安倍氏命日、銃撃現場で1238人献花「日本を見守って」 石破首相には「早くやめて」
安倍晋三元首相の命日の8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前の銃撃現場近くに今年も献花台が設営され、30度を超える暑さの中、1238人が記帳に訪れた。「安倍さんの愛される力は大きかった」「これからも日本を見守ってほしい」などと自民党の党勢低迷を踏まえ、安倍氏の「喪失」を悔やむ声が上がった。一方、石破茂首相(自民党総裁)に対しては「総理の座にしがみつかないで」「早く首相を代わって」などと即時退陣を求める声が多かった。
「世界の中での日本を考えた人」
午前9時の献花開始を前に、参列者は後を絶たず、献花台には花束が積まれていた。ある参拝者は、「近所の花屋さんは9時にならないと開かない。皆さん、前日のうちに花束を用意していたのだろう」と話した。
安倍晋三元首相が銃撃された時刻に合わせて黙とうをささげる人々=8日午前、奈良市献花を終えた参列者に対しては、マスコミが取材をお願いしていた。
銃撃現場近くのマンションに住む主婦(65)は、安倍氏について、「日本を引っ張ってきた大物の政治家で鎮魂の思いで伺った。世界の中で戦後の日本をどうしていくのか考えていた人だったと改めて、今の政治を見て思う」と語った。
保守の羅針盤を失った自民党の現状を憂う声は少なくない。
九州歴史観光戦略研究所代表の井上政典氏は6月27日に福岡市で「安倍元総理の遺志を後世に紡ぐ会」を開催したという。いまなお安倍氏に対し否定的な一部の論調を疑問視し、「慰霊をしっかり行い、功績を次代にくみ上げることで、平和な国家をつくるべきではないか」と指摘した。
「まだ自民に信念持った政治家いる」
この日は、石破首相も奈良市の三笠霊苑で安倍氏の慰霊碑「留魂碑」前で手を合わせた。石破首相は、6月29日に東京都内で開かれた「安倍晋三元総理の志を継承する集い」にも参加した。
石破首相は安倍氏の政権運営に批判的な言動を繰り返した経緯がある。自民党奈良県連の関係者は「留魂碑も銃撃現場もこれまで石破首相が訪れたという話は聞かない」と振り返った。
安倍晋三元首相の銃撃現場近くの歩道に整備された花壇=8日午前、奈良市兵庫県芦屋市の自民党員の女性(70)は、安倍氏について「これほど偉大な業績を残した総理はいない。自分のためではなく、国益のために生涯をささげた」と述べた。自民の現状について、「完全にあきらめた支援者は他党に移るかもしれない。だが、自民党には信念を持った議員も数多く残っている。しばらくは見守りたい」と語った。しかし、石破首相に対しては「期待しない。申し訳ないが、頭を抱えている。早くやめてくださいというのが本音だ。総理の座にしがみつかないでほしい」と述べた。
「早く石破首相代わって」
奈良県生駒市の会社経営の男性(59)も、安倍氏について「日本はかけがえのない人を失ってしまった。一般に亡くなった方に対する言葉は『安らかに…』だが、安倍さんに対しては『高い所からしっかり見守っていただきたい』という気持ちだ」と述べ、自民党の行く末を不安視した。
安倍晋三元首相が銃撃された時刻に合わせて黙とうをささげる人々=8日午前、奈良市「自民党は残念なことになっている。安倍さんが健在ならば…」と述べ、石破首相に対して「早く首相を代わってくれという気持ちだ」と語った。
奈良市の男性(84)も「早く石破首相はやめてもらわないと困る」と述べた。
大阪府堺市の浪人生の男性(18)は幼少期に病気を患ったが、第一次安倍政権が医療設備予算を拡張していたおかげで命を長らえる経験をしたという。男性は「安倍さんのおかげで生きている。ずっと安倍さんを尊敬している。安倍さんが作りたかった日本を、僕ができるかどうかわからないが、引き継いでいかないといけない」と語った。
石破首相に対しては、「こういってはなんだが、支持していない。経済政策もバラマキ。今の自民党はごめんなさい」と語った。
石破首相に「誤解されているが良い方」の声も
午後5時の献花終了間際に訪れた京都府精華町の村田しゅうこ町議は、安倍氏の死去について「私たちが歩む道を指し示してくれた方で、本当に惜しくて惜しくて。でも私たちが頑張らないとだめだと心に刻んでいる」と語った。村田氏は新調した喪服で献花に訪れた。
銃撃現場付近の取材では、石破首相に対して否定的な声しか聞けなかった。留魂碑に訪れた参列者からも、「共産化した左の政権だ」「立憲民主党が政権を取っているようなもの」など石破政権を批判する声が聞かれた。
安倍晋三元首相の慰霊碑「留魂碑」前も黙とうする人々の姿で絶えなかった=8日午後、奈良市一方、村田氏は、石破首相の人柄の良さも紹介した。
「誤解されているが、本当に良い方だ。ツーショットも気さくに応じてくれる。自分をアピールするのが上手ではないが、講演を聞いたら素晴らしい方だと常々思っている。昔は党女性局のアイドルみたいな人だった」という。
「愛される力、大きかった」
献花台の設営は今回、SNSなどで告知されてはいなかったという。参院選の最中、安倍氏の慰霊を自民党が「政治利用」しているとの誤解を生むのを避けるための配慮だった。
奈良県大和郡山市の高校2年の女子生徒(16)の2人は駅から偶然、献花台を見かけて、急きょ駆け付け、安倍氏の遺影を前に手を合わせた。
2人は安倍氏について「やはり外交関係にすごい貢献をされた方で、すごい懐かしいなという気持ちになった。学生にまで及ぶほど安倍さんの活躍は大きかった。偉大な方だった」「手を合わせに来ることができて良かった。世界中のあらゆる方が安倍さんの死を悲しんでくださって、安倍さんの愛される力は大きかったのかなと思う」とそれぞれ語った。
2人はこう声をそろえた。「来年はお花を供えにこようという話をしている」。(奥原慎平)