防衛省、民生部品を活用した低コスト巡航ミサイルの国内開発に乗り出す
日本経済新聞は2日「防衛省は民生部品を活用して低コストな長射程巡航ミサイルを開発する」と報じたが、低コスト兵器で重要なのは「従来兵器からのコストダウン」ではなく「防衛産業に特化したサプライチェーンとは別体系のサプライチェーンから生産できる兵器」であることだ。
参考:自衛隊の新型ミサイル、低コスト品量産へ 飽和攻撃で相手防空網を消耗
防衛装備庁は4月27日「低コスト誘導弾の技術的方策を検討するに当たり、情報提供する意思のある企業を募集する」と公表し、情報提供企業の要件として「日本国法人であり国内に製造設備を有する企業」「誘導弾システムに関する設計及び製造の実績を有する企業」「防衛省が取扱い上の注意を要する文書等の開示について適当であると認める企業」を挙げたが、低コスト誘導弾の用途について何も定義しておらず、情報提供企業の要件に「誘導弾システムに関する設計及び製造の実績を有する企業」と明記しているため三菱重工業、三菱電機、川崎重工業、東芝しか相手にしていない。
出典:防衛装備庁
防衛省は9月に公表した令和9年度概算要求の概要の中で「高価で高性能な弾薬を補完する低コストなスタンド・オフ・ミサイルを国産開発するとともに早期の能力獲得のため海外製を取得」と言及しており、この低コストなスタンド・オフ・ミサイルと4月に情報提供を要請した低コスト誘導弾との間に関係があるのかどうかは不明だが、高橋浩祐氏は「防衛省は概算要求に安価なスタンド・オフ・ミサイルの開発・取得を、金額を明示しない事項要求として盛り込んだ」「防衛省担当者は海外製の取得を想定していると説明し、具体例としてアンドゥリルのバラクーダを挙げた」と報じた。
高橋氏の説明によると防衛省はバラクーダ取得を決定しているのではなく「現時点で念頭に置いている兵器だ」「防衛省は輸送機から空中投下するタイプの安価なスタンド・オフ・ミサイルを念頭に置いている」と説明していたが、日本経済新聞は2日「防衛省・自衛隊は2027年度にも新型の長射程巡航ミサイルを開発してミサイル戦略を再構築する。民生部品を使いコストを大幅に抑えるのが特徴だ。大量に同時発射する飽和攻撃を可能にし相手防空網を消耗させて打撃を与える」と報じている。
“新たに開発するミサイルは艦艇などへの使用を想定しており、攻撃の精度や威力を落としてでも安価に作れる設計にする。センサーに軍事用よりも性能を落とした民生用のカメラを使ったり、搭載する弾頭を軽量化したりする。既に米企業は大幅に安価なミサイルを開発しており、米ゾーン5製のラスティ・ダガーは1発あたり4000万円程度とされ、1発およそ4億円のトマホークの10分の1の水準だ。開発企業は競争入札で決定し、陸上自衛隊による運用を念頭に地上発射型の新型ミサイルを29年度までに作り、早ければ30年度から本格的に量産する。国産開発に先駆け29年度に海外製を輸入し、米アンドゥリル製のバラクーダ500の採用を検討する”
日本経済新聞は自衛隊向けのミサイルの開発実績に基づいて三菱重工業、川崎重工業、三菱電機、東芝の名前を挙げたが、量という質を追求する分野の兵器開発を主導しているのは伝統的な防衛企業ではなく防衛スタートアップで、低コスト兵器は「秘匿性が高い軍事技術ではなくデュアルユース技術の採用」「調達先が限られる高価な特注部品ではなく市場で大量調達が可能な商用部品の採用」「3Dプリンティング技術など新しい生産技術の導入」「民需向け生産ラインで生産可能な設計」など従来とは異なる発想や柔軟性が必要になる上、最も重要なのは従来兵器からのコストダウンではない。
従来兵器の構成部品は「有事の急激な増産要求に応える拡張性が乏しい特注品を供給する防衛産業に特化したサプライチェーン」から供給されており、防衛スタートアップが製造に乗り出す低コストミサイルの構成部品は「調達先が複数存在する規模の大きな商用サプライチェーン」と「コア部品の自社製造」の組み合わせで供給するため、低コスト兵器において最も重要なのは「防衛産業に特化したサプライチェーンとは別体系のサプライチェーンから生産できる兵器であること」であり、この低コスト兵器を防衛産業に特化したサプライチェーンから生産すれば兵器供給のパイプライン自体を拡張できない。
三菱重工業、川崎重工業、三菱電機、東芝が低コスト兵器を開発するのは技術的に容易でも、それを従来通りの防衛産業に特化したサプライチェーンから生産すれば「従来兵器のコストダウン」でしかなく、さらに米国の防衛スタートアップは自国だけで何万発もの需要があるため規模の経済も発揮しやすく、日本が低コスト巡航ミサイルを国産開発するなら防衛ビジネスとしての視点=海外輸出による規模感も不可欠になるだろう。
出典:防衛省
日本経済新聞は「攻撃の精度や威力を落としてでも安価に作れる設計にする。センサーに軍事用よりも性能を落とした民生用のカメラを使ったり、搭載する弾頭を軽量化したりする」と報じているが、量という質を如何に安く、早く、大量に生産するかという生産上の問題をクリアするには別のアプローチが必要だ。
低コスト兵器の技術的要素は従来兵器の延長線上にあっても、従来兵器との決定的な違いは生産方式とサプライチェーンの転換であり、低コスト兵器にとってコストダウンはその副産物に過ぎない。
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※アイキャッチ画像の出典:Anduril