半分氷で半分火、物理学者が新しい物質の状態を発見
物質の相は、固体・液体・気体に限られない。物理学者がこのほど発見した新しい相は、「ハーフアイス・ハーフファイア(half ice, half fire)」と呼ばれている。
半分氷で半分火?なんだか矛盾したかのように思えるこの状態は、みんなが想像しようとしているものとはおそらく違う。それは原子核の周りをぐるぐる回る電子のスピンに関係するものだ。
この奇妙な物質相を応用することで、量子コンピュータの新型ストレージや革新的な冷却装置が開発できるかもしれないという。では、この新たな物質相について詳しく説明しよう。
あらゆる物質を構成する原子は、陽子と中性子で構成される原子核と、その周囲で雲のように分布する電子によって構成されている。
この電子は原子核の周りを公転しつつ、自転もしている。この自転のことをスピンといい、公転運動とあわせて磁力と大きく関係している
なお、この説明はイメージしやすくするためのもので、量子力学的に見て、惑星のように公転しているわけでも、コマのように回転しているわけでもないので、そこんところよろしくだ。
新たに発見された物質相「半分氷・半分火(ハーフアイス・ハーフファイア)」は、秩序だった「アップスピン」(コールドサイクルと呼ばれる)、無秩序な「ダウンスピン」(ホットサイクルと呼ばれる)が同時に起きている状態だ。
半分凍って、半分燃えているわけではなく、コールドサイクルとホットサイクルの対比にちなみ「ハーフアイス・ハーフファイア」と名付けられた。
この画像を大きなサイズで見るPhoto by:iStockじつはハーフアイス・ハーフファイアには双子の相がある。それは数年前に米国ブルックヘブン国立研究所のチームによって観測された「ハーフファイア・ハーフアイス」だ。
それがはじめて観測されたのは2016年のことで、「フェリ磁性」という磁性材料で見つかった。
フェリ磁性とは、互いに逆向きの磁気モーメントを持つ原子集団を含むが、その集団の数が不均衡であるために全体としては磁化を持つ磁性のことだ。
ハーフファイア・ハーフアイスが観測された磁性体は、ストロンチウム・銅・イリジウム・酸素で構成される「Sr₃CuIrO₆」で、そこに外部磁場をかけることでこの相が作られた。
このとき、銅がある部分ではスピンが活発で磁気モーメントが小さくなり、イリジウムのある部分ではスピンが抑えられ、磁気モーメントが大きくなる。
これは興味深い発見だが、アレクセイ・ツヴェリク氏は、ただの始まりに過ぎなかったとニュースリリースで語っている。
徹底的に研究しましたが、この状態をどう利用できるのかわかりませんでした。「パズルのピースがいくつか欠いていたのです(アレクセイ・ツヴェリク氏)
その後の研究では、「ハーフファイア・ハーフアイス」には、それと対となるホットサイクルとコールドサイクルの位置が入れ替わった逆の状態があることがわかったのだ。それが今回の「ハーフアイス・ハーフファイア」だ。
この画像を大きなサイズで見るPhoto by:iStock研究チームは、両者が入れ替わるきわめて狭い温度範囲を特定。このおかげで、双子の相には素晴らしい応用があるだろうと期待することができる。
その1つが、鋭い相転移を利用した革新的な冷却技術だ。さらに、この相自体をビットとして利用して、量子情報を記録することができるかもしれないという。
「新たな可能性への扉が今、広く開かれました」と、イン・ウェイグオ氏は語っている。
この研究は『Physical Review Letters』(2024年12月26日付)に掲載された。
References: Journals.aps.org / Bnl.gov
本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。