9、米空軍が安価なISR向け無人機をテスト
米空軍参謀総長は議会で「対イラン作戦で最も優秀な役割を果たしたのはMQ-9だった」と証言し、MQ-9後継機も高度なステルス性能ではなく「大量生産による消耗可能なシステム」であることが要求され、グライダーベースのULTRAやULTRA Turboが中東地域でテストされる見込みだ。
参考:DZYNE Secures Multi-Million Dollar AFRL Contract for Additional ULTRA Turbo Aircraft, Redefining Group-5 ISR 参考:DZYNE’s ULTRA Turbo Achieves Historic 60-Hour, High-Altitude Flight — Redefining Group 5 UAS Endurance 参考:USAF’s New Turbocharged ULTRA Surveillance Drones Are Heading To The Middle East
偵察衛星による監視能力はニアリアルタイムであり、低軌道を周回しているため特定地点の継続的な監視能力も1回の通過で数分程度しかなく、偵察衛星の監視能力に基づいた静止目標の位置特定は得意でも、移動目標の位置を追尾するのは不可能に近く、偵察衛星さえあれば攻撃目標の位置特定を全てカバーできるわけではない。
出典:Photo by Staff Sgt. Taylor Drzazgowski
米空軍も湾岸戦争時「イラク軍がスカッドミサイルを発射した移動式発射装置の撤収作業に30分かかると考え、これだけの時間があればDSP衛星が発射を検出し、射点の座標を割り出し、戦闘機で撤収作業中の移動式発射装置を破壊できる」と計算していたが、イラク軍はソ連のマニュアルに頼るのではなく「30分かかるはずだった移動式発射装置の撤収作業を6分に短縮する方法」を発見、そのためスカッドミサイルを発射してすぐ逃走したため、当時のISR能力では移動式発射装置の位置を把握するのが困難だった。
最終的に推定射点や移動式発射装置が隠れていそうな場所をB-52で爆撃してスカッドミサイルの発射を抑制したが、最後までスカッドミサイルの発射を止めることは出来ず、計2,493回のミッションで発射装置によく似た燃料補給車両や囮を破壊しただけで、本物の移動式発射装置を1基も破壊することが出来なかったため「米空軍最大の失策」と呼ばれている。
出典:Армія Інформ / CC BY 4.0
この技術的問題は2022年2月に勃発したウクライナ戦争、2026年2月に勃発したイラン戦争でも同じ傾向が確認されたが、この問題に一定の解決策をもたらすのがゼネラル・アトミックス製のMQ-1、MQ-1C、MQ-9A、MQ-9B、バイカル製のバイラクタル・TB2、バイラクタル・アクンジュ、トルコ航空宇宙産業製のアンカA、アンカB、アンカC、イスラエル航空宇宙産業のヘロンTPといった武装可能な無人航空機=UCAVで、この無人プラットフォームは情報収集、監視、目標捕捉、偵察=ISTAR能力に加えて攻撃兵器を携行することができる。
例えばTB2が装備するEO/IRセンサーは最大75km先の車両を認識でき、最大20km先にある目標の位置を特定可能で、最大24時間以上の滞空能力を活かしてリアルタイムで移動目標を発見したり、移動目標を追尾して位置特定したり、状況が許せば携行する攻撃兵器で目標を直接破壊することもできるが、有人機よりも小型なUCAVは低観測性に優れていても高度な防空システムが作動する空域での生存性は低くなり、米空軍は「中国が高度な防空システムを運用しているためMQ-9は太平洋地域の生存性が見込めない」と主張して2035年までにMQ-9を全て退役させる予定だった。
出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Renee Blundon
MQ-9はイラン戦争=エピック・フューリー作戦でもイラン領内における移動目標の発見、追尾、攻撃に投入され、イランの報復攻撃による地上での被弾によるものも含めて24〜25機が失われたと言われているが、MQ-9に対する評価は「防空システムに撃墜されるから役に立たない」のではなく「無人機最大のメリットを活かして有人機の撃墜リスクを肩代わりしている」へと変化し、米空軍は対イラン作戦で失ったMQ-9の補充、さらにMQ-9の後継機として高度なステルス性ではなく「消耗品として利用できる低コスト化」を要求している。
移動可能な防空システムの構成要素を完全破壊することは困難で、ステルス能力が優れるF-35もイラン領内で迎撃され機体が損傷し「電気光学/赤外線方式のセンサーからは逃れられない」と証明され、依然として移動目標の発見、追尾、攻撃のため敵領空内で活動するのはリスクが高く「有人機を投入して撃墜されるよりもMQ-9が撃墜された方がマシ」となり、米空軍のケネス・ウィルスバッハ参謀総長も20日に行われた下院軍事委員会の公聴会で「エピック・フューリー作戦で最も優秀な役割を果たしたのはMQ-9だった」と主張した。
The Iranian regime has been the number one threat to peace and stability in the Middle East for years. U.S. forces continue to take decisive steps to neutralize Iran’s power projection capabilities. pic.twitter.com/JOT7rRGH7L
— U.S. Central Command (@CENTCOM) March 13, 2026
ウィルスバッハ参謀総長は「エピック・フューリー作戦に空軍が保有するほぼ全ての戦闘機(F-15E、F-16C/D、F-22A、F-35A、A-10)と爆撃機(B-52H、B-1B、B-2A)を投入してイラン国内の標的1万3000以上を攻撃したが、イランに対する攻撃回数という点でMQ-9に匹敵する機体は他にない」「MQ-9は非常に有用な無人プラットフォームなのでパイロットを危険に晒すことがない」と証言。
エピック・フューリー作戦に詳しい関係者も「最も戦闘が激しい時期には一度に約12機のMQ-9がイラン領空内を周回飛行し続け、ミサイル発射装置、ドローン発射装置、航空機、移動式システムなどの動的目標に対する情報収集任務と直接攻撃任務に集中していた」と明かし、ダン・ケイン統合参謀本部議長も停戦直後「標的1万3000以上の中には戦場に突如出現し、即座に対処された4000以上の動的目標が含まれている」と報告したが、すでに米空軍はMQ-9の代替システムをテストする予定だ。
出典:DZYNE Technologies
米空軍が中東に派遣したのは米空軍研究所のUnmanned Long-endurance Tactical Reconnaissance Aircraft(ULTRA)計画で開発しているDZYNE製の「エンジン付きのグライダー型の無人長距離戦術偵察機」で、商用スポーツグライダーをベースにしたULTRA(滞空能力70時間以上、ペイロード約200kg、高度約7,600mを時速177km/hで飛行)は持続的な情報収集、監視、偵察=ISR能力、マルチインテリジェンス作戦、堅牢な通信能力を提供し、2024年に中東地域で最低でも1回の運用テストが行われている。
2027会計年度予算案にはULTRAの能力強化バージョン=ULTRA Turboへの資金供給が記載されており、このULTRA Turbo(滞空能力60時間以上、ペイロード約200kg、高度約9,000mを時速222km/hで飛行)はRotax 916を搭載し、滞空能力を少し犠牲にすることで飛行高度と飛行速度を引き上げて作戦運用の柔軟性を高めている。
出典:DZYNE Technologies
ULTRA Turboは米中央軍の責任地域でテストされる見込みで、War Zoneは「ULTRAの構成はマルチインテリジェンス仕様で、この用語は一般的にEO/IRセンサー、ハイパースペクトルセンサー、合成開口レーダー、地上移動目標指示モードを備えたレーダー、信号情報収集システムなど複数のセンサーを組み合わせた構成を指す。ULTRAは少なくとも機体下部にEO/IRセンサーの球体を搭載している」「ULTRA Turboは速度が向上しているので指定された運用エリアへの移動時間が短縮され、飛行高度の向上はグライダー設計のULTRA Turboにとって燃費面でメリットをもたらし、遠距離から目標エリアをより深く観測できる」と指摘した。
ULTRAやULTRA TurboはMQ-9の直接的な後継機=UCAVではないが、ミサイル発射装置、ドローン発射装置、航空機、移動式システムなどの動的目標に対する情報収集任務=位置特定に役立つ可能性が高く、2027会計年度予算案に計上されたULTRA計画全体の開発継続費用も1,657万ドル=約26億円なので、ULTRAやULTRA Turboの調達コストは相当安価なのだろう。
出典:weibo
一般人はスペックを比較して「F-35AとJ-20のどちらが強いのか」や「空母フォードと空母山東のどちらが優れているのか」を考えるが、この比較は天下一武道会のように「各システム同士がタイマンでどちらが強いか」を競う場合の優劣であり、実際の戦争ではF-35AもJ-20も、空母フォードも空母山東も巨大な戦闘キルチェーンを構成する一要素でしかなく、MQ-9、ULTRA、ULTRA Turboといった非ステルスの無人プラットフォームについても「ローエンドの対イラン戦で役に立ってもハイエンドの対中国戦では役に立たない」と考えるのは間違いだ。
高度な防空システムの目標探知距離が最大100kmだったとしても「この範囲の低高度から高高度までの全目標をカバーできる」と考えるのは「地球が球体であるという事実=レーダーの見通し距離」を無視した幻想であり、基本的にパトリオットシステム単体では低空域の目標探知や迎撃に相当な脆弱性が存在し、これをカバーするのが弾道ミサイル迎撃能力、長距離、中距離、近距離、超近距離に階層化された各防空システム、迎撃ドローン、対ドローンシステム、電子戦システムなどを1つのシステムとして運用する統合防空システムで、それでも完璧な存在ではない。
出典:Michigan Army National Guard photo by Spc. Aaron Good/Released
米陸軍のマコンヴィル大将は「ウクライナとロシアの戦争は安価でシンプルな技術がインパクトを残せると証明した」「高度な防空システムを『隙間のない壁』のようにイメージして『脅威はこれをすり抜けることが出来ない』と考えるのは間違いだ」「実際にはこれを回避する方法もあるし突破する戦術もある」と述べ、戦場の空にはこれまで利用してこなかった隙間がたくさん存在し、高度な防空システムはこの隙間を完全に塞げるわけではない。
つまり、非ステルスのMQ-9、ULTRA、ULTRA Turboを「高度なステルス能力を備えたプラットフォーム」と同じ戦術で運用し、同じ効果を期待し、同じレベルの生存性を求めるなら話にならないが、戦術を工夫し、価格に見合った効果を期待し、消耗することを前提で運用するなら役に立つとなり、インド太平洋地域で米軍と対峙する中国軍が高度なステルス能力を備えたプラットフォームだけでなく「非ステルスの無人プラットフォーム」にも力を入れていることを見ればたどり着く答えは明白だ。
出展:彩云香江
ウィルスバッハ参謀総長が「イランに対する攻撃回数という点でMQ-9に匹敵する機体は他にない」と述べたのは投射火力量を評価したのではなく、F-15E、F-16C/D、F-22A、F-35A、A-10、B-52H、B-1B、B-2Aの攻撃能力がどれほど優れていても「攻撃目標がどこにあるのか、特に移動可能な目標の位置が分からないと折角の攻撃能力が活かせない」という意味で、ミサイル発射装置を探すため標的地域上空を旋回している航空機は有人機であろうと無人機であろうと非常に脆弱であり、高度なステルス能力を備えたプラットフォームと非ステルスの無人プラットフォームを組み合わせるのが現時点でのベターな解決策なのだろう。
攻撃を意識した正面装備ばかりに資金を投資し、数より質を追求した少数精鋭の戦力構成は平時の精強なイメージづくりに役立っても「実際の戦争」には役に立たないことが多く、特に現代の軍事資産は移動、分散、欺瞞に力を入れているため「移動目標を検出して追尾する能力への投資」をおまけ程度にケチっていれば痛い目に遭うだろう。どれだけ強力な斧も目が見えなければ意味がない。
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※アイキャッチ画像の出典:DZYNE Technologies