マイナ保険証大混乱の現場 東京都世田谷区長・保坂展人に荻原博子が直撃!
東京都世田谷区と渋谷区は、「マイナ保険証」を持っているかどうかに関わらず、国民健康保険の加入者全員に健康保険証と同様に使える「資格確認書」を一律に交付することにした。世田谷区の保坂展人区長に経済ジャーナリストの荻原博子氏がインタビューした。
「区民が無保険になることだけは絶対に避けなくてはならない」
昨年12月に紙の「保険証」の新規発行が終了し、現在持っている保険証は最長で今年12月1日、国民健康保険や後期高齢者の保険証は、7月から9月末までの有効期限を迎える。
そのため、マイナンバーカードに健康保険証の機能を載せた「マイナ保険証」を持っている人には「資格情報のお知らせ」が送られ、「マイナ保険証」を持っていない人には「資格確認書」が送られてくる。
ところが、この方法に破綻の兆しが見え始めているのだ。
東京都世田谷区、渋谷区などが、「マイナ保険証」の有無に関わらず、国民健康保険の加入者全員に「資格確認書」を一律交付することを決めた。しかも、驚いたことに厚生労働省も、75歳以上に「資格確認書」を一律交付する。
「資格確認書」は「保険証」とほぼ同じもの。これを一律交付するなら、わざわざ多額の税金を使い、大混乱を引き起こしてまで「保険証」を廃止した意味はどこにあったのだろうか。
国民健康保険加入者全員に一律交付を決めた世田谷区の保坂区長に、一律交付せざるを得なくなった背景を聞いた。
5年前の悪夢再び
荻原 世田谷区の決断に私は拍手を送りたい。なぜなら、「マイナ保険証」と「資格確認書」が両方あれば多くのトラブルが回避され、助かる人が多くなるからです。
保坂区長 世田谷区には約92万人が住んでいて、そのうち約16万人が国民健康保険の加入者。その一人一人が「マイナ保険証」を持っているかいないか選別するのは大変な作業です。システム改修が必要となり、そのためには、時間、労力、予算がかかる。
荻原 予算は国が出してくれるのではないですか?
保坂 そうですが、ただ、できたシステムを円滑に維持・運営していく職員体制と予算もさらに必要となる。世田谷区は人口が多いだけに、転入、転出だけでなく、生まれたり亡くなられたりと、国民健康保険の制度の出入りが多い。中には「マイナ保険証」をなくした人や75歳になったので後期高齢者医療制度に移行していく人などもいて、毎日必ず確認しなくてはなりません。
荻原 だとしたら、「保険証」と同じように「資格確認書」を一律配布してしまったほうが、トラブルが減るということですね。
保坂 合理的に判断すると、そうなります。
荻原 しかも、この先3年間、多くの人が「マイナ保険証」の電子証明書が更新なしでは使えなくなりますね。
保坂 そうです。「マイナ保険証」は5年に1度、自治体の窓口で、電子証明書の個人認証の更新をしなくては使えなくなります。カード保有者の多くは、2020年9月から23年9月末までのマイナポイント付与キャンペーンで「マイナ保険証」を作っていて、その人たちが25年から続々と更新時期を迎える。そこで、役所の窓口が再び大混乱する可能性がある。
荻原 あれから、もう5年経(た)つんですね。あの時は役所の窓口で5時間待ったという人もいました。
保坂 大混乱でした。政府がマイナポイント付与の宣伝をするたびに、役所の窓口に長蛇の列ができた。それだけでなく、区に問い合わせが殺到して他の業務にも支障が出かねなかった。まさに悪夢でしたね。ところが、…