アングル:米で広がる駆け込み輸入、「トランプ関税」に備え

 1月30日、トランプ米大統領が幅広い輸入品に関税を課すと脅しているのを受け、多くの企業経営者は様子見の姿勢を表明していた。しかし、実際にはそうでなかったことがこれまでに発表された2024年第4・四半期の企業決算で浮き彫りになった。カリフォルニア州オークランドの港で20日撮影(2025年 ロイター/Michaela Vatcheva)

[ニューヨーク/ロンドン 30日 ロイター] - トランプ米大統領が幅広い輸入品に関税を課すと脅しているのを受け、多くの企業経営者は様子見の姿勢を表明していた。しかし、実際にはそうでなかったことがこれまでに発表された2024年第4・四半期の企業決算で浮き彫りになった。

米ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N), opens new tabや独メルセデス・ベンツ(MBGn.DE), opens new tabなどの自動車メーカー、フランスのコニャックメーカー、イタリアのパルメザンチーズやスパークリングワインのメーカーはいずれも米国への納入を前倒ししている。一方、コモディティー商品のバイヤーは鉄鋼やアルミニウム、大豆の購入を増やした。

ドイツ・ケルンのサプライチェーン(供給網)コンサルタント企業、インベルトのマネージングディレクター、パトリック・レッパーホフ氏は「各企業が米国への輸入を前倒ししているのが見られる」とし、「彼らは関税によってどれだけの打撃を受けるかのシナリオをモデル化し、一定期間をカバーするために輸入量をかなりおおざっぱに決めている」と指摘した。

企業幹部らはロイターの取材、または電話会議で、世界貿易を根底から覆し、一部企業に生産を米国へ移すように促す可能性のある関税についてのトランプ氏の計画の変化により、不確実性を増す環境での課題について語った。

不確実性を背景に企業を出荷ラッシュに駆り立てる動きは、トランプ氏が今年1月20日に就任する前から起きていた。昨年12月の米貿易赤字は約1220億ドルと月間としては過去最高になり、輸入が前年同月より4%増えた一方、輸出が4.5%減少したのが要因だった。

10―20代の若者向けのカジュアル衣料品を販売する非上場企業のパックサンは、商品を輸入している多くの小売企業の1つだ。ブリアン・オルソン最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、不測の事態に備えた計画の一環として25年第1・四半期の売上高の一部を前倒しで計上するとともに、「関税タスクフォース」を設置してサプライヤーとどのように取り組むかを検討するために週2回会談していることを明らかにした。

オルソン氏は「パックサンは、サプライヤーやベンダーを最大限手助けできるように非常に積極的な計画を立てている」と説明した。

トランプ氏が関税をかけると脅してきた内容は、メキシコからの輸入自動車に100―200%の関税を課す可能性から、全ての輸入品に関税を課す可能性まで多岐にわたる。隣国であり主要貿易相手国のメキシコとカナダからの輸入品に関税を課すとしている2月1日が、トランプ氏の意思の固さが分かる最初の機会となる。

実施すれば多くの分野に影響が及ぶ可能性がある。米政府のデータによると、24年に米国がカナダとメキシコから輸入したモノは約8440億ドルで、輸入額全体の約28%を占めた。

一方、準備に向けた動きは一部企業の業績を大きく伸ばしている。ドイツの化学企業、ランクセス(LXSG.DE), opens new tabは米国の顧客が前倒しで購入したことで24年第4・四半期の利益が予想を大幅に上回ったと説明した。

業界団体によると、イタリアのメーカーはパルミジャーノ・レッジャーノチーズの米国への出荷を増やした。

24年11月と12月に20フィートコンテナの米国への輸入が急増し、それぞれ21年以来の多さとなった。

コモディティー供給網のコンサルタント会社であるマーキュリーグループのホセ・セベリン氏によると、フロリダ州タンパとテキサス州ヒューストンの貿易会社はトランプ氏の就任初日に関税がかけられることを想定して韓国、日本、トルコから鉄鋼を購入した。その結果、倉庫や港に大量の鉄鋼が滞留してボトルネックとコスト上昇を招いた。

アルミニウム大手、アルコア(AA.N), opens new tabのウィリアム・オプリンガー最高経営責任者(CEO)は今月、投資家に対して「当社は供給ルートをカナダの製錬所から欧州へ変更することもできる」と説明した。
Graphic showing container import volumes to the U.S. over November and December combined, for the years 2016 to 2024

<組立工場の移転も>

北米自由貿易協定(NAFTA)が1994年に発効後、自動車分野を中心とするメーカーが比較的安価な労働力を活用するため、巨大市場の米国に隣接したカナダとメキシコに工場を建設した。

GMは24年第4・四半期にカナダとメキシコの工場からの出荷を加速させた。ポール・ジェイコブソン最高財務責任者(CFO)は「関税が導入される前に納品できれば、在庫を抱えるより(中略)ずっといい」と語った。

トヨタ自動車(7203.T), opens new tabが米国で年間20万台超販売しているピックアップトラック「タコマ」は全てメキシコから輸入されている。トヨタに近い人物は昨年11月の大統領選前に、関税によってトヨタが米テキサス州サンアントニオの組立工場に生産を移す可能性があると指摘していた。

LSEGによると、S&P500種株価指数に含まれる企業の利益の40%弱は米国以外で稼ぎ出されている。

一方、大統領選でトランプ氏に投票したという非上場の玩具メーカー、MGAエンターテインメントのアイザック・ラリアンCEOは、製品出荷を上積みしていないと話す。年末商戦が終わり、余分な在庫を抱えるとコストがかかるためだ。

ラリアン氏は「玩具ビジネスはファッションビジネスで、常に変化している」とし、「関税がかかることを見越して、在庫をそれほど買うことはできない」と言及した。

米国のワイン輸入企業のオールド・ブリッジ・セラーズ(OBC)のロブ・ブオノ社長は、トランプ氏が1期目の19年にシャンパンに関税をかけると脅した時は、「大金」を費やして1年分相当を輸入したものの、結局は関税の対象から外されて割高な在庫が残ったと振り返る。その経験から、余分に買うのは関税が確定した場合だけだと打ち明けた。

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Arriana McLymore is a New York-based reporter covering e-commerce, online marketplaces, alternative revenue streams for retailers and in-store innovation. She previously reported on telecoms and the business of law.

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