート復帰への合意がなされた後の10月7日、アバスカルさんは亡くなってしまった──。

 2026年第2四半期(4月~6月)時点で、スペインの住宅価格は前年比で12.2%上昇し、特にマドリードやバルセロナなどの都市部では賃貸価格が高騰している。

 現在、スペイン国内で約70万戸の住宅が不足している。そこで、民間の投資会社などが古いアパートを買い取り、家賃を数倍に値上げする事例が相次いでいる。

 このような事態に対してサンチェス政権は9月29日、賃借人の強制退去を一時的に停止するなどの2つの政令を公布した。その内容は、弱い立場の賃借人の立ち退きを2030年まで停止すること、2028年以前に期限切れとなる賃貸契約の2年間の延長、観光アパートへの増税、「ハゲタカファンド」と呼ばれる投資会社による住宅用不動産の購入制限などである。

 政令は即日発効したものの、1ヶ月以内に議会の承認が必要となる。ところが、2つの政令はいずれも議会に否決された。社会労働党(PSOE)と左派のスマール連合からなるサンチェス政権は、少数与党である。保守派の国民党(PP)と極右のVOX(「声」を意味する)だけでなく、中道右派で地域独立を主張する「カタルーニャのための連合」も政令の承認に反対したのである。

 事態を打開するため、サンチェス首相は国会を解散し、11月29日に総選挙を行うことを決めた。

「スペインのトランプ」率いる極右VOXの伸長

 2023年7月23日に行われた総選挙では、中道右派政党の国民党が、サンチェス首相率いる中道左派の社会労働党から第一党の座を奪った。

 下院350議席のうち、PPは136議席(47議席増)、PSOEは122議席(2議席増)を獲得した。しかしVOXが19議席減の33議席に落ち込んだため、PPはVOXと連立を組んでも過半数(176議席)に達しなかった。一方、サンチェス首相は急進左派や地域政党の支持を取り付けて、政権を維持した。

 今から90年前の1936年2月、スペインでは左翼の人民戦線内閣が発足するが、それに反発するフランコ将軍が7月にクーデターを起こし、スペイン内戦が勃発する。ドイツのヒトラーとイタリアのムッソリーニはフランコを、ソ連のスターリンは人民戦線側を支援し、スペイン内戦は全ヨーロッパを巻き込む争いになっていく。そして1939年3月、内戦はフランコ側の勝利で終わった。

 第2次世界大戦終結後もフランコ独裁は続き、それが終わったのはフランコが死去した1975年だった。ファン・カルロス1世が国王となり、1977年には41年ぶりに民主的な選挙が実施された。こうして、ようやくスペインは民主化への道を歩んでいったのである。

 フランコ独裁の苦い経験から、以降約50年間にわたって極右が伸長することはなかったが、ここにきて生活苦などの現状に不満を抱く若い有権者の間で、VOXの主張を支持する声が高まっている。

 VOXは、LGBTの権利拡大や同性婚に反対し、移民・難民の排斥を訴える。また、カタルーニャやバスクの自治権拡大に反対し、「国家統一の必要性」を強調する。党首のサンティアゴ・アバスカルは「スペイン第一」を唱え、「スペインのトランプ」と呼ばれる。

「反イスラム」もVOXの代表的な主張だ。8世紀に始まったイベリア半島のイスラム支配に対して、11~15世紀に展開されたキリスト教徒の反撃「レコンキスタ(再征服、国土回復運動)」を高く評価する。

 この政党が政権に参加すれば、スペイン国民の分断は広がり、トランプ政権下のアメリカのようになっていく懸念がある。

サンチェス首相の対トランプ外交

 フランス、ドイツ、イギリスなどで「移民排斥」を掲げる極右政党が伸張するなかで、スペインでは左派政権が続いている。サンチェス政権は、トランプ政権の外交や安全保障政策に正面から異を唱えている。

 象徴的なのはイラン戦争への反対姿勢である。米国とイスラエルによるイラン攻撃に際し、サンチェスは米軍と共同で運営するモロン空軍基地及びロタ海軍基地の使用を許可しなかった(イギリスも、イングランドのフェアフォード空軍基地と英領のディエゴガルシア島の使用を認めなかった)。トランプは「ヨーロッパがアメリカの戦争に協力的でない」と、怒りを募らせてきた。

 それでもサンチェスはアメリカへの厳しい批判を緩めず、「人類の大惨事はこうして始まる。数百万人の命を賭けたロシアンルーレットは許されない」と発言。これに対して、トランプは「スペインとの全ての貿易を止めるつもりだ」と脅しているが、サンチェスは「報復を恐れて、われわれの価値観や利益に反する行為に加担しない」と明言した。

 トランプはスペインに対して、2026年3月、アメリカとの貿易停止を指示した。サンチェスはNATOの防衛支出拡大目標(2035年までに対GDP比5%への増額)を拒否し、それ以来、トランプはサンチェスを目の敵にし、スペインを「救いようがない。酷い」と非難してきた。

 2026年7月のNATO首脳会議からの帰路の大統領専用機内で、「私は貿易を止めると言った。スペインは多額の支払い(防衛費の増額)という要求に応じた。応じなければ、話もしなかっただろう」と述べた。

 だが、これはトランプの"強がり"でしかない。スペインの防衛費は、対GDP比で2024年が1.42%で2025年は2%に増額されたが、2026年に増額する予定はない。サンチェスはトランプの恫喝を今も聞き流している。

中国との関係を強化するヨーロッパ

 ヨーロッパは中国との関係を深め、トランプ政権を牽制している。

 常軌を逸したトランプの言動は、同盟国を離反させている。中国はそれを最大限に活用すべく、ヨーロッパ諸国との関係を急速に深めている。

 サンチェスは訪中して、4月14日に習近平と首脳会談を行った。イラン攻撃など、度重なるトランプの国際法違反はNATOの結束を乱しており、ヨーロッパでは「トランプよりも習近平のほうが対話に値する」という考えが広まっている。そして、経済的パートナーとして中国を重視する流れが強まっている。

 ヨーロッパ首脳も、北京詣でを繰り返している。2025年12月3~5日にはフランスのマクロン大統領が、2026年1月28~31日にはイギリスのスターマー首相が、2026年2月24~26日にはドイツのメルツ首相が中国を訪問している。

 世界はアメリカと中国による「G2の時代」となっているが、ヨーロッパはその存在感を維持するために外交努力を展開している。アメリカが制裁の対象にしたICC(国際刑事裁判所)に対する支持などもその一環といえそうだ。

 日本もヨーロッパとの関係強化を図る視点が不可欠である。

【プロフィール】舛添要一(ますぞえ・よういち)/1948年、福岡県北九州市生まれ。1971年、東京大学法学部政治学科卒業。パリ(フランス)、ジュネーブ(スイス)、ミュンヘン(ドイツ)でヨーロッパ外交史を研究。東京大学教養学部政治学助教授などを経て、政界へ。2001年に参議院議員(自民党)に初当選後、厚生労働大臣(安倍内閣、福田内閣、麻生内閣)、東京都知事を歴任。『都知事失格』、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(いずれも小学館刊)など著書多数。

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