「レ・サヴール志摩」乗車ルポ 近鉄レストラン列車の実力は 名古屋から美酒堪能の夢空間
近畿日本鉄道は1日、名古屋と伊勢志摩を結ぶ近鉄初の本格的なレストラン列車「Les Saveurs(レ・サヴール)志摩」の運行を始める。都市部から住宅街、山並み、伊勢志摩の海へと移り変わる景色を眺めながら、こだわりのフランス料理を味わえる。運行開始を前に、記者が多少のアルコールを交えながら、非日常すぎる2時間半を体験してきた。
10月下旬、近鉄名古屋駅のホーム。午前11時5分の出発を前に、深い青色の車体が印象的なレ・サヴール志摩が滑り込んできた。反対側のホームでは、鉄道ファンらが人気の特急「ひのとり」を熱心に撮影していたが、見慣れない〝新顔〟の登場に、こちらにも熱い視線が注がれていた。
近鉄によると、「サヴール」はフランス語で「味」や「風味」を意味する。車体の青と白は「志摩の美しい海や白砂、太陽が醸し出す爽やかな開放感」を表現した。青は光の当たり方によって色合いが変わるメタリック塗装だ。
さっそく乗り込む。特急車両を改造した4両編成で、全50席。車内は間接照明で落ち着いた雰囲気に包まれ、大理石調のテーブルや革張りの椅子が並ぶ。窓際の通路には、ずいぶん昔に乗った国鉄のブルートレインを思い出させる懐かしさもある。ただ、こちらはゆったりとしていて歩きやすい。
昼間の喉はすぐ乾く
名門・志摩観光ホテル(三重県志摩市)の樋口宏江総料理長が監修するフランス料理のコースを味わえる4号車(16席)に着席。いつの間にか列車は動き出していた。取材とはいえ、美食への期待が高まるにつれ、何だか喉が渇いてきた。
最初の一杯は、赤のスパークリングワイン「伊勢っ子」か、三重県産みかん100%ジュースから選ぶ。ペンを片手に、「低アルコール」という説明書きを一応の理由として、赤いほうを選ばせてもらった。クリアな頭で取材をするのは記者の基本だ。ただ、この2択の答えは最初から決まっていたかもしれない。
ほどなく、パーサーの女性が「ごあいさつの一品です」と「熊野地鶏のコンフィとあおさのキッシュ」を運んできてくれた。料理は一皿ずつ提供され、目の前に置かれるたびに期待が膨らむ。ひと口味わい、赤い泡を口に含む。ぶどうの深い味わいが広がり、気分は通勤電車から一気に特急に乗り換えだ。
フランス料理のコースを提供するレ・サヴール志摩4号車の座席。料理をのせるプレートは、沿線の津市にちなみ「つ」の字がデザインされているという車窓に目を向けると、列車はいくつかの鉄橋を越え、住宅街を走っていた。青空の下に濃尾平野が広がり、遠くには鈴鹿の山並みが見える。流れる景色を眺めていると、前菜の「鮑のテリーヌ 茸のマリネとサラダを添えて」が運ばれてきた。今度は白ワイン「美(うま)し国ブラン」を合わせる。景色を楽しみ、料理を味わい、グラスを傾ける。美食に美酒を合わせるのは「作法である」と自らに言い聞かせた。
途中、近鉄の特急「ひのとり」や在来線車両が多数並ぶ「富吉検車区」(愛知県蟹江町)付近を通過した。鉄道ファンにとっては、車窓から見える車両基地も楽しみの一つになりそうだ。
次の一皿は「海のパピヨット~伊勢海老・伊勢まだい・蛤を香り豊かなブイヤベースで~」。聞き慣れない「パピヨット」という言葉が気になり、思わずスマートフォンで検索した。魚や野菜などを包んで蒸し焼きにするフランス料理の調理法だという。
目の前のパピヨットは、透明なフィルムに包まれている。封を開けると、湯気とともに、にんにくの食欲をそそる香りが立ち上った。料理は見た目や味だけでなく、香りでも楽しませてくれる。合わせるのは、パーサーお薦めの白ワイン「キュベモミジ シャルドネ バーレルエディション」。さわやかな酸味と果実感が心地よい。
道中、レ・サヴール志摩に手や旗を振ってくれている人たちがみられたふと気づくと、乗車したときにはジャズだった車内のBGMがクラシックに変わっていた。料理にワイン、そして音楽。日常を離れた空間に、ますます引きずり込まれていく。もう戻れない。
メイン料理は「三重県産和牛のビーフシチュー」。ここは、しっかりとした「赤」を合わせたい。三重県南伊勢町・玉城町産のメルローなどをブレンドしたという「美し国ノワール」を添えた。
レ・サヴール志摩でのコースのメイン料理「三重県産和牛のビーフシチュー」。これは赤ワインと合うグラスを傾けながら車窓に目をやると、2016年の伊勢志摩サミットの取材で訪れた街並みが目に入った。料理を楽しむうちに、いつしか景色も旅の記憶と重なっていく。ふと懐かしさに包まれた。
「作」ハイボール、試したかった
夢のような列車旅も終盤だ。生チョコレートやマカロンなどのデザートの盛り合わせを楽しんでいると、同行する近鉄の関係者から「そろそろ到着です」と声がかかった。
ほぼ同時に、近くの席から「『作(ざく)』のハイボール、おいしかった」との声が聞こえてきた。「作」といえば、伊勢志摩サミットでも乾杯酒に選ばれた三重県が誇る日本酒。かなりフルーティーでありながら、すっきりとした味わいが特徴だ。それを炭酸で割ると、どんな味わいだったのか-。気になるところだが、後ろ髪をひかれる思いで列車を降りた。午後1時半、この日の終着・鵜方(うがた)駅に到着した。運行開始後の終着は賢島(かしこじま)駅となる。
鵜方駅でこの日の乗客を降ろし、ホームから去っていくレ・サヴール志摩フレンチコースは3万3000円(土休日3万6000円)。フレンチ膳は1万9000円(同2万1000円)で、列車の1、2号車で提供する。9月1日から予約を受け付けており、年内はほぼ埋まっているという。(井上浩平、写真も)