彼の強みはそこじゃない…マルコとフェルスタッペンが見たニューウェイ代表就任―黄金期の仲間が語る“懐疑”とエール

「空力の鬼才」としてF1史に名を刻むエイドリアン・ニューウェイが、2026年からアストンマーチン・ホンダのF1チーム代表に就任することが発表された。技術部門だけでなく、チーム運営の全権を握るこの人事に対し、かつての盟友であるレッドブルのヘルムート・マルコは懐疑的な見方を示している。

ニューウェイはこれまでウィリアムズ、マクラーレン、そしてレッドブルで数々のチャンピオンマシンを生み出してきた。アストンでもその技術的手腕に大きな期待が寄せられていたが、今回与えられた役割は設計室にとどまらず、チーム全体の舵取りに及ぶ。

長年レッドブルでニューウェイとタッグを組んできたマルコは、カタールGPを前にオーストリア紙『Kleine Zeitung』に対し率直な意見を語った。最大の懸念は、多岐にわたる管理業務がニューウェイ本来の才能をスポイルしかねない点にある。

「本当に驚いた。まずは実際どうなるのか、状況を見守る必要がある」とマルコは語る。

チーム代表の仕事は、人事、スポンサー対応、メディア応対、ファンイベント、さらには取締役会への参加など、多岐にわたる。ニューウェイは今後、技術部門全体の統括に加えて日常業務やレース週末の現場業務など、組織全体のマネジメントにこれまで以上に深く関わることになる。

Courtesy Of Red Bull Content Pool

Ziggo Sportsのインタビューに応えるレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表、2020年F1オーストラリアGPにて

マネジメント業務は「得意分野ではない」

チーム代表となれば、これまでのように図面と向き合う時間は必然的に削られる。マルコが危惧するのは、まさにそこだ。

「それは明らかに彼の得意分野ではない」とマルコは語る。

「彼の真の強みは、設計、マシンのセットアップ、そしてクルマの生産と開発における品質だ。だから、彼がチーム運営の方向へ進むことになるとは、本当に意外だった」

もっとも、技術畑の人間がチームのトップに立つのは近年のF1におけるトレンドでもある。マクラーレンは2023年からエンジニア出身のアンドレア・ステラを代表に据え、今年コンストラクターズ選手権連覇を達成した。

レッドブル自身もまた、その潮流の延長線上にある。今夏、長年チームを率いたクリスチャン・ホーナーに代わり、技術畑出身のローラン・メキーズが代表に就任したばかりだ。ハースを着実に再建している小松礼雄の例もあり、「技術を真に理解している人物が意思決定を担うべきだ」という思想は、パドックで主流になりつつある。

ニューウェイの代表就任は、こうした流れの究極形とも言えるが、マルコにとっては「適材適所」という観点で疑問が残るようだ。

Courtesy Of McLaren

アンドレア・ステラ代表と談笑するオスカー・ピアストリ(マクラーレン)、2024年4月21日F1中国GP

フェルスタッペン「レッドブルではあり得ない選択肢」

ニューウェイが設計したマシンで3度の王座に輝いたマックス・フェルスタッペンも、このニュースに反応した。カタールGPを前に、レッドブル時代の体制を引き合いに出しながらこう語った。

「当時、彼にその野望があったのかは分からないけれど、レッドブルでは選択肢として存在しなかった。だから、新しい環境で彼がこの役職に就くことを嬉しく思っている」

Courtesy Of Red Bull Content Pool

メディア対応をこなすマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)、2025年11月27日(木) F1カタールGPメディアデー(ロサイル・インターナショナル・サーキット)

レッドブルでは、政治的交渉やメディア対応といった“汚れ役”をホーナーが一手に引き受け、ニューウェイが技術開発に専念できる環境が整えられていた。その役割分担こそが黄金期を支えた要因の一つだった。

フェルスタッペンは、異なるアプローチをとるアストンでの挑戦にエールを送る。

「今回の人事がクルマの開発にどう影響するかは、様子を見る必要がある。でも、彼ならうまくやるはずだ」

2026年、ホンダとタッグを組む新生アストン。その指揮を執るニューウェイは、設計者としての魂と管理者としての責務をどう両立させるのか。かつての仲間たちは、その行方を複雑な思いで注視している。

F1カタールGP特集

関連記事: