消費減税で「日本版トラスショック」は起こるか
超長期国債の市場に異変が起こっている。売買の過半数が海外ファンドになったのだ。
日本の財政悪化リスクというストーリーで上昇する超長期債の利回り。背景に海外投資家の動きか ーー 日本の超長期債、売買の5割が海外勢 財政膨張を懸念 – 日本経済新聞 https://t.co/sZLLuTKTAI pic.twitter.com/PUKlgpIkrM
— 清水功哉(日本経済新聞) (@IsayaShimizu) May 8, 2025
40年物国債(13回債)の価格は史上初めて50円を切った。
40年国債(13回債)の価格と金利(利回り)の推移ですが、金利と価格が逆に動くことが視覚的によくわかります。金利上昇も価格下落も激しいですね。金利と価格がなぜ逆に動くかは「はじめての日本国債」の2章を参照。 pic.twitter.com/4SHZMlun9a
— 服部孝洋(東京大学) (@hattori0819) May 10, 2025
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海外投資家の台頭
- 超長期国債(償還10年以上)の売買高で海外勢の割合が約5割に達し、国内の保険会社などを上回っている。
- ヘッジファンドなどの海外勢が中心で、買ってもすぐ売る傾向がある。特に30年債のスプレッドが縮小しており、長期金利の上昇を予想している様子
- 財政不安が影響
- 都議選・参院選など政治イベントで財政赤字拡大の可能性。特に野党がそろって減税を要求し、政府も何らかの財政措置に追い込まれるのではないか。
- 2022年の英国のトラス・ショックのような混乱が起こる恐れもある。
The Guardian
✅ 消費減税のシナリオ
◆ ステージ1:減税スタート
- 政府が「消費税を5%に下げます!」と発表(実際の減税は2026年4月)。
- 国民の多くは「やった! 買い物が安くなる!」と期待。
- 自動車・住宅などの耐久消費財は買い控えで売れなくなる。
◆ ステージ2:物価が下がり、買い物が増える
- 一時的に食品・日用品・家電などが5%近く値下がり。
- 特に低所得層や子育て世帯は「助かる!」と生活が少し楽になる。
- しかし減税が終わると可処分所得が増えるので、消費が増えて物価は上がる。
◆ ステージ3:財政への影響が表面化
- 消費税が5%になると、政府の税収が年間で約13〜15兆円減る。
- これまで消費税でまかなっていた年金・医療・介護などの費用が足りなくなる。
- 政府は赤字を補うために、国債をさらに発行。
✅ 日本版トラスショックは起こるか?
◆ まず「トラスショック」とは
項目 内容 いつ? 2022年9月~10月 どこで? イギリス 何が起きた? トラス首相が450億ポンドの大型減税と財源なしの財政出動を発表し、国債暴落・金利急騰・ポンド安へ 結果 金融市場の混乱、年金基金の危機、トラス政権はわずか45日で退陣このように信頼を失った財政政策が、市場を大混乱に陥れたのがトラスショックです。
✅ 日本で同じことが起きる可能性はあるか?
■ 共通点
- 大規模な減税による赤字財政(減税規模はどちらもGDPの2%程度)
- 財源が明確でない(社会保障費は増えているのに、収入を減らす)
- すでに高い政府債務(日本の借金はGDP比で世界最悪レベル)
- 長期金利がすでに上がりつつある状況(30年債・40年債利回りが急上昇)
こうした共通点から、日本でも「財政への信頼が揺らげば、トラスショック的な反応が起きる可能性」は否定できません。
◾️シナリオ:日本版トラスショック(想定)
- 政府が「消費税を5%に引き下げる」と発表(財源は「今は問わない」)
- 国債市場で超長期債の売りが加速→ 利回り急騰(3.5%~4%台へ)
- 円安・輸入インフレが進行
- 金融機関や年金基金が国債の評価損に苦しむ
- 日銀がYCCや買い入れを再強化 → インフレがさらに加速
- 財政の持続性に疑問が広まり、財政赤字がさらに増える
結果:政策の見直し・政権への強い批判・市場の不安定化(日本版トラスショック)
✅ 結論
消費減税そのものがトラスショックを起こすわけではありません。しかし、財源が不透明なまま実施され、しかも国債依存がさらに進むと、国債市場や為替市場が強く反応する可能性があります。
つまり市場の信頼を失ったときにこそ、トラスショックのような反応が起きます。債券市場はグローバル化が進んでいるので、自国通貨建ての国債かどうかは関係ありません。日本の財政に対する「最後の信頼の糸」が切れたとき、危機は現実になります。