「米国以外」との貿易協定、欧州で活発化…EUは中国製EVへの最低価格導入の検討で中国と一致

 【ロンドン=中西梓、ブリュッセル=秋山洋成】トランプ米政権による関税政策を受け、欧州で米国以外の国・地域間との貿易協定を締結しようとする動きが活発化している。主要輸出先の米国による関税引き上げは悪影響が大きく、他の国や地域との通商関係強化を急ぎたい考えだ。

英国はインドとのFTA交渉再開

海外輸出に向けて中国の港に並ぶ自動車(2024年1月)=ロイター

 「2国間の連携をさらに強固なものにしたい」

 英国のリーブス財務相は9日、インドのシタラマン財務相と会談し、自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉加速を呼びかけた。

 英国は欧州連合(EU)離脱後の2022年1月にインドとのFTA交渉を開始。同年中に妥結する方針だったが、長く足踏み状態だった。

 背中を押したのは「トランプ関税」の動きだ。今年2月に交渉を再開し、英紙ガーディアンによると交渉は9割方まとまった。年内にも合意に達する見通しという。英国はサウジアラビアなどの湾岸諸国ともFTA交渉を急ぐ方針だ。

 EUは、これまで悪化していた中国との関係改善に動いている。

 EUの執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は8日、中国の 李強(リーチャン) 首相と電話会談し、双方が自由貿易体制の維持のため協力していくことを確認した。また、同じ日には貿易担当の欧州委員と中国の商務相がオンライン協議し、EUが中国製の電気自動車(EV)に課している追加関税に代わり、最低価格の導入を検討していくことで一致したという。

 EUは南米や中東とも関係を深めるため、FTA交渉の開始・発効を急ぐ。アジア太平洋諸国の側からも「環太平洋経済連携協定(TPP)加盟国とEUが協力する手がある」(ニュージーランドのラクソン首相)と、欧州との連携強化を求める声が上がる。

EU非加盟国もタイとFTA

 EU非加盟のスイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインの4か国で構成する欧州自由貿易連合(EFTA)も1月、タイとのFTAに署名。マレーシアとも4月11日に経済連携協定(EPA)交渉を終え、年内の署名を目指す。

 EUやEFTA加盟国の多くや英国にとって、米国は最大の輸出相手国で、関税引き上げは打撃が大きい。通常、FTA交渉などには時間がかかるが、米国の関税政策によって「関税や関税以外の障壁を考え直す意欲が世界各国で高まっている」(リーブス財務相)状況を好機と捉え、スピードを速めたい考えだ。

 英王立国際問題研究所のクレオン・バトラー氏は「米国が世界経済のリーダーから抜けた穴を埋められるのは欧州だけで、新しい世界秩序を支えるために他国との協力関係を構築する必要がある」と指摘する。

 日本はTPPに加盟するほか、EUとのEPAなど多国間の自由貿易体制を重視する立場だ。米国とは関税措置を巡って週明けにも交渉を本格化させる方針で、今後の動向が注目される。

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