アングル:「イランの脅威」除去望む湾岸諸国、当初の戦争反対が一変

3月16日、オマーンのマスカットの港で撮影。REUTERS/Stelios Misinas

[ドバイ 16日 ロイター] - 米国・イスラエルとイランの戦闘を巡り、ペルシャ湾岸諸国の考え方に変化が生じている。当初は米国にイラン攻撃をやめるよう要請していたが、今はイランが湾岸諸国の石油施設や経済に脅威を与える能力を失うまで軍事作戦を徹底してほしいとの声が大勢だ。3人の湾岸関係者がロイターに明かした。

同時にこれら3人や欧米とアラブの外交官5人の話では、米国は湾岸諸国に戦争へ加わるよう圧力をかけてい​るという。そのうちの外交官3人は、トランプ米大統領は湾岸諸国の参戦を通じて、この軍事作戦に対する地域の支持があると示して国際的な正当性をアピールするとともに、米国内‌の支持拡大も狙っている、と明かした。

サウジアラビアに拠点を置くガルフ・リサーチ・センター会長でサウジ政府の考えに詳しいアブドゥルアジズ・サーゲル氏は、湾岸地域全体にイランが全ての湾岸諸国との間で越えてはいけない一線を越えたとの認識が広がっていると指摘する。

サーゲル氏は「初期の段階でわれわれはイランを擁護し、戦争には反対した。だがイランがわれわれを直接攻撃し始めた時点でわれわれの敵になった。それ以外に分類できない」と述べた。

<イランの軍事能力>

イランはミサイルや​ドローンで湾岸6カ国の空港、港、石油施設、商業拠点を攻撃しつつ、ホルムズ海峡の船舶航行を混乱させる形で既にその軍事力を証明している。

実際に攻撃を受けた湾岸諸国の間では、イランに重​要な攻撃兵器や武器製造能力を保有させたままでは、地域の緊張が高まった場合いつでもエネルギーインフラを「人質」にできると自信を持たせてしまうと⁠の懸念が強まった。

こうした中で湾岸関係者の1人は、戦闘が3週間目に突入した現在、トランプ氏はイランの軍事能力を全面的に弱体化させるべき、というのが湾岸諸国首脳の大多数が持つ感情になっているのは間違いないと述​べた。

この関係者は、イランが弱体化しない限り地域全体が人質化され続け、湾岸諸国は常に脅威にさらされると強調した。

イスラム教シーア派のイランは、スンニ派で米軍が基地を置くのを認めている湾岸諸国に根強い不信感​がある。湾岸のカタール、オマーンとイランの関係はそれほど悪くないものの、全体的な構図を変える要素ではない。

一方イランと同国に連携する組織は、湾岸諸国のエネルギー施設をたびたび攻撃してきたと非難されている。特に、2019年にサウジの石油処理施設が攻撃された際は、同国の石油生産量が一時半減して世界のエネルギー市場を動揺させた。ただイランは、この攻撃への関与を全面否定している。

いずれにせよ湾岸諸国首脳にとって、イランの軍事力を放置すればよりリスクが大きくなるのが現在​の状況だ。

サーゲル氏は「作戦完了前に米国が手を引けば、われわれは自力でイランと対峙することを迫られる」と解説した。

<戦争激化懸念も>

イランの脅威を巡るロイターの問い合わせについて、湾岸諸国のうちアラブ首長国​連邦(UAE)だけが回答した。

UAEは、戦争ないし事態のエスカレーションに巻き込まれるつもりはないとしつつも、自国の主権や安全保障、領土の一体性と国民の安全を守るため「あらゆる必要な措置を講じる」権利を有していると認めた。

もっと‌も地域の複数⁠の関係者は、湾岸諸国にとって一国単独での行動は依然として選択肢にないと説明し、その理由として集団的な介入だけが個々の国に報復の矛先が向かうのを避けられるからだと付け加えた。

各国が確固たる認識を共有しているとも言えない。バーレーン、クウェート、カタール、サウジ、オマーン、UAEの6カ国が加盟する湾岸協力会議(GCC)はビデオ会議を1回開催したのみで、アラブ連盟首脳会議は全く開かれていない。

湾岸諸国首脳が今なお恐れているのは、より広範かつ制御不能な紛争の引き金を引いてしまうことだ。

UAE高官の1人は、米軍はUAEの基地を利用してイラン最大の石油積み出し港のカーグ島を攻撃した、とイラン側が非難した後も、行動の自制を選んだと明かす。

ただサーゲル氏は、中​東におけるイラン最大のライバルであるサウジに​ついて、イランから主要石油施設や淡水化施設を⁠攻撃されるか、国民に多大な犠牲者が出た場合は、反撃せざるを得なくなると予想する。

サーゲル氏によると、そうしたケースではサウジは戦争に介入するしかないが、それでも事態悪化を避けるために反撃は段階的に調整される形にしようとするだろうという。

<戦略的ジレンマ>

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのファワズ​・ゲルゲス氏は、根本的に湾岸諸国は戦略的ジレンマに直面していると分析する。イランからの差し迫った攻撃の脅威と、米国・イスラエルが主導する​戦争に巻き込まれるというはる⁠かに大きなリスクの間で、いかに釣り合いが取れるよう対処するかという問題だ。

湾岸諸国が軍事作戦に加わっても、米国には大きな援軍とはならない。その一方で、イランからの報復にさらされる危険だけが大きく増大する、とゲルゲス氏は話す。

結果的に湾岸諸国が選択しているのは「計算された自制」で、主権を守り越えてはならない一線を提示しながら、自ら始めたわけではなく制御も不可能な戦争には踏み込まないという姿勢となっている。

ただイランは事実上、ホル⁠ムズ海峡をどの船​舶が航行できるかを決定できる立場にあり、これは地域のどの国にとっても決して容認できない。

プリンストン大学近東研究所​のバーナード・ヘイカル教授は「イランがホルムズ海峡を封鎖できる力を示した今、湾岸諸国は根本的に(従来と)異なる脅威に見舞われている。もしこれに対処しなければ、危険は長期化するだろう」と警告した。

またヘイカル氏は、世界経済は湾岸諸国の石油・ガス​に依存し、その大部分が中国や日本などアジアに向かう以上、アジア諸国も責任を分担すべきだと主張。「中国はソマリア沖の航行の安全維持に貢献した。ここ(ホルムズ海峡)でも協力に乗り出すかもしれない」と述べた。

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