ESA宇宙望遠鏡「ガイア」が10年以上続いた科学観測を終了 どんなミッションだった?
欧州宇宙機関(ESA)は2025年1月15日付で、ESAの宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」が全天スキャンを完了し、10年以上にわたったミッションの科学観測を終了すると発表しました。
Gaia宇宙望遠鏡とは
【▲ 観測を行う欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」の想像図(Credit: ESA/ATG medialab; background: ESO/S. Brunier)】Gaiaは天体の位置や運動について調べるアストロメトリ(位置天文学)に特化した宇宙望遠鏡です。数多くの星々の年周視差や固有運動、明るさの変化といった情報を数年にわたって取得し、天の川銀河のより正確な三次元マップを作成するために開発されました。
年周視差は天球上の天体の位置が地球の公転運動に従って周期的に変化するように見える現象、およびその大きさ。固有運動は天球上における天体の見かけの動きのこと。年周視差からは天体までの距離を、固有運動からは個々の天体の動きを知ることができます。どちらも正確な情報を得るためには天体の位置を高い精度で観測し続けなければなりません。
【▲ 欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」の観測データ「EDR3」(2020年12月公開)をもとに作成された全天画像(Credit: ESA/Gaia/DPAC)】2013年12月に打ち上げられたGaiaは太陽と地球の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のひとつ「L2」(地球からの距離は約150万km)を周回するような軌道に移動し、2014年7月に定期的な科学観測を開始。2016年に観測データの第1弾となる「DR1(Data Release 1)」が公開されて以降、2018年には第2弾の「DR2(Data Release 2)」、2020年には第3弾の早期リリース「EDR3(Early Data Release 3)」、2022年には第3弾の完全版「DR3(Data Release 3)」がそれぞれ公開されています。
Gaiaの観測データをもとに作成された天の川銀河の最新の想像図
【▲ 欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」の観測データをもとに作成された最新の天の川銀河の想像図(Credit: ESA/Gaia/DPAC, Stefan Payne-Wardenaar)】 【▲ 欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」の観測データをもとに作成された最新の天の川銀河の想像図(Credit: ESA/Gaia/DPAC, Stefan Payne-Wardenaar)】Gaiaは10年以上にわたるミッションを通じて約20億個の天体に対する約3兆回の観測を実施しました。その科学観測終了を受けて今回公開されたのが、こちらの天の川銀河の最新の想像図です(英語注釈付きのバージョンはこちら)。
ESAによると、Gaiaは天の川銀河に関するイメージも大きく変えることになりました。天の川銀河は中心に棒状構造を持つ棒渦巻銀河であることが知られていますが、この想像図ではGaiaの観測データをもとに太陽系の位置に対する棒状構造の傾き具合が再現されています。また、Gaiaは天の川銀河の渦巻腕(渦状腕)が2本以上あること、そして従来の予想よりも渦巻腕が目立たないことも示しました。
【▲ 欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia(ガイア)」と最新の天の川銀河の想像図を解説した動画(英語)】 (Credit: ESA/Gaia/DPAC, Stefan Payne-Wardenaar)
一方、Gaiaの観測を通じて明らかになった星々の動きからは、天の川銀河が過去に幾つもの銀河と合体を繰り返してきた歴史も明らかになってきました。Gaiaの観測データは現在の天の川銀河の姿だけでなく、過去の歴史を紐解く上でも役立てられています。
さらに、Gaiaは太陽系内の15万個以上の小惑星の軌道を正確に測定した他に、約130万個のクエーサー(銀河中心部の狭い領域から強い電磁波を放射するAGN=活動銀河核の一種で、活動銀河核のなかでも特に明るいタイプを指す)の三次元マップも作成。他にも、太陽系に比較的近い約2000光年先にある太陽の約33倍の質量を持つブラックホールの発見につながるなど、Gaiaの観測データは様々な発見をもたらしています。
ESAによると、当初5年間の科学観測を予定していたGaiaは機体を回転させるためのコールドガスが尽きかけており、通常の運用状況であれば約15日分しか残っていないといいます。2025年1月15日で科学観測を終えたGaiaは、より正確な較正や、将来のミッションに役立てるために打ち上げから10年経った機体の挙動をさらに詳しく知るための技術テストを実施した後にL2を離れ、太陽を周回する軌道へ移されます。
また、Gaiaの66か月分の観測データをまとめた第4弾の「DR4(Data Release 4)」は2026年に、全ての観測データをまとめた第5弾の「DR5(Data Release 5)」は2030年に公開される予定だということです。
Source
- ESA - Last starlight for ground-breaking Gaia
文・編集/sorae編集部