もう誰も止められない中居&フジの破滅ドミノ…CM差止め2日で150本超、春改編CM枠も売れない自業自得 ACジャパンへの差し替えは、申し出たスポンサーが広告料を負担
中居正広氏の女性トラブルについて、フジテレビの港浩一社長が1月17日金曜午後に会見を行った後、大手スポンサー5社がCMを差し止め、その数は週末の2日間で150本を超えた。社長会見まで同局は悪手を打ち続け、その後の自社の報道番組での対応もお粗末な内容と言わざるを得なかった。まさに負のスパイラルに陥っているように見えるが、同局経営の行く末を想像すると……。
写真=時事通信フォト
記者会見するフジテレビの港浩一社長=2025年1月17日、東京都港区
119はフジテレビ自身へのエマージェンシーコール
フジの1月クールのドラマ月9は、清野菜名主演「119エマージェンシーコール」である。一本の電話で命をつなぐ消防局通信指令センターの指令管制員の物語だ。
このドラマを放送する同局にとって、119つまり1月19日は緊急コールに等しい事態の1日となった。スポンサーによるCM差し止めが150本を超えたからだ。
法人向けに全録サービスを提供するPTP社の記録によれば、CM差し止めは雪崩を打ったように続いている。企業の動きは早かった。会見直後の深夜「FNN Live News α」(0時10分~)で3本、続く「オールナイトフジコ」で5本、さらに翌朝6時からの「めざましどようび」では14本のCMがAC広告に置き換えられた。
AC広告の露出はほぼ大半の番組で見られ、結局週末2日間で150を超えた。CM差し止めを週末までに行ったのは以下の日本を代表する歴史のある大手5社に及んでいる。
NTT東日本
後述するが、今回のCM差し止めは、天変地異などで起こる場合とは意味合いが大きく異なる。
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先に紹介したように、今回の社長会見は海外の大株主発言の直後に行われた。当該株主から見れば、昨春に2000円を超えていた株価が年末までに300円ほど下がり、今年に入り1600円を切る事態になっていた(20日終値は1785.5円)。ガバナンスの失敗を苦々しく思っていた可能性は高い。
億円(縦軸)、年(横軸)
そもそもフジの業績は、過去15年間、決して芳しいものではなかった。毎年度の第2四半期での広告収入を振り返ると、07年度をピークにその後は右肩下がり基調で、この1~2年はピークのほぼ半額だ。かつては2位に1.2倍と大差の首位だったが、今や4局中最下位で、トップの7割ほどしかない。
そこに今回の不祥事だ。社長会見の失敗で、すかさず5社がCM差し止めを行った。一般にAC広告への差し替えは、申し出たスポンサーが広告料を負担する。天変地異などの状況に鑑み、華やかなCMの放送が商品や会社のイメージにプラスよりマイナス効果を生むと考え自粛するからだ。
ところが今回は異なる。原因がフジの側にあるので、局としては広告費を請求しにくい。商慣行に従って請求したとすれば、広告主の怒りと失望は収まらず、次の契約更改で取引を失う可能性が大きい。仮に広告費を請求しないと、この週末2日だけで150本のCM収入を失い、事態はしばらく続くので、ただでさえ苦しい台所事情は一層火の車になる。
今後を見通すと、状況はさらに厳しい。上記5社に加え、第一生命も20日から放映を差し止めるとした。他の社についても、CMを継続した場合の企業イメージを考慮し、先行する6社に続く可能性が残る。実際、週が改まった20日月曜の午前中までには、セブン&アイ・ホールディングス、日本マクドナルド、サッポロビール、花王、JR東日本、ダイハツ工業、スズキなどもCM放映の見合わせを決定した。差し止めドミノの規模はどこまで広がるだろうか。
しかも第三者を入れた調査は今月か来月中のスタートだ。そこから結果が出るのにしばらくかかる。また、その内容が不十分だとさらなる失望を呼び、CM差し止めは拡大と長期化の一途だ。
加えて今は、4月改編に向けたタイム広告主募集の時期だ。フジのガバナンスが不透明な中、今回は契約を見送るスポンサーが続出しても不思議ではない。以上の諸々の状況を前提にすると、24年度4Qおよび25年度の同局の広告収入は極めて厳しくなると予測される。
そもそも問題は、23年6月に認識されていた。それをタレントなどへの忖度から具体的な対応を避け続けた。そして1年半後にスクープされ、かつ大株主に断罪されるに至った。極め付きは急遽行った社長会見の失敗だ。
要因はいくつもあるが、経営陣の最大の問題は世間や時代との感覚のズレだろう。80年代からテレビ界のトップ企業となった同局だったが、2007年をピークにずるずる業績が下がる中で、何が問題なのかを分析する時間はたっぷりあった。
それを怠った末に、今回は本格的な負のスパイラルに陥った。メディアや報道機関なのに、視聴者やステークホルダーの目を含め社会の常識や時代認識に欠けた代償はあまりに大きいと言わざるを得ない。
- 愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。