ガラパゴス諸島のトマトは退化していることが判明

サイエンス

ガラパゴス諸島の若い火山島に自生する野生のトマトが、数百万年かけて獲得した進化的形質を捨て、祖先が持っていた原始的な化学防御能力を復活させているという研究結果が、学術誌Nature Communications で発表されました。この現象は「逆進化」の一例として注目されています

Enzymatic twists evolved stereo-divergent alkaloids in the Solanaceae family | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-025-59290-4

Tomatoes in the Galápagos are quietly de-evolving

https://phys.org/news/2025-06-tomatoes-galpagos-quietly-de-evolving.html

南米から鳥によって運ばれた祖先から進化したガラパゴス諸島の野生トマトは、現代のトマトとは異なり、ナスに近い祖先が持っていた有毒なアルカロイドを生成しているとのこと。カリフォルニア大学リバーサイド校のアダム・ジョズウィアク氏らのチームは、この現象がステロイドグリコアルカロイド(SGA)と呼ばれる化合物の立体化学的な違いによって生じることを突き止めました。

ステロイドグリコアルカロイド(SGA)は、主にトマト、ジャガイモ、ナスといったナス科植物に含まれる天然の化学物質です。構造的には、ステロイドを基本骨格とする「アグリコン」と呼ばれる部分に、糖が結合してできています。

植物にとってSGAは、昆虫や菌類、草食動物から身を守るための重要な防御物質として機能し、内蔵された殺虫剤のような役割を果たします。しかし、人間を含む動物にとっては高濃度で有毒となるため、食品の安全性において管理が必要な成分でもあります。 SGAはその立体構造によって「25S型」と「25R型」の2種類に大別されます。例えば、トマトやジャガイモは主に25S型のSGAを作るのに対し、ナスは25R型のSGAを生成します。このわずかな立体構造の違いがSGAの毒性や生物活性に大きく影響すると考えられています。 この立体構造の違いを生み出すのが、GAME8という酵素です。GAME8はSGAの元となるコレステロール分子の末端にあるメチル基のうち、どちらか一方を特異的に水酸化することで立体構造を決定づけます。

これまでの進化の過程で、ナス科植物の祖先はもともと25R型を生成するGAME8酵素を持っていたものの、遺伝子変異を経て、トマトなどの一部の種は25S型を生成する能力を獲得したと考えられています。そして、ガラパゴス諸島に群生するトマトは、進化の過程で一度失われたはずの「25R型を生成するGAME8酵素」の遺伝子を再び獲得していたというわけです。 研究チームによると、この現象はガラパゴス諸島全体で一様に起きているわけではなく、島の地理や形成年代と強い関連がみられたとのこと。 例えば、比較的古く、生物多様性が豊かな東側の島のトマトは現代的な「25S型」アルカロイドを生成していました。一方、火山活動が活発で環境が厳しい西側の若い島のトマトは、祖先的な「25R型」を高い割合で含んでいたそうです。このことから、研究者たちは、西側の島の厳しい環境が、より強力な防御効果を持つ可能性のある祖先のアルカロイドを復活させる淘汰圧として働き、逆進化を促したのではないかと考えています。

研究チームは、今回の研究結果は、進化が必ずしも一方向的な前進ではなく、環境の変化に応じて過去の遺伝情報を再利用する柔軟なプロセスであることを示していると論じています。酵素の機能をわずかに改変することで、生成物を制御できるという知見は、将来的により毒性の低い作物の開発や、病害虫に強い新品種の設計、さらには新たな医薬品の工学的な生産に応用できる可能性があると、研究チームは期待を寄せています。

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