トランプ氏の通商戦略に打撃、米裁判所が関税の大部分を違法と判断
米国際貿易裁判所がトランプ大統領の関税措置の多くを違法と判断し、政権の通商戦略は打撃を受けた。
同裁判所の判事3人から成るパネルは28日、トランプ氏が貿易相手国・地域に対する関税に1977年の国際緊急経済権限法(IEEPA)を不当に適用し、従って輸入関税は違法だと結論付けた。
この判断は、米国境を巡る安全保障や合成麻薬フェンタニルの取引を理由にカナダとメキシコ、中国に課された関税にも適用される。
政権側は控訴する意向を直ちに示し、最終的な判断は連邦最高裁判所に委ねられる可能性がある。
今回の判断は、トランプ政権が1期目に中国からの多くの輸入品に賦課した関税のほか、通商拡大法232条や通商法301条など異なる権限に基づいて鉄鋼・アルミニウム、自動車に賦課された関税には影響が及ばない。
トランプ政権は今後、関税政策でこうした通商法の活用拡大を余儀なくされるかもしれない。
国際貿易裁判所の判断がいつから適用されるかは不明。同裁判所は連邦政府に対し、10日以内に関税撤廃のための行政手続きを実施するよう求めている。
判断が無効とならなければ、中国への30%上乗せ関税、カナダおよびメキシコへの25%関税、その他多くの国への10%関税は数日以内に撤廃される見込みだ。
これらの関税と、それに対する報復措置への懸念は、米国および世界経済の成長を阻害する要因と見なされてきた。たとえ一時的でも撤廃されれば世界経済の見通しは改善する。
29日のアジア株は日本や韓国の株価を含めて上昇。米株価指数先物も値上がりし、米国債利回りはアジア時間からの上昇基調を維持した。ドルは一時伸び悩んだが、3日続伸の流れは継続。円とスイス・フランは下げた。
関税撤廃の可能性に投資家が歓喜する一方、裁判所の判断がトランプ氏の通商政策に恒久的な打撃となるのか、それとも一時的な障害にすぎないのかについては不透明だ。
また、トランプ政権が国際貿易裁判所の命令に従うかどうかも疑問だ。
ホワイトハウスのデサイ報道官は声明で「国家の緊急事態への適切な対処を判断するのは選挙で選ばれたわけでない判事の仕事ではない」と指摘。
長年にわたる貿易赤字は「米国の地域社会を荒廃させ、労働者を置き去りにし、防衛産業基盤を弱体化させるという国家の緊急事態を招いた」とし、関税の正当性を主張した。
トランプ政権は関税収入拡大を減税の財源としており、関税撤廃となれば、財政赤字への懸念が一段と強まる恐れもある。減税に伴う総費用は向こう10年で3兆8000億ドル(約554兆円)と想定される。
中国や欧州連合(EU)、インド、日本など米主要貿易相手国・地域は、トランプ政権との今後の交渉方針を再検討する可能性もある。
林芳正官房長官は29日午前の記者会見で、判決の内容や影響を「十分に精査しつつ、適切に対応する」と述べた。
オーストラリアのファレル貿易観光相は「不当な」関税の撤廃を強く訴えていくと述べた。
英国と今月達した米貿易合意も無効になる可能性はある。
米通商代表部(USTR)元法務顧問で世界貿易機関(WTO)元判事のジェニファー・ヒルマン氏は、「違法とされた関税を回避するための交渉を貿易相手国が求める理由が分からない。いわゆる相互関税は単純に違法という決定的な判断だ」と指摘。さらに、通商交渉を有利にするために関税を持ち出すのは「合法的ではないとの判断が非常に重要だ」とも付け加えた。
ヒルマン氏を含む専門家によれば、トランプ氏に他の法的手段は残されているが、IEEPAほど包括的な権限を付与する法律は存在しない。
貿易問題に詳しいドミトリー・グロズビンスキー氏も、「トランプ政権のツールボックスが空になるわけではない」とした上で、IEEPAを活用できなくなる状況を裁判所判断が生み出したと説明した。
原題:Trump’s Trade Strategy Upended After Court Blocks Global Tariffs(抜粋)