アングル:伝統素材でエアコンなしでも涼しく、温暖化時代の新学校建築
[ロンドン 16日 トムソン・ロイター財団] - 「建築界のノーベル賞」ともいわれる米プリツカー賞を2022年に受けた建築家のフランシス・ケレ氏。幼少期に学んだ西アフリカ・ブルキナファソの学校は、建物が暗くて暑苦しく、子どもの教育よりもパン作りに適していそうなほどだったと振り返る。
ケレ氏は後年、外国留学中に故郷の村に戻り、気温が摂氏45度に達することがある中でも子どもたちが快適に学べる明るく風通しの良い学校を建設した。
現在はベルリンを拠点としているケレ氏は、この時設計したガンド小学校にエアコンを導入しなかった。代わりに複数の冷却機能を取り入れ、その後アフリカ各地でのプロジェクトに応用している。
地球温暖化が進む中で持続可能な学校を設計しているケレ氏はトムソン・ロイター財団の取材で「私の学校はとても暑く、集中できなかった」と振り返り、「だから私は、子どもたちにとって快適で、刺激的な学校を造りたかった」と打ち明けた。
ブラジルやベトナムなどで行われた研究で、暑さが学習に大きな影響を与えるという結果が出ている。世界銀行は昨年の報告書で、気候変動問題が教育の達成度を脅かし、「経済的な時限爆弾」を生み出していると警告した。
専門家は、教室の温度は26度以下であるべきだと指摘している。
ケレ氏がガンドに伝統的建築素材である粘土を使った学校を建てると発表したとき、村人たちは最初ショックを受けた。しかし粘土は自然な温度調節機能を持ち、日中に熱を吸収する一方、夜間には放出する。
ケレ氏はコンクリートや板ガラスは現代的に見えるかもしれないが、建物を暑くし、そのためエアコンが必要になると話す。
これは悪循環を生む。熱気を屋外に排出し、エネルギーを多く消費するエアコンは地球温暖化の一因となり、さらなるエアコンの需要をあおることになる。
代わりに、ケレ氏はパッシブ型の冷却機能を採用した。
ガンド小学校の教室は両端に開口部があり、風が通って換気できるようにしている。屋根は二重構造で、穴の開いた一段目の屋根の上に大きな屋根が被さり、空気の循環を促して建物の表面が日陰になるよう設計されている。
ケレ氏はケニアでは、シロアリ塚からヒントを得て大学のキャンパスを設計した。建物の低い位置にある開口部は新鮮な空気を吸い込み、テラコッタ色の塔は熱気を逃がす。
<社会変革>
ブルキナファソから約8000キロ離れたインド北西部のタール砂漠では、今年の気温が摂氏48度に達した。植物はまばらで、砂嵐がよく起こる。
ラジャスタン砂漠にそびえ立つ大きな楕円形の砂岩の建物、ラージクマリ・ラトナヴァティ女子校は米ニューヨークの建築家ダイアナ・ケロッグ氏が設計した。
この建物の向きと形は、学校の周囲を卓越風が吹くことを可能にし、内壁の石灰しっくいはさらなる冷却効果をもたらす。
インドの伝統的なジャリの屏風にヒントを得た格子の壁は、ベンチュリー効果と呼ばれる現象によって空気の流れを加速させる。また学校は太陽光発電を活用しており、十分な必要量の雨水も得られる。
校内の温度は屋外より10度も低く、生徒の高い出席率に貢献しているとケロッグ氏は胸を張る。
ケレ氏と同じように、ケロッグ氏は優れた建築は社会の変化を促すと信じている。
学校があるラジャスタン州はインドで最も女性の識字率が低い州だが、学校が持つ記念碑的な規模は女子生徒の重要性を印象付ける効果を生んでいるとケロッグ氏は言う。
同氏は「地域社会での彼女たちの地位が向上した」とした上で、「女子生徒たちは誇りを持って通学しており、『カレッジ』と呼んでいる。私が訪れると、少年たちから『僕たちのためにも建てて』と頼まれる」と話した。
<学校の緑化>
気候変動により熱波の頻度が高まる中、温暖な国でも学校を冷やす方法を検討している。
英国当局は、新しい校舎は気温が4度上昇しても大丈夫なように設計されるべきだと指摘している。
大きな窓と高い天井を持つビクトリア朝時代に建設された学校は風通しが良く、熱を逃がさない設計になっている新しい学校よりも熱波対策に優れている。
しかし、教育は屋内だけで実施されているわけではない。運動場も子どもたちの成長にとって重要であり、多くの都市が遊び場の緑化を進めようと努めている。
都市部は農村部よりも4―6度も気温が高いが、木を植えることによって遮光と水蒸気の放出を可能にし、気温を下げることができる。
パリはアスファルトが敷かれた校庭全てを、2050年までに緑のオアシスに変えることを目指している。
もう1つの解決策はクールペイントだ。ギリシャのような国では長い間、建物の屋根を白く塗ってきた。科学者たちは現在、エアコンより優れた性能を発揮する可能性のあるハイテク塗料の開発に取り組んでいる。
<粘土で建築>
地熱を利用した冷却技術からスマートガラスに至るまで、温度を調整する機能を持つシステムや製品が各所で開発されている。
他方でドイツの建築家のアンナ・ヘリンガー氏は、持続可能な建築にするには地元の材料を使うことが必要だと主張する。
バングラデシュからガーナまで各所での学校を設計してきたヘリンガー氏は、泥を使った建築で知られている。泥はローテクの素材だが、ハイテクの機能を発揮するという。
ヘリンガー氏は「農民に聞けば、泥でできた家は夏に涼しいと教えてくれる」と話し、粘土は湿度のバランスを取ると指摘する。湿度は、極端な暑さや寒さの中で体が受ける不快感をさらに悪化させる。
ヘリンガー氏は「建築家は往々にして専門的になりすぎるが、解決策が目の前にあることもある」と話す。タンザニアでは、村人たちがステータスのためコンクリートの家を建てても、夜は泥でできた小屋に寝に行くと教えられたという。
一般的な認識とは異なり、土壁が雨で溶けることはないとヘリンガー氏は言う。浸食を防ぐためのシンプルな技術があり、自然の結晶化のプロセスに伴い、時間が経つにつれて壁が強化されていくのだ。
へリンガー氏は「粘土は弱い素材という烙印を押されてきたが、あらゆる文化や気候の地域に建てられてから数百年がたつ泥製の建物がある」と指摘し、自身が20年前に建てた学校はほとんど補修が必要ないと明かした。
へリンガー氏が設計した学校の教室の一部には太陽光発電で動く扇風機が設置されているが、エアコンはない。エアコンはエネルギーを消費するだけでなく、暑い屋外と涼しい屋内を絶え間なく行き来すれば子どもたちの健康を害する恐れがあると言う。
ベナンの新たな議事堂や、ラスベガス美術館といった国際的なプロジェクトを手がけているケレ氏によると、自身の事務所は粘土を使った建築や、パッシブ型の冷却機能に関する問い合わせを多く受けていると明かす。
ケレ氏は「大きな変化が起きている」とし、「ほんの数年前まではこのようなことは決してなかった」と語った。
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