コラム:ホルムズ封鎖が生む「新常態」、新たな紛争の序章となるか
[ロンドン 13日 ロイター] - 米国とイスラエルからの攻撃を受けたイランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖は、中東の石油・ガス産出国をめぐる数十年来の現状を一変させた。たとえ一時停戦が維持されたとしても、不安定な「新常態」の到来により、さらなる紛争への扉が開かれてしまった可能性が高い。
約6週間にわたって続いてきた戦闘は、イランと、近隣にある米国の同盟国であるサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、イラクとの根深い緊張関係を露呈させた。これらの国々はイランと戦闘になれば共通の経済的利益が壊滅するという暗黙の了解のもと、長らくイランとの直接対決を避けてきた。しかし、その均衡は完全に崩れ去った。
危機の核心にあるのは、世界の石油・ガス供給量の5分の1弱が通航するホルムズ海峡だ。事実上の封鎖により、ペルシャ湾岸地域および世界経済は壊滅的な打撃を被った。たとえ航行が再開されたとしても、この前例のない行為による「歴史の断絶」が生じるだろう。
イランは和平合意を結ぶ場合でも、ホルムズ海峡に対する影響力を維持したいとの意向をにじませている。海峡を通る船舶の航行を管理し、通航料を課すとの案を示している。
イランとの和平合意に失敗したトランプ米大統領(共和党)は、米海軍が直ちにホルムズ海峡の封鎖を実施すると述べて事態をさらに悪化させた。たとえ通航が正式に再開されたとしても、今回の戦闘がイランの近隣諸国に与えた教訓を消し去ることはほとんどできないだろう。ホルムズ海峡封鎖の脅威は、限られた軍事力でも実行可能なのが証明され、封印が解かれてしまった。
<打開策なし>
今回の戦闘は、湾岸地域のエネルギー関連インフラがいかに脆弱であるかをあらわにした。戦闘は国境を越えて拡大し、イランのミサイルやドローン(無人機)が湾岸地域全域の主要な石油・ガス施設を含む近隣諸国の数十カ所を攻撃した。
日量約1100万バレルの石油と、カタールの液化天然ガス(LNG)の全量が生産停止に追い込まれ、製油所と輸出ターミナル、他の極めて重要な施設も甚大な被害を受けた。
世界最大の原油輸出国であり、石油輸出国機構(OPEC)の実質的な盟主であるサウジにとって影響はとりわけ深刻だ。ホルムズ海峡を迂回するためにこの数十年間をかけて丹念に整備してきた代替輸出ルートでさえ、脆弱であることが明らかになった。
東部の石油産地から紅海のヤンブー港へ日量約700万バレルを迂回させるように設計されたサウジの東西パイプラインは、一時停戦の数時間前に攻撃された。
戦闘前は日量約800万バレルの原油を輸出していたサウジは、イランの攻撃によって原油生産能力が日量約60万バレル減り、東西を結ぶパイプラインの輸送量が日量約70万バレル減少したと発表した。
また、ホルムズ海峡の外側にあるフジャイラ港につながるUAEの石油輸出パイプラインも、繰り返し攻撃を受けた。カタールとクウェートにとっては、ホルムズ海峡が唯一の輸出ルートだ。
Saudi, UAE crude exports<戦略の崩壊>
この新たな現実は、現在および将来にわたって湾岸諸国の経済モデルの根幹を揺るがすものだ。
第一に、たとえ地政学的なリスクプレミアムの高まりによってエネルギー価格が高止まりしたとしても、この地域の再建は長期化し、不安定な状況も何年も続くことになり、各国の開発計画は損なわれることになるだろう。
長期的な脅威はさらに深刻で、今回の戦闘でアジア諸国を中心とする多くの国々は、苦い経験を通じてエネルギー輸入への依存度を再検討することを迫られた。湾岸諸国にとって、今回の事態は最悪のタイミングで訪れた。主要な輸入国が化石燃料からの脱却を進める中、需要が減少する可能性に直面している生産国は既に輸出の最大化を迫られていたが、今回の戦闘でその流れはさらに加速するだろう。
今後数十年間にわたって石油やLNG、精製製品、化学製品、肥料の輸出が途絶えることなく自国経済を支えると期待している湾岸地域の産油国にとって、ホルムズ海峡を巡る不確実性は、地政学的にも経済的にも到底受け入れがたい。
経済、地政学の両面で世界への影響力拡大を目指すサウジとUAEが、イランが長期間それを妨害し得るような戦略的な現実を受け入れる可能性は低い。このことは、将来的な対立のリスクが高まっていることを示唆している。
UAEの国営エネルギー企業ADNOCのスルタン・アル・ジャベル最高経営責任者(CEO)は先週、「海峡は完全かつ無条件に、いかなる制限もなく開放されなければならない。エネルギー安全保障と世界経済の安定はこれに懸かっている。この極めて重要な水路をいかなる形であっても軍事利用することは決して許されない」と訴えた。
Middle East oil exports through the Strait of Hormuz<後戻りはできない>
当事者らの「恒久的な」和平合意の条件が何になろうとも、今回の戦闘が長年のタブーを打ち破ったという事実の方が重い。湾岸地域の重要な経済インフラを標的とする行為はもはやタブーではなくなったのだ。
この変化だけでも、湾岸地域の安全保障環境はより不安定になり、今後何年も中東に長い影を落とすことになるだろう。
先週の一時停戦発表を受けて株式相場が一時的に上昇し、原油価格が下落したことは、中東が間もなく平穏を取り戻すと投資家らが確信していたことを示唆している。
だが、彼らの見方が誤っていることはほぼ間違いない。最も可能性の高い結末は旧来の秩序の回復ではなく、「新常態」の到来だ。その環境で湾岸諸国は、イランにホルムズ海峡という交渉カードを二度と持ち出せないようにする確実な道筋を模索していくことになる。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Ron is the Reuters Energy Columnist. He offers commentary on global energy markets and their intersection with geopolitics, the economy and every day life. From oil and gas to solar and wind power, the world's growing demand for energy is shaping governments' efforts to expand their economies while the world also seeks to decarbonize. Prior to that, Ron was Oil and Gas Corporates Correspondent at Reuters since 2014, covering the world’s top oil and gas companies and their transition into low carbon energy. He has broken major stories on companies including Shell, BP, Chevron and Exxon. He also looks at the physical oil markets with a focus on European refining.