ドル円「150円割れ」のシナリオも?市場が「さらなる円高」を警戒した要因
9月に入ってドル円の相場地合いが変わりました。ベッセント米財務長官の発言や日本銀行の利上げ観測によって円高が急速に進みました。
ベッセント財務長官は、8月30日に植田和男総裁と会談した際に、「円安が日本のインフレ圧力を強めている」と指摘し、「過度な円安対処のため日本は断固とした市場・金融政策上の措置を講じることを強く支持する」と発言しました。この発言内容は9月1日に米国財務省が明らかにしました。
その報道が伝わった後のドル円は多少円高に反応しましたが、その後の円急騰を思わせるような様子ではありませんでした。2日には、中東情勢緊迫化に伴う原油先物の上昇を背景にドル高となり160円台前半の円安の場面もありました。
円高の動きが始まったのは2日の日銀・高田創審議委員の講演がきっかけでした。高田氏は「市場で考えられている一定の利上げの間隔や幅にとらわれるのではなく、海外環境に加え国内での金融環境に関する緩和度合いを確認した上で機動的に対応していく必要がある」と述べました。
連続利上げの可能性や0.25%以上の利上げ幅など「機動的に対応」するとの発言は、タカ派の高田審議委員とはいえ、かなり突っ込んだ発言です。
市場は疑心暗鬼ながらも、かなり警戒心が高まったようです。ベッセント財務長官の発言の裏付けとなるような高田発言をきっかけに、日米が協調して円安是正に動いているのではないかとの思惑が広がりました。
その要因の一つが、ベッセント財務長官の「市場が持っていない情報を私は持っている」という発言でしょう。4日発表の米雇用統計の情報の可能性もありましたが、発表内容は円安要因だったので、やはり日本の金融政策に関する情報ではないか、と市場の警戒心が一層強まったのかもしれません。
米連邦準備制度理事会(FRB)高官のハト派発言もドル安を後押ししました。
2日、NY連邦準備銀行のウィリアムズ総裁が「インフレは緩やかな低下傾向にある。金利は適切な水準にある」と発言し、3日には、ウォラーFRB理事も「インフレ圧力の鈍化が確認されれば、政策金利を現行水準に据え置くことを支持する用意がある」とこれまでの利上げに前向きなトーンを和らげる発言をしました。ドル円は、3日には155円台前半まで円高が進みました。
日銀の利上げペース加速への思惑とFRBの利上げ観測の後退から円高が進みましたが、4日の米8月雇用統計の発表によって、米利上げ観測は再び強まりました。
非農業部門雇用者数は前月比+16.2万人と予想(+5.6万人)を大きく上回りました。6月、7月分も合わせて+5.5万人の上方修正となりました。失業率は4.1%と前月の4.1%と同じで予想とも同じでした。ただ、時間当たり賃金は前年比+3.1%と予想(+3.0%)を上回りましたが、前月+3.2%から鈍化しました。
米8月雇用統計を受けて、いったん後退した米9月利上げ観測が再び高まりました。発表後のCMEのフェドウオッチでは9月利上げ確率が5割から6割に上昇しましたが、それでも6割止まりでした。
FRBは雇用よりも物価指標に注目していることから、今週発表予定の米8月PPI(10日)や米8月消費者物価指数(CPI)(11日)を見極めてから投資家は動きたいということだろうと思われます。
ドル円の動きを見ても、雇用統計発表後のドル円は156.75円近辺に上昇しましたが、その後は155円台前半に下落し、その後の反発も156円台前半止まりとなっています。米利上げ観測以上に、日銀の利上げペースを警戒しているのではないかという動きです。
週明け7日、ドル円は円高がさらに進みました。米国休日で薄商いの中、156円を挟んで推移していましたが、「イラン、ホルムズ海峡の暫定航路巡り、数日中に合意へ」との報道を受けて、155円も割り込み、154.05円近辺まで急落しました。8日には152円台後半まで円高が進みました。
円高トレンドは定着するか。「150円の攻防」シナリオも視野に?
今回の急速な円高局面では、短時間で大きく相場が動くような値動きが見られなかったことから、介入は出ていないのではないかとの見方があります。それよりも日銀が利上げペースを早めるのではないかとの警戒心が強まり、これまでの円売りポジションを解消した動きではないかとの見方も多いようです。
4月下旬から5月にかけての12兆円弱の円買い介入でも、7月末の15兆円の日米協調円買い介入でも割れなかった155円をあっさり割れたのはそういう動きだったのかもしれません。
もし、そうだとするとドル円を取り巻く環境が変わるかもしれないという警戒心は続き、円売りポジションの調整が一段と進むことも予想されます。もし、調整が進めば1月の152.10円近辺がターゲットになってきます。そして150円の攻防となりそうです。
この円高の動きが続くかどうかは日米の金融政策にかかってきます。9月の米物価指標によって15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米利上げ観測が強まれば、ドル高円安の動きが予想されます。
また、米物価指標が予想を下回っても、前月より低下していても、足元の原油価格がウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)で90ドル以上で推移していることからタカ派姿勢は維持されるかもしれないという点には留意が必要です。しかし、17~18日には日銀金融政策決定会合が控えているためドル高円安の動きも様子見になるかもしれません。
17~18日の日銀会合で利上げペース加速が示唆されなかった場合は、円高から円安に戻すことが想定されます。植田総裁が利上げペースの加速を示唆しなかった場合でも、日銀内で高田審議委員のような意見が増えていれば、利上げペース加速への警戒は続くことも想定されるため、円安の戻る水準もかなり限定的になりそうです。
会合で政策委員からどのような意見が出たのかを確認できる9月会合の「主な意見」は10月1日に公表されます。
日銀の利上げペース加速への警戒心が続く限り、再び160円に戻るような環境にはならないかもしれません。これまで円高水準では円買いポジションを積み上げたように、安易に円キャリー取引を続けていくという投資スタイルにも変化が生じてくるかもしれません。
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