迫る天井、がれきに挟まる顔 「もう死ぬかも」 過酷な5時間
地震で落ちてきた天井が目の前に迫る。身動きを取ろうとしても、顔はがれきに挟まれている。
その後も続く揺れで、徐々に天井がずり落ちてくる。「まだ自分は生きている。誰か、助け出してくれ」。過酷な5時間だった。
2階部分がゆっくり落ち…
熊本県八代市役所の近くで、清村浩二さん(62)は東南アジアの雑貨販売店を営んでいる。7月28日夕はいつも通り、3階建てビル1階の店にあるカウンターで、椅子に座っていた。
Advertisement「ドン」。強い衝撃と揺れが襲った。座ったまま身動きが取れずにいると、2階部分がゆっくり落ちてくるのが目に入った。
最初の揺れが落ち着くと、天井は50センチ先にあった。顔の周りにはコンクリートや鉄骨が押し寄せている。
頭を必死に動かすも、10センチほどの隙間(すきま)しかなく、抜け出せる気配がない。
「お父さん!」。ほどなくして駆けつけた長女優子さん(17)の声が聞こえた。必死に叫んだ。「大丈夫だ。救助隊を呼んでくれ。俺はカウンターのところにいる」
優子さんは、近くを通ったパトカーに父が閉じ込められていると伝えた。ただ、救助隊はすぐにはやってこない。
押し寄せる暗闇と不安
家族が励ましてくれた。「頑張って」。それに応えることで心細さを紛らわせた。
夜になると、暗闇が押し寄せてきた。不安が募ってくる。すると、ライトの光が届いた。救助隊だった。
「大丈夫ですか」と声を掛けられた。がれきをかき分ける音が響く。足元には屋外に脱出するルートが作られ、右足をトントンとたたかれた。
その頃、度重なる揺れで徐々に天井は近づき、5センチ先にあった。顔の圧迫も強まり、首が横にねじれていった。底知れぬ恐怖が襲ってくる。「もう、死んでしまうかもしれない」
救助隊は、はいつくばって自身に近づいてくる。もう、残された時間は少ない。顔を挟むがれきはジャッキで取り除かれた。体を抱きかかえられ、椅子の脚は切断された。
生死の説明ないまま病院へ
閉じ込められてから約5時間がたっていた。
ブルーシートで覆われた現場で、優子さんからは救助活動の様子がよく見えなかった。そこから1台の救急車が走り出した。
優子さんは絶望した。「死んでしまったのかな」。救助隊から生死の説明がないまま、告げられた病院に急いで向かった。
病室に入ると、ベッドで点滴を受けながら笑顔で手を上げる父がいた。けがは、右のひじを擦った程度で済んだ。
家族4人が顔を見合わせて言い合った。「生きてて良かった」
清村さんはすぐに退院し、店舗とは別にある自宅に家族で帰った。倒壊は免れたが、室内は足の踏み場がほぼなかった。台所に布団を敷き、4人で眠りについた。
「家族全員が生きていた。これ以上、いい未来はない」と語る清村さん。何度も「救助隊のおかげで命がある。感謝しかない」と口にする。
暗闇だった現場では、救助隊の顔も分からなければ、名前も分からなかった。
いつか伝えよう。「ありがとう。あなたのおかげで生き延びました」と。【川畑岳志】