ChatGPT登場3年、市場は過度の楽観に警戒を

OpenAIが開発した対話型生成AI(人工知能)、ChatGPTの予期せぬ登場が世界を驚かせてから3年が経過した。何年もかけて蓄積された技術を人々が広く使えるようになり、1993年のワールドワイドウェブ(WWW)の一般向け開放と同じような衝撃をもたらした。

  2022年11月30日は、状況を一変させた分岐点としてますます重みを増している。

  これについては多くの論評があるが、市場への影響に絞ると、ChatGPT公開後の世界は、非常に少数の巨大な勝者が支配する展開となった。S&P500種株価指数の構成銘柄のうち、エヌビディア株の値上がりがこの間で最も大きかったことは、言うまでもない。直近の数営業日は荒い値動きとなり、過去3年の上昇率は1000%を若干下回ったが、いかにリターンが集中しているかを物語っている。

  3年でここまで成長する企業自体は珍しくないが、すでに世界有数の規模となっている会社がここまで成長するのは例がない。AIが変革を起こす期待と、エヌビディアが準独占的地位を維持できるという確信が背景にあると考えられる。しかし、こうした前提に沿って多くの物事が進む中で、見直しが起きても不思議ではない。

  意外なのは、生成AIが国際秩序を変えたと言えるほどの影響をまだ及ぼしていない点だ。恩恵を受けるごく少数の米大企業に巨額の資本が集まったことを除けば、ほとんど変化は見られない。

  エヌビディアやグーグル親会社アルファベットを含む「マグニフィセント・セブン」を除くブルームバーグ独自の米大型株500銘柄指数と、米国を除く先進国・新興国市場全体を対象とするFTSEの指数を比較すると、両者はおおよそ同じ動きを示し、いずれもChatGPTのリリースから1年経過するまで本格的に動き出すことはなかった。

  エヌビディアの半導体に投じられる資金はまさに桁外れだ。準備中の設備投資は、経済全体の予測を変えるほど規模が大きい。それでも金融市場について言えば、勝ち組と見なされる一部企業のバリュエーション(株価評価)高騰のストーリーにとどまっている。

  次のチャートは、S&P500種の時価総額加重指数(マグニフィセント・セブンが今や3分の1余りを占める)と、全銘柄を0.2%ずつ割り当てた均等加重指数の株価収益率(PER)を比較したものだ。

  この二つは通常、ほぼ同じ動きをする。新型コロナウイルス禍後の利上げで、短期的に厳しい弱気相場となったChatGPTのリリース当時、両指数のPERはいずれも低い水準にあった。その後の目覚ましい回復ぶりは、革新的で新たな技術の影響というよりスタート台が低かったという側面もある。

  均等加重指数のPERはそれほど上昇していない。ChatGPTの登場後間もなく起きた変化は、時価総額加重指数のPERとの乖離(かいり)だ。平均的な米株のバリュエーションは高めではあるが、注目するほどではない。これに対し、マグニフィセント・セブンの時価総額ウエートを完全に反映した全体指数は割高に見える。

  ここから導き出される結論は何だろうか。「バブル」かどうかの議論はやや不毛で、バブルをどう定義するかで大きく変わってくる。3年で大いに進化したChatGPTや類似アプリを試す機会は存在し、確かに胸が躍る。市場が先回りするのは自然なことで、株式投資は過去ではなく、企業の将来的な利益に賭けるものなのだ。

  株式市場を見ると、ChatGPTが現時点でもたらした変化は一部企業の急成長にほぼ限られ、それも将来への期待が中心だ。バブル崩壊という形を取るかは別として、ChatGPTが何度も年を重ねる前に一連のチャートの線は、どこかの時点で再び収れんするだろう。マグニフィセント・セブンが下落する形になるにせよ、その他の株が追い付く展開になるにせよ、その可能性が高い。

  ここは深呼吸をして、米テクノロジー大手以外のウエートを高める戦略を検討するのが合理的だろう。

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグに移籍する以前は英紙フィナンシャル・タイムズでチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:ChatGPT Is Three. Don’t Crack the Bubbly Just Yet: John Authers(抜粋)

— 取材協力 Richard Abbey

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