ゴリゴリの共和党員すら50年ぶりに民主党へ全票投じた…米メディアが報じた「トランプ大惨敗」の実態
11月3日に投開票されたアメリカ中間選挙で、共和党は上下両院において過半数を失った。アメリカのドナルド・トランプ大統領が議席を守ろうと自ら打った奇策が、ことごとく裏目に出た格好だ。
投票日の夜、開票速報が流れ始めて間もないころ。
首都ワシントンのビストロ「バターワース」の店内を、「WINNING(勝っている)」の文字が踊る赤い帽子をかぶり、ホワイトハウスの職員が歩き回っていた。「テキサスを落としたら大惨事だ」と語った数分後、一報が入る。テキサス州の上院選で民主党のジェームズ・タラリコ州下院議員が当選確実と発表されたのだ。同州の上院選で民主党が議席を勝ち取るのは、1988年以来となる。
バターワースは、2期目のトランプ氏の支持者たちが首都の拠点としてきた店だ。この夜、集まった共和党の関係者たちは、「上院多数派マティーニ」という政治色のあからさまなカクテルを手に開票の行方を見守っていた。店に居合わせた米誌ヴァニティ・フェアのワシントン特派員、エイダン・マクラフリン記者によると、テキサスで共和党候補が劣勢と知り、頭を抱えて店を飛び出す客もいたという。
結果的に大敗を喫したその夜、トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、言い訳めいた投稿を残した。「私は投票用紙に載っていなかった(候補者ではなかった)。載っていたら我々は地滑り的に勝っていたのに!」。
■トランプ大統領が推した後継候補も落選
中間選挙は与党に不利になりやすい。それでも共和党は当初、上院の過半数が揺らぐことはないとみていた。
ところが、保守派が優勢なカンザス州では、民主党の上院議員が誕生することになった。1932年以来のことだ。南部のサウスカロライナ州では、急死した兄の後継としてトランプ氏が推したダーリン・グラハム氏が敗れた。メイン州では、5期務めた重鎮のスーザン・コリンズ上院議員までが議席を失っている。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、「これほど多くの支持をこれほど急速に手放した大統領はまれだ」と評した。ただし同紙が引用した調査では、投票者の53%が民主党に否定的な見方を示していた。有権者は民主党を選んだというより共和党を退けたと、同紙は分析する。
トランプ氏はテキサス州で、選挙区の区割りを変更することで議席を増やそうと目論んだ。同州の上院選では、共和党関係者から「高くつく」との警告が出るなか、スキャンダルを抱える候補を予備選で後押しした。自分への忠誠心が高い、との理由だった。出馬しない自身を主役に据えた党大会も大々的に開くなど、数々の策を展開した。だが、いずれも思うような成果につながることはなかった。
そうした中、物価高、イラン戦争、政権の私物化など、大統領就任以降に起きた数々の出来事に有権者は怒りを爆発させた。
■大統領に背いた21人の共和党州議員
1つ目の自滅は、議席を増やそうと選挙区の線を引き直したことだった。
2025年、トランプ氏の号令に応じたテキサス州の共和党は、本来10年に1度のはずの連邦下院の区割りを途中で引き直した。民主党が議席を持つ5選挙区を組み替え、トランプ氏が10ポイント以上の差で勝てる区にする狙いだ。州の38議席のうち30議席を共和党が獲得し、民主党を8議席に抑える皮算用だった。
号令は同じ年、インディアナ州にも放たれた。米NBCニュースによると、J・D・ヴァンス副大統領がインディアナ州に2度足を運び、トランプ氏は州上院の共和党の会合の場に電話まで入れている。区割りに慎重な州上院共和党トップのロッド・ブレイ氏を、トランプ氏はSNSで「弱く、哀れだ」と罵り、反対する議員には予備選で対抗馬を支援すると表明した。それでも民主党の2選挙区を分割する区割り案は12月、州上院で否決された。賛成19に対して反対は31で、うち共和党議員は21人に上る。
反対票を投じたスー・グリック州上院議員は、「我々は威圧には屈しない」と語った。否決されたその夜、トランプ氏は大統領執務室で記者団に、ブレイ氏への非難を繰り返す一方、「私はあまり関わっていなかった」と敗北を受け流している。その1年近く後、開票の夜に残した投稿とも、どこか重なる言い回しだ。
■ラテン系の票は民主党へ流れた
そして迎えた今回の中間選挙で、テキサスの選挙区の細工は裏目に出た。地元非営利メディアのテキサス・トリビューンは、共和党が奪うはずだった5議席のうち4議席を取れず、現有していた議席まで2つ失ったと伝える。30対8の皮算用だったが、結果は24対14。共和党の議席は現議会の発足時より1議席減ってしまった。
新しい区割りは、2024年にトランプ氏がラテン系有権者の間で伸ばした支持の大半を、共和党が維持できることを前提に引かれていた。共和党が奪取を見込んだ5選挙区のうち4つは、有権者の過半数がラテン系だ。ところがそのラテン系の票が、今回は民主党側に流れた。
国境沿いのリオグランデバレーでは、共和党がもともと議席を持っていた第15区で、メキシコ系音楽の歌手ボビー・プリード氏が現職のモニカ・デラクルス下院議員を破った。サンアントニオ周辺で共和党が新たに取りにいった第35区でも、デラクルス氏の兄弟が郡の保安官代理に敗れる結果となった。
ボビー・プリード(写真=Mezquitic/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)■身内も「プラスにはならない」と評した一言
2つ目の自滅は、トランプ氏が中間選挙の主役に自分を据え、さらには自分への忠誠心の高さで推薦候補を選んだことだった。
9月9日のテキサス州ダラス、NBAマーベリックスが本拠地を構えるアメリカン・エアラインズ・センター。会場となったアリーナではトランプ氏の写真が壁を埋めつくし、エレベーターの中にまで及んでいる。共和党が初めて開いた中間選挙に向けた党大会が、この日幕を開けた。ところが、大会が始まったばかりの場内では、ステージ近くまで空席が広がっている。
演説でトランプ氏は、11月の選挙には自分が出ていると思ってほしいと訴えた。共和党が上下両院で多数派を握った暁には、成人の市民全員に5000ドル(約79万円)を配るとも約束した。上院選の候補に推したケン・パクストン・テキサス州司法長官を持ち上げることも忘れず、「話し方は完璧ではないかもしれないし、これまで見た中で一番の男前でもないかもしれない」と評したうえで、「次の上院議員にふさわしい」と太鼓判を押した。BBCによると、共和党全国委員会のテキサス州代表委員、ロビン・アームストロング氏は、推薦候補の見た目や話しぶりを大統領自らけなしたこの発言について、「当然、決してプラスにはならない」と語っている。
ケン・パクストン(写真=Gage Skidmore/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)■敗因を候補者になすり付けたトランプ大統領
パクストン氏は起訴も弾劾もくぐり抜けてきたと、ニューヨーク・タイムズは説明する。どんな悪評も焦げ付かないことから、付いた二つ名は「テフロンのケン」。2020年の大統領選では、バイデン氏が勝った4州の結果を無効にするよう連邦最高裁に求め、トランプ氏の信頼を得た。トランプ氏は予備選の決選投票を前に何週間も支持表明を控えたが、最終的にその「忠誠」を理由にパクストン氏を推した。
党大会からおよそ2カ月後の開票の夜、同じダラス市内のホテルでパクストン氏の集会が開かれた。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、宴会場で飲み物を手に歩き回る数十人の多くは、赤いカウボーイブーツにトランプ氏の標語「MAGA(アメリカを再び偉大に)」の帽子という出で立ちだった。もともと少なかった人出は、思わしくない開票結果が伝わるにつれてさらにまばらになっていったという。同紙が引用した調査では、対立候補だった民主党のタラリコ氏が民主党支持層の99%を固めたのに対し、パクストン氏は共和党支持層ですら88%止まりだった。
米ロサンゼルス・タイムズが伝えたところでは、トランプ氏はその深夜、Foxニュースの電話インタビューに応じ、支持者が「候補者を気に入らなかった」ことを敗因に挙げた。一部の候補者については、「正直、そりの合わない人物でも、党のために受け入れた」とまで語っている。
■投票日、ガソリン価格が史上最高値に到達
トランプ氏は首都ワシントンの改修事業に入れ込んできた。日本でも度々取り上げられてきたのが、ホワイトハウスの東棟を取り壊してのボールルーム(舞踏ホール)の建設だ。これと並び、ホワイトハウスから数ブロック先では、リンカーン記念堂の前に細長く広がる池「リフレクティング・プール」の改修も現地で議論を呼んだ。底を青く仕上げたものの、数日で藻が繁殖して水はかえって緑色を帯び、塗装も一部が剥がれた。
リンカーン記念堂のリフレクティング・プールに映るワシントン記念塔(写真=NOAA Photo Library/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)投票日の前日、トランプ氏はその池で記者会見を開いた。池の底を写した写真パネルを掲げ、この夏に繰り広げた藻との闘いを20分以上にわたって語り続けた。「新品の配管を入れた。藻などの点で、配管はとても重要だ」。公金を投じた工事をめぐる熱弁から一夜明け、迎えた投票日。よりによってこの日、ガソリンと軽油の全米平均価格は史上最高値をつけたと、ヴァニティ・フェアは伝える。
共和党敗北の要因は、奇策の失敗のほかに3つあった。1つ目はガソリン価格の高騰に代表される物価高だ。AP通信の調査では、回答者の約8割が物価高で家計が苦しくなったと答えている。BBCが伝えたように、こうした声に対してトランプ氏はこれまで、物価高は民主党による「でっち上げ」だと主張してきた。
2つ目の要因は、イラン戦争の開戦だ。ヴァニティ・フェアによると、親トランプ派の論客マット・ウォルシュ氏でさえ、結果としてエネルギー危機を引き起こしたこの戦争についてXに、「アメリカ・ファースト(アメリカ第一)の原則への許しがたい裏切り」だと投稿している。
■権力を私物化する大統領への怒り
共和党敗北の3つ目の要因は、権力を私物化する大統領への怒りだ。AP通信の同じ調査では、回答者の約半数が政府の腐敗を「決定的に重要」な争点に挙げており、生活費の高騰とともに重要な関心ごとになっている。約6割は、大統領が国の利益より自分の利益を優先していると答えた。
ニューヨーク・タイムズによると、ミシガン州の整備店主ジェフ・ファワズ氏は、戦争をやめ、小規模事業者を助けるという約束を信じ、トランプ氏が挑んだ3度の大統領選のうち2度で同氏を支持した。だが今はトランプ氏を「これまで見た中で最も、金を出す者の言いなりになっている大統領」だとみて、同州上院選で民主党候補のアブドゥル・エルサイード氏に票を投じたという。
同紙が取材したカンザス州の共和党員で元州判事のヴァン・Z・ハンプトン氏も、これまでトランプ氏に2度投票した。しかし今回、連邦議会選や州の選挙など同じ投票用紙に記載されるすべての選挙で、民主党の候補に票を入れている。すべて民主党に投じたのは、同党のジミー・カーター氏が大統領に選ばれた1976年以来、50年ぶりのことだという。ハンプトン氏はトランプ政権が運営する連邦政府を、「盗賊に乗っ取られた船」にたとえる。勝利した民主党には、「愛しているからではない。正しいことをしてほしいからだ」とくぎを刺した。
■民主党勝利で大統領は「ミスター拒否権」に
日本への影響はどうか。
香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストが引用した共同通信の報道によると、木原稔官房長官は選挙結果がどうであれ日米関係を重視すると述べた。
日本にとって好ましいのは、関税政策など諸外国への強硬姿勢を貫いてきたアメリカ・ファーストの共和党が弱まったことだ。米政治ニュースサイトのポリティコが取り上げたあるアジアの外交官は、民主党が同盟国の「心の支え」になりうると話す。
ただし、日本の国益への総合的な影響は未知数だ。議会の過半数を失った大統領の矛先が、かえって国外に向きかねないとの見方もある。ポリティコの記事で同じ外交官は、議会で民主党が勢いをつけたところで、ホワイトハウスが打ち出す外交政策そのものは「実際には変わらない」とみる。
トランプ氏自身、投票日にCBSの電話取材に応じ、民主党が勝てばその法案を拒否権で阻む「ミスター拒否権」になると宣言した。
■残り任期2年余りの大統領とどう向き合うか
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは選挙前の週に公表した論考で、内政で苦境に立つ政権ほど外交での成果を急ぐと分析していた。サウスチャイナ・モーニングポストは、対米投資や防衛費の分担をめぐり、日本がさらなる要求を受けやすくなるおそれがあると伝える。
日本国際フォーラムが開いた会議のまとめは、選挙後のトランプ氏の立場次第で、在日米軍の駐留経費をめぐる交渉にどう臨むかが変わる可能性が高いと指摘する。いわゆる「思いやり予算」の根拠となる特別協定の期限は2027年3月だ。延長に向けた交渉はすでに8月に始まった。
区割りや候補選びから、果てはプールの改修まで、トランプ氏は自分に都合のよい目先の成果や忠誠にこだわり、物価高に苦しむ有権者の声から目を背けてきた。中間選挙で明らかになったのは、その結果、足元の支持基盤まで失ったという帰結だ。国内で裏目に出たそのやり方を反省せず、失点を取り返そうと対外関係でも強硬姿勢を繰り返すなら、つけを払わされるのは同盟国となりかねない。
日本政府には、残り2年余りとなった大統領の焦りに振り回されることなく、その先も続く日米関係を見据えたしっかりとした交渉が求められるだろう。
2026年9月22日、ニューヨーク市の国連本部で、トランプ大統領が高市早苗首相と非公式会談を行った(写真=Daniel Torok撮影/The White House/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)----------青葉 やまと(あおば・やまと)フリーライター・翻訳者1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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