〝失敗国家〟キューバ 中国とロシアは頼りにならず 一筆多論
共産主義国家キューバの首都ハバナ郊外にある女性専用刑務所の周囲を2015年、秘密警察に追跡されることなく訪れたことがある。一帯はジメジメし、ヤシの木が林立していた。車で正門を通り過ぎた際、守衛から鋭い視線を向けられ背筋が凍る思いをした。
元政治犯の女性の家を深夜に訪れると、所内の様子を語ってくれた。「所員から『カストロ政権に従え、フィデル(カストロ)氏を愛せ』と強要された。反抗すると、顔を殴打された」
別の女性元政治犯も、刑務所の劣悪な対応を口にした。所員から与えられた水にはカエルの死骸が2つ入っていたという。「(のどが渇き)水をやむなく飲んだ。その後、腹を壊した」
紙面で実情を報じると、東京・麻布にあるキューバ大使館の館員が本社に抗議に訪れた。人権弾圧はしていない、と。共産主義体制の忌まわしさを感じた。
あれから11年がたつ。反体制派の若者とは最近連絡が取れない。投獄されてはいないか、と懸念が募る。
カストロ氏が革命を成し遂げたのは1959年。しかし理想社会は到来せず、弾圧がやむ兆しもない。
人々の窮状に拍車をかけるのが劣悪な経済だ。以前輸出を支えた砂糖の生産は20分の1以下で「今は逆に輸入に頼っている」(在ハバナ外交筋)。コロナ禍以降、外貨を落とす外国人観光客もなかなか増えない。
国民の月収は約20ドル(約3200円)にとどまる。配給制はあるが、豆や油を入手するのは容易でない。
ある専門家は「キューバは古代ギリシャのスパルタのような国だ。国民は食べられなくても『頑張る』しか手立てはない」と話す。米政権が指摘するまでもなく、キューバは「失敗国家」の様相を呈する。
米政権は今、キューバを干上がらせる作戦をとる。中南米諸国からの石油流入が止まり、需要の6割を失ったキューバは、自国産の重質油に頼るほかない。
エネルギーの枯渇で停電は1日12時間前後に及ぶ。「役所職員も月~木曜の午前だけ働く」(外交筋)
キューバ指導部が頼りにするのは中国やロシアだ。1950年代からの中ソ対立の影響で対キューバ関係が良好でなかったものの、冷戦後に関係を改善させた中国は今年1月、8千万ドルと米6万トンを寄付した。
ただ、関係者は「本当は貿易を行うのが筋だ。しかしキューバには金がない。プラグマティックな中国としてはタダであげるわけにいかないが、時々なら、と贈った」と指摘する。
中国は、米軍情報の傍受を試みるキューバの作戦を支援しているとも伝えられるが懐疑的な見方も多い。
かつて軍事面で支えたロシアは最近、高官を派遣したが、ウクライナ戦争に忙殺され「言葉だけの支援」(在ハバナ外交筋)との冷ややかな見方が支配的だ。
イランに続く米国の標的といわれるキューバ。国民は米国をどう見るのか。
西側シンクタンク研究員は「革命で遮断されたとはいえ、キューバ人は歴史的に米国文化になじんできた。米クラシックカーを大切にする趣向を見ても、米国文化へのリスペクト(敬意)と愛がある」と話す。
ただ革命前、米大使の意向がキューバ大統領の意思決定を左右するなど〝負の記憶〟も残り、「キューバ国民の心情はアンビバレント(複雑)だ」と指摘する。(論説委員)