防衛費急増の欧州がジレンマ、域内調達優先も米国製以外に選択肢なく

過去数十年で最大の防衛費増額を承認したばかりの欧州諸国にとって、「バイ・アメリカン(Buy American)」はかつてほどの魅力がなさそうに映る。それでも、選択の余地はないかもしれない。

  戦闘能力の再構築を急ぐ欧州の首脳は、購入予定の新兵器の多くについて米国に頼る以外にないという現実に直面している。トランプ大統領が今週の欧州訪問で展開していた主張を、受け入れざるを得ない格好になる。

  だが、第一の敵とするロシアに親しげな様子を示し、域内領土の一部併合すらちらつかせる大統領を持つ米国への依存を強めれば、より大きなリスクを抱えかねないと欧州首脳は懸念している。米国との関係強化に欧州の有権者は慎重で、首脳がそれを唱えるとしても国内で支持を得るのはますます難しくなっている。

  フランスのマクロン大統領らは、兵器調達にあたり欧州の企業を利用すべきとの立場を守っている。カナダは米防衛大手ロッキード・マーチンの戦闘機「F35」の購入契約を見直し、代わりにスウェーデン製戦闘機の購入を検討している。

  カナダのカーニー首相は今月初め、「われわれの防衛費は4分の3が米国に振り向けられている。もはやそうすべきではない」と述べた。

  米国の議員団は今春、同国製兵器の追加購入を促そうとデンマークのコペンハーゲンを訪れたが、受け取ったメッセージは明確だった。デンマークは米国製兵器を好むが、トランプ氏がデンマーク領であるグリーンランドへの領土的野心を公に示しているため、米国製の購入が政治的に難しくなっているとデンマーク当局者は説明したという。両国の会合内容を知る事情に詳しい関係者が明らかにした。

  一部のデンマーク議員からは、いっそう強硬な発言も聞かれている。議会防衛委員会の委員長を務める保守系のヤーロウ議員は3月、「米国製兵器の購入を安全保障上のリスクだ。そのようなリスクをデンマークがとることはできない」とX(旧ツイッター)に投稿した。

  当局者によると、トランプ氏が3月にウクライナとの軍事情報共有を突如停止したことが、同盟国の間に強い警戒を呼び起こし、危機のさなかに米国が同国製兵器の機能を停止させることもあり得るとの不安をかき立てた。その不安は、米国防総省がF35に「キルスイッチ(遠隔停止機能)」はないと釈明しなければならなくなったほど膨らんだ。

  カーライル・グループの見積もりによると、欧州の防衛費増額は関連インフラも含めると、向こう10年で最大14兆ユーロ(約2370兆円)にも及ぶ。この額は冷戦終了後の数十年間に相次いだ予算削減で空洞化し、断片化した現在の欧州防衛業界の能力をはるかに超える規模だ。また、ミサイルやハイテク兵器などの主要分野では米国が優位に立ち、実質的に米国製を購入する以外の選択肢はない場合も多い。

  「欧州製の装備の購入だけで全て事足りる世界にすぐ移行できると考えている国々があるとすれば、近い将来は全く非現実的だと思う」と、北大西洋条約機構(NATO)駐在の元米国大使で現在は戦略コンサルティング会社クラリオン・ストラテジーズに所属するジュリアン・スミス氏は語った。

  フィンランドの防衛技術企業インスタ・グループ幹部のトゥーレ・レフトランタ氏も、「一部の分野では、生産能力も設計力も十分ではない」と指摘した。

  今年の中核的防衛支出をほぼ2倍とする計画のメルツ独首相は、欧州防衛業界は需要に応じるため抜本的な改革が必要だと論じた。

  「欧州はシステムがあまりにも多過ぎ、兵員は少な過ぎる。製品は複雑すぎることが多く、結果的に値段も高過ぎる」と今週語った。

  先週のパリ航空ショーでは、次世代戦闘機開発の主導権を巡り、エアバスダッソー・アビエーションの幹部が公然と対立した。

  慎重に取り扱うべき問題だとして匿名を要請したNATO高官は、欧州諸国がNATOの目標を達成するには、米国製兵器を購入する以外にないと述べた。とりわけ、ウクライナへの供与で備蓄が減った兵器についてそれが当てはまるという。

  欧州の防衛産業には重要な技術も欠けている。

  「欧州にパランティアはあるのか。プラネットはどこだ」と、NATO軍のバンディエ司令官は最近契約を結んだ米テクノロジー・衛星企業の名前に触れつつ、同様の企業が欧州には存在しないと指摘した。

  欧州にロッキードのF35戦闘機や、ウクライナがロシアの攻撃から国土を防衛する上で重要な役割を担っているRTXの地対空ミサイル「パトリオット」と競合できるような先進兵器はない。弾道ミサイル防衛や空中給油といった重要能力においても、競合となる選択肢を持たない。

  榴弾砲のような比較的単純な兵器は域内での生産がしやすいが、それでも精密な打撃には米国の衛星システムによる誘導が必要となる。

  欧州の防衛企業への期待は高い。大幅な事業拡大への期待から年初来の株価上昇率は50%を超え、米競合企業を上回る銘柄もある。

  戦闘機「グリペン」を製造するスウェーデン企業、サーブのミカエル・ヨハンソン最高経営責任者(CEO)は「欧州の緊急性は増している」とインタビューで述べ、「欧州製兵器の購入増加に向かって大きな変化があったとは言わないが、そういう傾向はあると思う」と続けた。

原題:US Allies Wary of Buying American as They Plan Defense Boost (1)(抜粋)

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