地球の地下深くにも、多様な生命が繁栄していることが判明
地球の地中奥深くには、地上や海に匹敵するほど多様な生命が存在するそうだ。
かつて地下は生物にとって住みやすい場所ではないとされていた。生命が繁栄するには、太陽の光と暖かさが必要だと考えられていたからだ。
地中の生物多様性は乏しいと思われていたが、こうした見解は変わりつつある。
最新の研究では、地表に比べてエネルギー供給が桁違いに少ない地中であっても、細菌や古細菌が繁栄していることを明らかにしている。
驚いたことに、地下の生態系は、この地球の全微生物細胞の半分以上を占めるほど豊かである可能性があるという。
微生物は地球のほぼあらゆる場所に適応してきた。ならば太陽のエネルギーがほとんど届かない地下奥深くはどうなのか?
米国ウッズホール海洋生物学研究所のエミル・ラフ氏らは、これを調べるために2016年から世界中の地表と地下のサンプルを集めてきた。
そうしたサンプルはたとえば、鉱山やボーリング孔などから採取された岩石・堆積物・地下といったものだ。
陸の地下だけでなく、海底の地下からもサンプルは採取された。さらに洞窟や熱水噴出口のような地表と地下の境界にある環境もまたサンプルの採取場所である。
この画像を大きなサイズで見る海底の泥火山。地表下のメタンを多く含む流体が水柱に放出される。これらの生態系は地表と地下の境界環境にあり、深海の生命のオアシスとなっていることがある。 image credit:Mandy Joye/UGAこうして集めたサンプルに含まれている細菌と古細菌のDNAを解析し、それぞれの環境における生物多様性を測定する。
この10年近くにわたる根気のいる調査で明らかになったのは、地下の種の豊富さは、地表にも匹敵するということだ。
驚いたことに、細菌と古細菌がもっとも多様だったのは、太陽の光がさんさんと降り注ぐ地表ではなく、地表と地下の境界環境や海洋堆積物だったという。
また地下の細菌と古細菌に限定するなら、前者が一番多様だったのは洞窟と海洋堆積物、後者ならば塩水・洞窟・冷水噴出帯、湧水・深海だった。
この画像を大きなサイズで見る南アフリカの金鉱山で、地質微生物学者のチームが活動を停止したトンネルの奥にあるサンプリング地点へ向かっている。この場所は地表から約3kmの深さにあり、地球上で最も深く、最も古い生態系のひとつにアクセスできるポイントだ。ここで微生物が生息する塩水は、岩石の中に10億年以上も閉じ込められていたものだ。Credit: Emil Ruff古細菌と細菌は同じ単細胞生物だが、進化系統や細胞の構造が異なる。
古細菌は極限環境に適応しており、その細胞膜は「強い膜」を作る特殊な成分でできている。一方、細菌の細胞膜は「柔らかい膜」の成分で作られ、地球上のあらゆる環境に広がり、病原菌や有益菌として多様な役割を持つ。
この研究で明らかになった地下の古細菌と細菌は、次のようなものだ。中には人間の役に立ったり、地球環境にとって大切な役割を果たしているものいる。
・ユーリ古細菌海洋の地下に豊富に存在する古細菌。極端な高温環境で繁殖し、二酸化炭素を還元してメタンを生成する。こうした古細菌が作るメタンはすでに燃料として使用され、非常に役立っている。
・アスガルド古細菌こちらも海洋の地下で豊富な古細菌。真核生物(人間を含む、細胞に核がある生物)にもっとも近いとされており、生命進化を解明するうえで重要なヒントになる可能性がある。
・ニトロスピラ門陸上の地下で一般的な細菌。アンモニアを酸化させる力があり、また別の細菌がこれを亜硝酸塩に還元している。亜硝酸塩は植物プランクトンの重要な栄養源だ。
・プロテオバクテリア門陸上と海洋の地下で豊富な細菌。プロテオバクテリアの中には海溝に生息し、一酸化炭素を酸化するものがいる。
・デスルファバクター類プロテオバクテリア門の仲間で、海洋の地下で一般的。硫酸塩を還元し、汚染された土壌の浄化に役立つ。
この画像を大きなサイズで見るユーリ古細菌 Angels Tapias. Microscopist: Jeril WIKI commons研究チームにとって意外だったのは、深くなるほどに全体的な多様性が上がったことだ。深くなれば、使えるエネルギーが少なくなるため、これはまったく予想外なことだった。
個別に見ると、古細菌の場合、陸上では深くなるほど多様性が増したが、海洋ではそうではなかった。細菌はそれとは逆に、陸上ではなく海洋で深さが増すほどに多様性が上がった。
このように、私たちは地下の世界についてあまりよく理解していない。ラフ氏によるなら、今回調査したところのさらに奥深くでも、乏しいエネルギーに適応した単細胞の微生物がいるとのこと。
そうした微生物は、代謝を極限まで遅くしており、たった1度の細胞分裂にも数十年か数世紀かかったとしてもおかしくないそうだ。
仮にこのような方法で人間よりも長く生き続ける微生物がいるのであれば、放射線によって荒廃した火星のような惑星でも、地下に生命が存在する可能性はある。
火星の生命の可能性について、ラフ氏はニュースリリースでこのように述べている。
「地球の深部の生命を理解することは、火星に生命が存在したかどうか、それが今も生きているかどうかを知るためのモデルになるでしょう」
この研究は『Science Advances』(2024年12月18日付)に掲載された。
References: Living in the deep, dark, slow lane: Insights | EurekAlert! / Life is thriving in the subsurface depths of Earth - Ars Technica
本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに独自の視点で情報を再整理・編集しています。