「現実と理想は二者択一にあらず」 岸田氏が考える核なき世界
「核なき世界」の実現をライフワークに掲げてきた被爆地・広島選出の岸田文雄元首相。国際政治の冷徹な現実や力学を知る指導者の目に、米国の「核の傘」に頼りながら核廃絶を希求するジレンマはどう映っていたのか。「現実と理想は二者択一ではない」と語る岸田氏に、核廃絶への道筋と政治の役割を問う。【聞き手・八田浩輔、松浦吉剛】
核をめぐる国際環境が転換期を迎えています。日本の安全を守りながら、核なき世界を実現するために何が求められているのか。立場の異なる3氏に聞きました。 第2回 山崎幸二・元統合幕僚長 28日に公開予定
第3回 湯崎英彦・前広島県知事 29日に公開予定
――核拡散防止条約(NPT)は空洞化が指摘されています。今後も維持可能な枠組みでしょうか。新たな秩序を探る時期ですか。
◆前回2022年のNPT再検討会議は、ロシアによるウクライナ侵攻と核使用の威嚇が行われるなかで開かれました。その後の核を巡る状況はより厳しく、緊張度を増して深刻になっていると考えています。
今年2月に米露間の(唯一の核軍縮の枠組み)新戦略兵器削減条約(新START)が失効しました。国際社会において、核保有国が参加する核軍縮・不拡散の枠組みは、いよいよNPTだけになりました。
NPTは国際社会の外交資産において、最も重要な枠組みの一つです。核保有国と非核保有国が参加する唯一の枠組みであり、何としても維持しなければならないと思っています。NPTを守るという思いを国際社会で共有し、発信する方法を考えなければいけない。
――安全保障環境の変化を受けて、非核三原則の見直しを検討する動きがあります。
◆私は首相在任中、非核三原則を維持すべきだと主張し続けてきました。「持ち込ませず」の部分について議論があることは承知しています。2010年の岡田克也外相の(有事の例外扱いの可能性に触れた「時の政権が命運をかけて決断し、国民に説明する」とした)国会答弁があり、第2次安倍政権以降のすべての政権が、この発言を維持しています。私は、この国会発言を維持することで対応すべきだと思っています。
非核三原則、そして日米同盟を含めた日本の外交・安全保障政策は、東アジアの平和と安定に大きな役割を果たしてきたと思っています。
――トランプ米政権は北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を示唆するなど、欧州の同盟国には米国の関与に疑念も広がっています。日本にとって、米国の拡大抑止に依拠することは今後も変わりませんか。
◆日米同盟は、インド太平洋地域の平和と繁栄において大変重要な枠組みであり、今後も同盟の信頼性を高めて強化する努力をしていかなければならないと思います。核抑止についても、現実問題として国民の命や暮らしを守るため、日米同盟をしっかりと強化していかなければならない。
一方で、私たちは核兵器のない世界を目指さなければいけません。こうした理想は追求しなければならない。現実と理想は二者択一ではないかという乱暴な議論があるが、私はそうは思いません。両立させることこそが政治の役割です。
核兵器のない世界を目指す理想に向けて現実をどう結びつけるのか、どのようなロードマップを掲げるのか。被爆地出身の政治家として、唯一の戦争被爆国である日本として、果たすべき役割だと信じています。
――「核の傘」の下で核なき世界を訴えることは、ジレンマではないということですか。
…