【米国市況】株上昇、抑制的なイラン反撃で安心感-ドル146円台前半
23日の米株式相場は上昇。イランによるカタールの米空軍基地への報復攻撃は本格的なものでなく、経済に広範囲に打撃を与えることはないとの見方から買い安心が広がった。原油相場は急落した。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 6025.17 57.33 0.96% ダウ工業株30種平均 42581.78 374.96 0.89% ナスダック総合指数 19630.97 183.56 0.94%カタール政府はイランが発射したミサイルの迎撃に成功し、死傷者は出ていないと発表した。原油供給が混乱するとの不安が後退し、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は1バレル=70ドル台を割り込んで引けた。
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トランプ米大統領はこの日、イランによる報復攻撃は「非常に弱く」、イラン側から事前に通告があったと述べた。発言を受けて、事態がエスカレートするリスクは限定されたと受け止められた。
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22Vリサーチのヤコブ・ファンク・キルケガード氏は「イランが数日中に再び、中東における他の米軍基地を攻撃する可能性はあるが、今回と同様に『演出的な』ものになるとみられる。きょうの攻撃はペルシャ湾岸地域における原油・ガス取引に影響を及ぼす地政学的リスクプレミアムを低下させるはずだ」と述べた。
ニュースレター「ザ・セブンズ・リポート」のトム・エッセイ氏は「不穏なニュースが続いているが、原油価格の上昇や地政学的な緊張の高まりは現時点で見られない。紛争が拡大するとの懸念は引き続き抑制されている」と指摘。「中東全体が紛争に巻き込まれ、原油供給が劇的に減少するとの懸念がない限り、地政学的緊張の高まりは今の市場にとって深刻なマイナス要因となることはないだろう」と述べた。
ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)のエリアス・ハダッド氏は、イランがホルムズ海峡を封鎖すれば原油相場を押し上げる最大のリスクとなるが、原油価格の行き過ぎた上昇には冷静に対処すべきだと指摘。
「まずイランは自国の輸出でホルムズ海峡に大きく依存している。封鎖は自国経済に甚大な被害を及ぼすため、可能性は低い。2つ目に米国とその同盟国はこの地域に強力な海軍のプレゼンスを維持している。ホルムズ海峡を封鎖すれば、イランに対する一段と激しい軍事行動を引き起こしかねない」と述べた。
マイケル・ウィルソン氏率いるモルガン・スタンレーのストラテジストチームは23日付のリポートで、「これまでを見ると、地政学的な要因による売りの多くは、短期間かつ緩やかなことが示唆される」と分析。「ボラティリティーが続くかどうかは原油価格に左右されるだろう」と述べた。
同チームによると、過去の地政学的リスクは短期的には株式市場にある程度のボラティリティーをもたらしたが、発生から1、3、12カ月後には、S&P500種はそれぞれ平均2、3、9%上昇している。
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米国債
米国債相場は上昇(利回り低下)。イランがカタールの米空軍基地に報復攻撃を行ったことで、中東の緊張激化が警戒され、逃避先として国債が買われた。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.88% -1.4 -0.29% 米10年債利回り 4.34% -3.1 -0.72% 米2年債利回り 3.86% -4.9 -1.24% 米東部時間 16時52分米連邦準備制度理事会(FRB)のボウマン副議長が、早ければ7月に利下げを支持する考えを示したことも国債相場上昇に弾みをつけた。
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10年債利回りは一時8ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り低下の4.29%と、約1カ月ぶりの低水準となった。5年債利回りは一時約10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下して3.86%をつけた。
カタール政府はイランのミサイル攻撃を迎撃したと発表したが、その後も国債相場は上昇をほぼ維持した。
DWSアメリカズの債券責任者、ジョージ・カトランボーン氏は「良くも悪くも、米国は再び支配的な勢力としての立場を強めており、紛争が長期化する可能性を踏まえると、米国債のような伝統的な資産が選好される」と指摘。
ドルと10年債をショートとする戦略はそろそろ潮時を迎えており、巻き戻しが起きやすい状態にあるとの見方を示した。
短期金融市場では米利下げ観測が強まり、年末までに少なくとも50bpの利下げを織り込んだ。
外為
ニューヨーク外国為替市場では、ブルームバーグのドル指数が下落。この日の安値近辺で引けた。
イランによる報復攻撃と、7月利下げの可能性に言及したボウマン副議長の発言という材料を見極めたいとのムードだった。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1208.22 -2.84 -0.23% ドル/円 ¥146.13 ¥0.04 0.03% ユーロ/ドル $1.1579 $0.0056 0.49% 米東部時間 16時52分ブルームバーグ・ドル・スポット指数は、ボウマン氏の発言後に値を消した。その後に再び上昇する場面もあったが、最終的に売り優勢となった。欧州時間帯には一時0.6%上昇していた。
スコシアバンクのチーフ為替ストラテジスト、ショーン・オズボーン氏は「今回の緊張再燃を市場は比較的冷静に消化しているようだ」と指摘。「イランの限定的な対応および、カタールに向けて発射されたミサイルが問題なく迎撃されたことから、現時点でイランの反撃能力が非常に限られていることが推察される」と述べた。
円は対ドルで下げを縮小し、ほぼ変わらず。欧州時間の終盤に一時1.3%安の148円03銭前後を付けたが、その後はほぼ一環して下げ幅を縮める動きとなった。
原油
ニューヨーク原油相場は7%余り急落。イランが米軍の核施設攻撃に対して報復したものの、エネルギーインフラには被害を及ぼさなかったことから、中東の原油供給が大きく混乱するとの懸念が後退した。
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ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は1バレル=70ドルを割り込んだ。市場では当初、イランが報復措置の一環としてホルムズ海峡を封鎖するとの懸念が広がっていた。世界の原油の約5分の1が同海峡を通過している。カタール当局によれば、イランのミサイルは迎撃され、人的被害にはつながらなかった。
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23日の相場はバレル当たり10ドルという値幅で推移した。アジア時間に6%余り上げたものの、その後に急落。トレーダーがいかに神経質になっているか、また世界のエネルギー市場にとっての中東情勢の重大さを浮き彫りにした。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「原油相場が下げているのは、イランにとってエネルギーインフラが報復の最優先対象ではないとの見方を市場が織り込みつつあるためだ」と指摘。「米国側が事前情報を把握していた可能性があり、今回の行動は本格的なエスカレーションというよりも、イラン側の面目を保つための行動だったことが示唆される」と語った。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物8月限は、前営業日比5.33ドル(7.2%)安の1バレル=68.51ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント8月限は7.2%下落し71.48ドル。
金
金相場は反発。中東情勢への警戒を背景に、金は買い進まれた。
中東での対立激化は、年初から30%近く上昇している金に新たな勢いを与えている。地域紛争拡大の可能性は、安全資産である金にとって理論上は追い風となる。だがその一方で、エネルギー価格が持続的に上昇すればインフレが加速し、米利下げの可能性が低下する。そうなれば、利息を生まない金にはマイナスだ。
ブルーライン・フューチャーズのアナリスト、フィル・ストライブル氏は、現在のところ金相場を動かす要素は数多くあるとしつつ、上昇基調は今後も続くとの見方を示した。
同氏は電話取材に対し、「金価格は今年いっぱい上昇を続けるとの予想を維持している。中央銀行による購入と投資資金の流入が相場を押し上げる部分が大きい」と分析。また「金利は低下すると考えており、金市場に対して構造的に強気の見方を維持している」と述べた。
スポット価格はニューヨーク時間午後3時11分現在、前営業日比11.95ドル(0.35%)高の1オンス=3380.34ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は9.30ドル(0.3%)上昇の3395ドルちょうどで引けた。
原題:S&P 500 Up 1% as ‘Scripted’ Iran Attacks Sink Oil: Markets Wrap
Treasuries Gain as Traders Seek Havens, July Fed-Cut Bets Grow
Dollar Falls as Traders Gauge Iranian Strikes: Inside G-10
Oil Plunges as Iran Response to US Strikes Spares Energy Assets
Gold Rises as Iran Pledges Retaliation for US Military Strikes(抜粋)