1億3100万年前の妊娠中の魚竜の完全な化石が発見される
約1億3100万年前、現在の南米チリ・パタゴニア地方の海で、妊娠中の魚竜類のメスが海底に突っ込むようにして命を落とした。
後に「フィオナ」と名づけられたその化石は、きわめて保存状態が良く、お腹の中の赤ちゃんのほか、最後の食事となった魚の骨まで見つかっている。
赤ちゃんは産まれる準備ができていたらしく、まもなく出産となるはずだったのだ。
当時いったい何が起きていたのか? フィオナとお腹の子の物語は、古代の地球環境や生態系の謎を解く重要な手がかりとなっている。
2023年、チリ南部の氷河地帯で発見された魚竜「フィオナ」の化石は、研究者たちにとって非常に貴重な発見だった。
フィオナは全長3.3mのメスで、約1億3100万年前の白亜紀前期、現在の南米がアフリカ大陸と分離し始めていた時代に生きていた。
彼女の化石は、5つの大きな石の塊として発掘され、チリのリオ・セコ自然史博物館に空輸された。
この発見は、チリで完全に保存された妊娠中の魚竜としては初めてであり、地理白亜紀オーテリビアン(オーテリーブ期)の化石としては唯一の妊娠中の標本となる。
チリ・マガジャネス大学およびケープ・ホーン国際センター(の古生物学者、フディス・パルド=ペレス准教授が化石の調査を主導した。
なお、「フィオナ」は研究チームが親しみをこめて名づけた愛称であり、正式な学名ではない。
フィオナは魚竜類に属するが、「イクチオサウルス」という属に分類されるわけではない。魚竜類は恐竜とは異なる海生爬虫類のグループで、約2億5000万年前から白亜紀にかけて世界中の海で繁栄した。
この画像を大きなサイズで見る掘り出された妊娠中の魚竜「フィオナ」の全身化石 image credit:Irene Viscor赤ちゃんの骨の大きさから判断すると、妊娠は最終段階にあったようだ。すでに出産準備が整っていたらしく、その尾は産道へ向かっていたという。
また発見当時のフィオナの姿勢や周囲の岩石の状態から、頭から砂に突っ込むようにして海底で死亡し、短時間で大量の堆積物に埋もれたことが明らかになった。
鼻先は約10cmほど砂にめり込み、そのまま急激に堆積した泥や砂に覆われたと考えられている。
死後たちまち地中に埋もれたことで、母子ともども現代にまで保存されることになったようだ。
そのおかげでフィオナの化石はきわめて保存状態が良く、肋骨の内側からはおそらく最後の食事になったと思われる小魚の背骨が見つかっている。
また胸ビレの骨には治癒した傷の痕跡が確認され、さらに感染症が原因と思われる骨の癒着も見られたという。
この画像を大きなサイズで見るパタゴニアの氷河地帯で発見された魚竜のフィオナ image credit:Alejandra Zúñigaフィオナの物語は、その時代の歴史のより大きな流れの中で起きたことなのかもしれない。
彼女が生きていた1億3100万年前、南アメリカ大陸は現在のアフリカ大陸から分離しようとしていた。つまり大きな変革の時代にあったのだ。
両大陸の間には狭い海洋通路が開かれ、それが世界の気候や海流、海洋生物の生息環境などに影響を与えたと考えられている。
テキサス大学オースティン校のマシュー・マルコウスキー氏は、これについてニュースリリースで次のように述べている。
海洋の最上位捕食者であれば、これらはすべて重要な要素です。回遊のルート・狩場・繁殖地など、さまざまなことが関連しているでしょう(マルコウスキー氏)
なおフィオナは、トーレス・デル・パイネ国立公園の氷河地帯でこれまで発掘されてきた87体の魚竜の1体だ。
地層学的な調査によれば、それらすべてが同時に死んだわけではなく、地滑りが繰り返され、その都度多数の個体が犠牲になったのではないかと推測されている。
今回の研究は魚竜の生態のみならず、南米の地殻プレートの歴史を紐解く手掛かりとしても貴重なものとのことだ。
この研究は『Journal of Vertebrate Paleontology』(2025年2月25日付)に掲載された。
References: Eurekalert
本記事は、海外で報じられた情報を基に、日本の読者に理解しやすい形で編集・解説しています。