勇ましかった高市発言とは裏腹に…「トランプのアメリカ」が台湾有事でリスクを取る望み薄と言えるワケ
台湾有事が起きたとき、アメリカはどう動くのか。国際安全保障を研究する佐々木れなさんは「中国とアメリカの動きを見ていると、トランプ政権が台湾有事の際に介入してくるとは考えにくい」という――。
※本稿は、佐々木れな『自滅する米中』(SB新書)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/pigphoto
※写真はイメージです
台湾は日米同盟の死活問題
台湾の将来は、日米両国にとって死活的に重要な問題ではある。しかし、日米同盟のこれまでのアップグレードは、決して台湾有事のみを念頭に置いたものではない。日米同盟は台湾有事のためのオーダーメイドではないのだ。
したがって、台湾統一をめぐるシナリオはいずれも日米同盟に厳しい試練を突きつける可能性がある。
日米同盟には台湾統一に対応しがたい局面がある。
まず、平和的統一は、日米同盟にとっては現在の設計上、対処できない問題である。長年の中国側によるさまざまな浸透工作や政治的・経済的な働きかけにより、少なくとも外形上は台湾が自発的に中国に統一されることを選んだ場合、もはやそれを止める手段は日米にはないだろう。
また、まったくもって武力行使の根拠はないものの、中国による平和的統一を阻止すべく、国際法を無視して力ずくで米国が軍事介入するという判断もないわけではない。しかし、日本がそこに加わるというのは日本の法制度上、また国内政治上、不可能に近い。
米国は台湾有事に介入するか?
グレーゾーン活動も、最終的には平和的統一と同様に、脅しや圧力の結果、台湾が中国に統一されることを選択することになる。
さらに言えば、現状中国が東南アジア諸国、米国の同盟国であるフィリピンに対して行っている海上威圧行為に米軍が介入していないことを踏まえると、台湾が音を上げるまでの段階で、介入が行われるという希望は薄い。いずれにせよ、こうした事態は同盟の信頼性を静かに掘り崩すこととなるだろう。
封鎖や全面侵攻はまさに、日米が2015年の安保法制およびそれに伴う日米ガイドラインで準備してきた共同対処方針を発揮する場面である。このシナリオならば、現在の日米同盟で対応できそうだ。
しかし、中国が急速に軍事力を強化し、西太平洋では通常兵力の米中軍事バランスが逆転しているとも見られている現状である。そこに日米が軍事的に介入するということは、それ自体が、戦後日本が経験したことがないような耐えがたい人的・物的な被害を受けるリスクがあることを意味する。
さらに言えば、台湾有事において、現行の日米ガイドラインでは米国が主対応、日本が後方支援を含む補助的対応という構造になっている。そのため、そもそも米軍が動かなければ、日本側にできることは著しく少なくなるという問題をはらんでいる。
いずれにせよ、日米同盟がその限界を露呈することは避けられない。
Page 2
しかし、その秩序を米国自身が破壊しようとしている。
トランプ大統領の側近で現政権の経済政策に強い影響力を与えているとされているのが、日本における日銀に相当する連邦準備制度理事会(FRB)の理事であるスティーブン・ミランである。
佐々木れな『自滅する米中』(SB新書)
彼は、「ミラン論文」と呼ばれる2024年11月の論考で、米国は現在の自由貿易体制の被害者であり、米国の同盟国は、米国の安全保障と経済の傘の下にいるため、敵国・中立国よりもさらに高い関税を負担すべきであると主張した。
トランプ政権は実際に、日本、韓国、NATO諸国等にも容赦なく、相互関税や分野別関税という名目で高関税を課し続けている。日本でも「トランプ関税」と騒がれ、赤澤亮正経済再生担当大臣(当時)の度重なる訪米が報道された。
これらは、米国が主導してきた現在の国際秩序そのものへの信頼を低下させる行為である。米国が軍事介入に積極的かどうかに関係なく、米国への信頼を失わせている。
中国は世界のリーダーの座を狙う
一方の中国側は依然として米国の圧倒的な軍事力を警戒している。だから米国のこうした対外政策の変化を見て、直ちに台湾に対する軍事行動を起こすとまでは予断できない。
しかしながら、米国の政策変化に便乗しているのは確かだ。米国が自ら失点し続けているなか、自国こそが国際秩序や自由貿易体制の擁護者であるとして、国際社会における立場の強化や影響力の拡大を図っている。
結果的に各国の米国離れが進み、中国に対する信頼感が増せば、仮に台湾統一のために強硬手段に出たとしても、国際社会からの批判を抑えることができるかもしれない。そう計算している可能性もあるだろう。
少なくとも、抑制主義者のトランプ政権内での影響力拡大により、中国は、日米が対処に苦労する平和的統一やグレーゾーン活動のシナリオでは、米軍の介入がない可能性が高まっているとの見立てを有しているだろう。そしてもしそのような統一シナリオが実現すれば、日米はしてやられることとなる。
さらに、武力行使を伴う封鎖や全面侵攻シナリオにおいても、トランプ政権が台湾への3億3000万ドル(約510億円)の武器売却を2025年11月まで却下し続けていたこと等を踏まえると、ウクライナに対する軍事支援のような武器供与すらしないのではないかと中国側に思われても仕方ないだろう。
抑制主義的な動きは中国の、台湾統一に向けた軍事オプションの検討をさらに加速させてしまうこととなる。
写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです