「廃墟モール」と呼ばれた印西の「ビッグホップ」、復活劇の裏に何が《楽待新聞》(不動産投資の楽待)

1/11 19:00 配信

全国のショッピングモールを訪れながら、その地域の様子をお届けする本連載。今回は、千葉県印西市にやってきました。大規模な干拓事業が行われた印旛沼の近くにあって自然が豊かな地域です。一方で、千葉ニュータウンなどの大規模な住宅地も広がっています。そんな印西市にある北総鉄道北総線「印西牧の原駅」を降りてすぐにあるのが、今回訪れるモールです。その名も「BIG HOP(ビッグホップ)ガーデンモール印西」(以後、ビッグホップ)。ネットでは長らく「廃墟モール」と呼ばれてきた場所です。しかし、現地に立ってみると、その言葉だけでは説明できない現在の姿が見えてきました。モールを歩きながら、施設の歩んできた歴史と重ねてレポートします。■「廃墟モール」と呼ばれるワケまずはビッグホップの基本情報を見てみましょう。所在地:千葉県印西市原1-2開業:2007年9月(2007年9月28日とする資料もある)アクセス:北総線「印西牧の原」駅から徒歩約1分敷地面積:約15万7000平米駐車場:約2000台印西牧の原駅から徒歩1分という、好立地が1つの特徴です。特に隣駅は「千葉ニュータウン中央駅」で、千葉ニュータウン居住者からすればアクセスは抜群です。では、なぜそこは「廃墟」と呼ばれているのでしょう。背景には、2007年の開業直後から経営母体の破綻やテナント撤退が相次いだことがあります。2010年前後にはSNSや口コミで「ゴーストタウン」「明るい廃墟」といった言葉が踊りました。かなりの数のテナントが抜け、週末でも人影がまばらだったといいます。2000年代後半といえば、すでに多くの大型量販店が近隣に集積しており、モールにとっては生き残るのが大変になっていた時期。特にビッグホップの一部エリアが「アウトレットモール」としてオープンしたことも裏目に出ました。アウトレットは休日の「ハレの日需要」が強く、商圏が広い。結果として、御殿場や佐野、入間のような「特別感」のある強豪アウトレットと競合する構図になりました。こうしてビッグホップは、開業直後から苦戦を強いられたのです。これだけ見ると、本連載で何度も扱ってきた、いわゆる「廃墟モール」の典型例のようにも思えます。では、その噂は本当なのでしょうか?私はさっそく、現地を訪れてみました。■子どもや学生がたくさんいるぞ…?「印西牧の原駅」を降りると、子どもや学生が思いのほか多い。訪れたのが冬休みだったということもあるでしょうが、改札を抜ける段階では「閑散としていると言われるにしては、人がいるな」と感じました。彼らはどこを目的地としているのか。屋外型のモールを奥に進むと、わかりました。ビッグホップの中の「バリューモール」というエリアです。家族連れや子どものグループが目立ちます。駅で見た子どもたちは、ここに向かっていたのです。テナントを見れば納得。ゲームセンターにボウリング場、屋内のアスレチック施設。さらに施設の中心には大きな観覧車「そらっぱ」がそびえています。全高約50.8メートル、ゴンドラ32基。大人500円で、1周約15分の空中散歩ができるというビッグホップの目玉施設です。北総線の車窓からもしっかりと見えます。夜にはライトアップもされ、モールのランドマークとして機能しているようです。加えて、テナント以外の遊び場もたくさん用意されています。観覧車の前には、恐竜のオブジェとアスレチック。それ以外にも、ちょっとした広場があれば、ほとんどと言っていいくらいに子ども向け遊具が置かれています。私が訪れたときも、多くの子連れが遊んでいました。さらに、モールの2階のフードコートには誰でも座れる椅子とテーブルがたくさん。中高生が勉強したり、話し込んだりしています。その意味では小さな子どもから中高生ぐらいまで、子どもたちが十分に遊べるモールになっているといえるでしょう。ビッグホップが「子どもに優しい」ことは、賑わいを生む要因の1つになっています。先ほども書いたように、ここは千葉ニュータウン中央駅から1駅で来られる距離にあります。移動手段を持たない交通弱者である子どもにとって、自分たちだけで行ける(あるいは簡単に連れてきてもらえる)モールほど重宝するものはありません。ビッグホップの賑わいは、テナントの強さだけでなく、立地とターゲットが噛み合った結果として創出されているように見えました。■「欲しいテナント」が手堅く揃っているこのモールは、大人にとっても都合が良いと思いました。今回歩いて感じたのは、「ショッピングセンターに入っていて欲しいテナント」が手堅く揃っていることです。ロピア、セリア、モスバーガー、西松屋、ABCマート、セカンドストリートなどなど……。「あるといいな」というテナントがしっかり入っています。実は、ビッグホップの歴史を見ると、このように揃っている「テナント」が重要な役割を果たしてきました。開業当初から苦難の道を歩んだビッグホップですが、転機の1つとなったのが、スーパーマーケットの入れ替わりです。開業当初からの核店舗だった「新鮮市場マルエイ」が2015年に撤退し、その後を埋める形で2018年にディスカウントスーパー「ロピア」が入りました。ロピアといえば、「廃墟モール再生請負人」といってもよい存在。本連載で扱った「キテミテマツド」や「岸和田カンカンベイサイドモール」などでもロピアだけは賑わっていました。それほど、ロピアは強いテナントということになるのでしょうが、ビッグホップでもその存在感は健在です。こうしたロピアの入居を皮切りに、子ども向けの大型施設や各種店舗の誘致も進み、空室率が目立っていた状況から、現在では少なくとも1階は空きを探す方が難しいくらいにまで持ち直しています。ずらりと揃う強いテナントは、ビッグホップの「廃墟からの復活」を象徴する存在でもあるのです。■「モールそのものの魅力」はあるかただし、安心して「完全復活」と言い切れるかというと、疑問があります。理由は1つ。「モールそのものの魅力がない」ことです。現在のビッグホップは、個々のテナントだけで集客が行われていて、施設全体が盛り上がっているわけではないのです。それは、モール内に点在する空洞のエリアからもわかります。モール内を歩くと、まだまだガランとした部分が多いのです。その1つが、駅を出てすぐのエリアである「駅前ビレッジ」です。商店街のような通りなのですが、ここがなんとも寂しい。西洋風の建物は豪華ですが、人はおらず看板も控えめで、それぞれの区画は白い壁が広がっています。中には、完全に使われていないテナントも。施設がないわけではありません。印西市の役所の出先機関や認定保育園、クリニックなどが目に入ります。「店」というよりは生活に必要な「行かざるを得ないテナント」が多くあります。これらは豪華な看板も必要ないですし、常時人であふれる……ということもないので、このような光景になっているのでしょう。この連載で何度も見てきた通り、閑散とした商業施設が生き残る方法の1つは、役所やクリニックのようなインフラ型のテナントを入れること。買い物は我慢できても、手続きや通院は我慢できない。つまり、来訪動機が景気に左右されにくいわけです。駅前ビレッジも、その生き残り方が見られます。ただ、ここに商業施設らしい雰囲気があるかと言われると、やはり弱い。先述の通り、これらの施設はいつも人がいるものではありませんし、現にそこはほとんど人がおらず、建物だけが寂しく建っています。また、人が多くいる「バリューモール」エリアでも気になるところがあります。モール自体は2階建てになっているのですが、この2階が、かなり閑散としているのです。空きテナントも目立ちます。わざわざ上がってまで行く「目的」がないのでしょう。はっきり言えば、ビッグホップでは、遊びに行くとか買い物に行くというような「目的」が明確であるテナントにのみ、人が集まっている状況なのです。■ビッグホップを支える「危うい均衡」この状況は何を表しているでしょうか。端的に言うと、ビッグホップは子どもにとっても大人にとっても、単に「そこそこいいテナントがあり、遊ぶのにちょうどいい場所」としてのみ選ばれている、ということです。いわば「面」としての魅力に欠けているのではないでしょうか。それぞれのテナントは魅力的でも「ビッグホップだから行きたい」と思われていないのかもしれません。これが最大の問題だと私は感じます。この連載で繰り返し触れてきた論点ですが、賑わいを作る主要因が「強いテナント」になればなるほど、競合が現れた瞬間に、人はそちらへ流れてしまいます。実際、印西牧の原駅周辺は商業施設の集積エリアで、常に競合がいるエリアです。現在はテナントや遊び場の存在で、ある程度の集客ができているでしょうが、競合となる施設に、似たような、あるいはビッグホップよりも優れたテナントができれば、すぐに人はそちらに流れるでしょう。しかも、ビッグホップはオープンモール、つまり天井のない屋外のエリアが中心です。つまり、雨の日は必然的に足が伸びづらくなります。多くのモールが屋内型で、雨の日でも買い物がしやすい中、それだけでビッグホップはかなり不利な点を抱えているともいえます。今はいくつかの条件で踏みとどまれているとしても、環境が少し変われば、再び苦境に戻る可能性があるでしょう。その意味で、ビッグホップの現在は、成功と失敗が表裏一体となった、ある種「綱渡り」状態だといえるかもしれません。「危うい均衡」の上に立っているのです。すでに本連載でレポートしているように、日本全国の廃墟モールの中には、テナントパワーで持ち直した例も多くあります。けれども、それが単にテナントだけで持ち直している限り、ビッグホップと同じように「危うい均衡」の上に成り立っていることも知っておいて良いと思います。

チェーンストア研究家・谷頭和希/楽待新聞編集部

不動産投資の楽待 編集部

最終更新:1/11(日) 19:00

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