トヨタがまたまた世界初!! 富士24時間レースに"超電導"で挑む内燃機関と水素の未来

 2026年6月5日(金)12時、トヨタがまたひとつ”世界初”を解禁した。ENEOSスーパー耐久シリーズ2026 Empowered by BRIDGESTONE 第3戦「NAPAC富士24時間レース」に、液体水素を燃料とする「#32 TGRR GR Corolla H2 concept」(以下、水素エンジンGRカローラ)が、世界で初めて「超電導液体水素ポンプ」を搭載して出走する。ステアリングを握るのはモリゾウ(MORIZO)こと豊田章男会長ほか4名のドライバー。BEV一辺倒ではないカーボンニュートラルの道を、トヨタは突き進む――その「本気」が凝縮された挑戦だ。

文:ベストカー編集局長T、画像:トヨタ自動車、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】トヨタがまた世界初!! 富士24時間レースに”超電導”を積んで挑む内燃機関の未来(2枚)

スーパー耐久富士24時間レースを走るゼッケン32、GRカローラ。水素エンジンを搭載し、モリゾウがステアリングを握る

 まず押さえておきたい技術が、今回の主役である水素エンジンGRカローラに積まれる「超電導液体水素ポンプ」だ。

「水素エンジン」とは、FCEVと同様に水素を燃料とするが、電気に変換することなく水素を直接エンジンで燃焼させる動力源のこと。システムがシンプルなぶんコストを抑えやすく、エンジンサウンドを奏でる内燃機関としての魅力もそのまま残せる点が、FCEVにはない強みだ。なにより100年以上の積み重ねがある「エンジン技術と部品」の多くがそのまま使える強みがある。

 内燃機関のエンジニアや膨大なエンジン部品工場従事者にとっては、希望の光が見える技術のひとつでもある。

 今回、その水素エンジンに送り込む液体水素を圧縮するポンプの動力源が、通常の電動モーターから「超電導モーター」へと進化した。この超電導液体水素ポンプを搭載してレースに出るのは、世界で初めてとなる。

技術説明資料。タンクを大型化(大容量化)できた仕組みを解説

 効果は数字に表れている。従来はタンク上部に置かれていたモーターユニットを、まるごとタンク内に収めたことでスペースが生まれ、2025年最終戦時点で220Lだったタンク容量が最大300Lへ。実に1.3倍以上の拡大だ。水素搭載量は20kgに達し、計算上は富士スピードウェイを「40ラップ分」走れるだけの燃料を積めるようになった。

 ただし、ここは正確に書いておく。40ラップ”分の燃料を積める”ことと、40ラップ”走り切れる”ことは別の話だ。実際の航続ラップ数は今回の24時間レースで確認することになる。 そして後述するように、現時点では課題もある。

  22年最終戦 23年最終戦 24年最終戦 25年最終戦 26年24時間 水素の種類 気体水素 液体水素 液体水素 液体水素 液体水素 タンク容量 180L 150L 220L 220L 300L 水素搭載量 7.3kg 10kg 15kg 15kg 20kg 航続ラップ数(1充填あたり) 約12周 約20周 約30周※1 約30周※2 本レースで確認 航続距離(1充填あたり) 約54km 約90km 約135km 約135km 本レースで確認

※1 2024年は電気系トラブルにより走行時間不足となり、24時間を走り切れず※2 2025年は無事24時間完走を果たす

 2021〜2022年は気体水素、2023年から液体水素へ移行(初参戦時はポンプを2回交換しながら24時間を完走)。2024年は楕円タンク採用と液体水素ポンプの大幅な耐久性向上で30周ペースを実現し、2025年はついに富士24時間を完走。そして2026年、超電導液体水素ポンプとDAT化という新段階へ踏み込んだ。

 そもそも超電導とは、ある物質を極低温まで冷やすと電気抵抗が完全にゼロになる現象だ(臨界温度と呼ばれる転移点以下で発現する)。MRIやリニアモーターカーで使われている技術といえばイメージしやすいだろう。問題は、その超低温をどう作るかだ。ふつうは電気で動かす冷凍機が必要になる。

 ところが、水素エンジンGRカローラの燃料は、マイナス253℃という極低温の液体水素そのものだ。つまりこのクルマは、超電導が働く温度環境を”最初から持っている”。冷凍機なしで超電導を使える――これが最大の強みであり、液体水素と超電導が結びつく必然でもある。

 超電導化による設計上のメリットは三つある。①モーターをタンク内に収めることでタンク上部のスペースが空き、容量が大幅に拡大する。②重量物がタンク内・低位置に移るため低重心化・軽量化が図れる。③これまで入熱源となっていたフランジ部分をなくすことで、ボイルオフ(液体水素の気化ロス)の低減が期待できる。また超電導モーター自体は電気抵抗ゼロにより99%超という超高効率を実現している(京都大学との共同設計)。

 ただし①②は今回の回転型で実現できているが、③のボイルオフ低減についてはまだ達成できていない。その理由は次の節で説明する。

 ここからはさらに踏み込んだ話。この水素エンジンカローラの技術説明会で、記者から「この技術の、市販化の見込みは…?」と質問が飛び、トヨタ自身は「まだ発展途上」、「段階的に進化させる段階」と、現時点では「将来の話」であることをハッキリ認めている。

 今回投入する回転型の超電導ポンプには、回転運動を往復運動へ変換するためにギヤ/クランク機構が必要だ。マイナス253℃という超低温下でギヤを回すこと自体が難しく、狙っていた軽量化・耐久性のメリットはまだ充分に引き出せていない。

 厄介なのはボイルオフ(気化ロス)だという。ギヤ機構が液体水素をかき回してしまううえ、タンク大型化で液面の揺れ(スロッシング)の挙動が変わり、防波板が抑えきれなくなった。結果、せっかく40ラップ分を積めても、増えた水素を有効に使い切れていない――というのが正直な現在地だ。

 だからこそ、トヨタはこの課題を富士24時間レースという過酷な現場にぶつける。S耐のST-Qクラスは、市販車をベースにした日本最大級の草の根レースの中で、開発車両の参戦が認められた”動く実験室”。極限の負荷でデータを取り、次の一手につなげる。その次の一手が、ギヤ機構を不要にする「リニア駆動型超電導ポンプ」の開発だ。実現すれば耐久性向上、さらなる小型・軽量化、ボイルオフの大幅低減が見込まれる。今回の24時間は、その理想形に近づくための実戦データ収集でもある。

次ページは : DAT化、そしてマルチパスウェイ――トヨタが諦めないもの

関連記事: