ADHDと目の問題は関係する?60万人のデータが示した関連
- 目のトラブルとADHDには関連があると報告されていますが、対象となった具体的な眼のトラブルは何ですか?
- 近視・遠視・乱視の屈折異常、斜視、弱視などが対象で、これらがADHD/ADDのリスクと有意に関連しました。
- この関連の強さは年齢層や性別で異なりますか?
- 子どもや思春期、女性で関連が強く、男性より差が大きい可能性が示されました。
- 研究の結論は原因の特定ではなく関連の示唆だという点はどのように説明されていますか?
- 関連を示すのみで因果関係を断定せず、共通の発達経路や学校生活の困難が影響している可能性など、複数の説明が考えられています。
注意欠如多動症(ADHD)は、世界中で多くの子どもや大人に影響を与えている発達特性のひとつです。 集中が続きにくい、衝動的に行動してしまう、落ち着いて座っていることが難しいといった特徴が知られていますが、その背景にはどのような要因が関わっているのかについては、今も研究が続けられています。
そうした中で、イスラエルの大規模医療データを用いた新しい研究が、「目のトラブル」とADHDの発症との関係に注目しました。 この研究は、視力や目の位置の異常といった比較的身近な眼科的な問題が、将来的なADHDの診断とどのように関係しているのかを、全国規模のデータで検証したものです。
この研究を行ったのは、アメリカのバンダービルト大学医療センター・バンダービルト・アイ・インスティテュート、イスラエル工科大学(テクニオン)医学部、ランバム・ヘルスケア・キャンパス、そしてイスラエルの大手医療機関であるマカビ・ヘルスケア・サービスの研究チームです。 イスラエル全国の保険診療データを活用し、きわめて大規模かつ長期間にわたる分析が行われました。
研究の対象となったのは、2010年から2022年までの13年間に、イスラエルの公的大規模医療保険に加入していた5歳から30歳までの人たちです。最初に対象となった人数は約168万人にのぼり、そこから研究条件に合わないケースを除外し、年齢や性別をそろえる統計的な調整を行った結果、最終的に約66万5千人分のデータが解析に用いられました。
この研究で注目された「目のトラブル」には、近視、遠視、乱視といった屈折異常、目の位置がずれる斜視、そして視力の発達が十分に進まない弱視が含まれています。 いずれも眼科では比較的よく見られる状態であり、子どもの頃から診断されることも多いものです。
一方で、ADHDやADD(注意欠如症)は、小児精神科医や発達小児神経科医によって診断されたケースのみが対象とされ、診断基準は一貫して用いられています。 こうした点からも、この研究は診断のばらつきをできるだけ抑えた設計になっています。
解析の結果、全体の約10.4パーセントにあたる約6万9千人が、追跡期間中にADHDまたはADDと診断されていました。 そして、ここから明確な違いが見えてきます。
何らかの目のトラブルがあった人たちは、そうでない人たちに比べて、ADHDやADDと診断される割合が高かったのです。
具体的には、目のトラブルがあった人のうち約12.6パーセントがADHDまたはADDと診断されていたのに対し、目のトラブルがなかった人では約9.3パーセントでした。 この差は統計的にも明確なもので、偶然では説明できないと判断されています。
さらに研究チームは、「どの種類の目のトラブルが関係しているのか」についても詳しく調べました。 その結果、検討されたすべての眼科的診断が、ADHDやADDのリスクと有意に関連していることが示されました。
斜視のある人では、ADHDやADDの発症リスクが約1.6倍高く、遠視や乱視でも約1.5倍、弱視では約1.4倍、近視でも約1.3倍高くなっていました。 つまり、特定の目の病気だけが問題なのではなく、さまざまな視覚の問題が共通して関連していることが示唆されたのです。
また、目のトラブルを複数同時に抱えている場合についても分析が行われました。 たとえば、斜視と遠視、あるいは遠視と乱視といった組み合わせでは、ADHDやADDのリスクがさらに高くなる傾向が見られました。
ただし、研究チームは「複数の目の病気が重なることで相乗効果が起きている」とまでは断定しておらず、視覚の困難そのものが影響している可能性もあると慎重に述べています。
この研究で興味深い点のひとつが、「ADHDやADDが診断されるまでの時間」にも差が見られたことです。 目のトラブルがあった人たちは、そうでない人たちに比べて、平均してより早い時期にADHDやADDと診断されていました。
その差はおよそ数か月ですが、大規模な集団で一貫して見られた点は注目されます。
さらに、性別や年齢による違いも詳しく調べられました。 その結果、目のトラブルとADHDやADDとの関連は、男性よりも女性でより強く、また大人よりも子どもや思春期の年齢層でより顕著であることが示されました。
ADHDは一般に男性の診断が多いとされていますが、この研究では、目のトラブルがある場合に限ってみると、女性のほうが関連の強さが大きいという結果になっています。 研究チームは、この点について、生物学的な違いや受診行動の差、診断のされやすさの違いなど、複数の可能性を挙げていますが、現時点では明確な理由は分かっていません。
研究者たちは、この結果を「目のトラブルが直接ADHDを引き起こす」とは解釈していません。 視覚の問題と注意や行動の特性が、共通の発達経路や遺伝的背景を持っている可能性、あるいは、目の問題があることで学校生活などで困難が生じ、それが注意の問題として評価されやすくなる可能性など、いくつかの説明が考えられると述べています。
また逆に、落ち着きのなさや集中の難しさがある子どもでは、視力検査などがうまく行えず、目の問題があるように見えてしまう可能性も指摘されています。 こうした点からも、この研究は「関連」を示したものであり、「原因」を断定するものではないと、慎重な姿勢が取られています。
それでも、この研究が持つ意味は小さくありません。 イスラエル全国規模の医療記録を用い、60万人以上を対象に、10年以上にわたって追跡した研究は非常に貴重です。
研究チーム自身も、こうした大規模で一貫したデータが得られたことを、この研究の大きな強みとして挙げています。
研究の結論として、近視や遠視、乱視、斜視、弱視といった眼科的な問題は、ADHDやADDの発症リスクと有意に関連しており、その関連は特に子どもや思春期の年齢層、そして女性で強く見られることが示されました。
研究者たちは、こうした知見が、将来的にはかかりつけ医や神経科医、眼科医がリスクの高い子どもを早期に見つける手がかりになる可能性があると述べています。 ただし、どのような介入が実際に有効なのかについては、今後の研究が必要であることも強調されています。
目のトラブルと注意の問題。一見すると別々に思えるこれらの領域が、発達という長い時間軸の中でどのようにつながっているのか。 この研究は、その問いに対して、大きなデータをもとに光を当てています。
(出典:Eye DOI: 10.1038/s41433-025-04227-w)(画像:たーとるうぃず)
この研究は「関連」を示したものであり、「原因」を断定するものではない
正しく理解してください。
(チャーリー)