トヨタグループ「頂点」の不動産会社、豊田織買収主導で影響力増す

トヨタ自動車の源流に当たる豊田自動織機の買収を主導するのは一般にはあまり知られていないトヨタ不動産という非上場会社だ。自動車業界に詳しい専門家からはトヨタグループの「頂点」、「要石」とも評される同社には2つの顔がある。

  1つ目は名古屋のランドマークとも言われる高層ビル「ミッドランドスクエア」の運営などを行う不動産会社としての顔だ。そしてもう1つはトヨタの創業者、豊田喜一郎氏の孫である豊田章男氏が会長を務め、価値にして1兆円を超えるトヨタグループ各社の株式を保有する持ち株会社の顔で、豊田織買収に伴いその影響力は増す見通しだ。

  トヨタ執行役員でトヨタ不動産取締役も務める近健太氏によると、豊田織の案件への関与は不動産会社ではなく持ち株会社としての側面からだ。近氏は6日にトヨタの自社メディアに配信した動画で、トヨタ不動産にはグループ15社が出資していることを挙げ、買収を行うのは「トヨタ不動産というよりも、トヨタグループ」だとの見方を示した。

  トヨタ不動産について、SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは、トヨタグループの「実質的にホールディングカンパニー的な役割」を担っていると話す。2022年4月に社名を東和不動産からトヨタ不動産に変更した同社について遠藤氏は、「以前からトヨタグループの頂点と言ったときに、トヨタ自動車ではなく東和不動産という人がいっぱいいる」と述べた。

  トヨタ不動産は今回の件で自ら約1800億円を出資し、銀行借り入れも含めて総額約4兆7000億円の大型買収を主導、そのスキームについては企業統治(コーポレートガバナンス)の観点から批判の声も出ている。豊田織は10日に愛知県内で定時株主総会を開く予定で質疑の内容が注目される。

  ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の吉田達生シニアアナリストも、トヨタ不動産は安定株主として多くのトヨタグループ各社の株式を保有する「要石」の役割を担っていると語った。一方、トヨタ不動産の大株主にはトヨタグループ各社が名を連ねており、持ち合い構造になっている。

  近氏によると、トヨタ不動産にはトヨタが24%、豊田織とデンソーがそれぞれ19%、アイシンが11%、豊田通商が7%出資をしており、創業家などの個人は株主になっていない。ただ、豊田氏は15年からトヨタ不動産の会長を務め、それ以前は同氏の父である章一郎氏がその職を担っていた。

持ち合い残る可能性

  3日に公表された買収・非公開化計画がうまく運べば、豊田織はトヨタ不動産の傘下に入ることになる。資本効率などの観点から根強い批判のある株式の持ち合いの面では、豊田織の非公開化に向けた一連の取引の過程で同社とトヨタ、デンソーアイシン豊田通商の間の持ち合いは解消される。

  BIの吉田氏は豊田織の買収・非公開化により外部の投資家や市場からの短期的な圧力に影響されにくくなり、長期的視点で迅速な意思決定が可能になるというメリットが考えられると述べた。また、デンソー、アイシン、豊田通商は持ち合い解消が進展し、ガバナンスが強化されているという外部の評価につながるとの見方を示した。

  その一方で、豊田織が持つ残りの保有株の今後については明らかにされておらず、上場企業のように一般の株主からの圧力に直面することのないトヨタ不動産の下で温存される可能性がある。

  英調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエイツのアナリスト、ジュリー・ブート氏は、グループ各社が豊田織から株式を買い戻すことは投資家に対する「善意の表れ」として見なされるはずだったが、株式の持ち合いはトヨタ不動産を通じて間接的に維持されることになったことで、この動きは「裏目に出た」と言う。

  同氏は、グループの一部で持ち合い構造が存続する可能性に加え「トヨタ不動産が非上場企業であるため透明性や説明責任が欠如している点は市場関係者から強く批判されている」と述べた。

トヨタらしさ

  豊田織を買収する特別目的会社(SPC)を傘下に置くことになる持ち株会社には豊田氏が10億円を出資する予定で、トヨタ不動産の会長も務める同氏のトヨタグループにおける影響力は増すことになる。

  ブート氏は、「豊田氏が投資家のアクティビストの活動活発化や株主の支持低下を懸念し、新たな組織再編と個人投資を通じてそれに対抗しようとした可能性は高い」との見方を示す。

  同氏の個人的な目標に配慮したことなどで、今回の買収の枠組みは「失望を招くものとなっており、グループ全体のコーポレートガバナンスにとって重大な後退となっている」と続けた。

トヨタ会長、このままでは来年取締役選任されず-自社メディアで発言

  豊田氏は6日の自社メディアでの動画で、自身は少額出資にとどまっており創業家が買収するわけではないと述べた。顧客第一などの「トヨタグループの『らしさ』を取り戻すため」に出資を行うと説明、創業家支配が狙いとの見方を否定した。

  豊田氏を「権力者」と呼ぶ向きもあるとした上で、今後の状況を見た上で「支配という言葉が的確なのか、共感・感動という言葉が的確なのか」判断してもらいたいと語った。

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