「持ち家は買えるなら買ったほうがいい」…大学教授が"金利上昇で購入を迷う30代"に伝える「老後の現実」 (3ページ目)
金融抑圧の議論をいったん脇に置くと、金利は単独で上がるわけではない。
理論上、金利が上がるのは物価が上がっているからであり、物価が上がる世界では、時間差はあっても給料も上がっていくはずだ。
名目金利は実質金利に予想インフレ率を足したものになる。金利が上がった分は物価と給料の上昇で相殺され、インフレで借金も目減りする。
人々が合理的に予想し、市場がそれを織り込むなら、金利上昇は借り手にとっても貸し手にとっても有利不利を生まない。理論上は、全体としてほぼ均衡するのである。
しかし、実際の世界はそうはなっていない。まず、人は物価の変化を割り引いて考えるのが苦手だ。
行動経済学でいう「貨幣錯覚」で、人は実質的な価値よりも名目の数字に強く反応する。
金利が1%上がったという名目の変化には敏感に反応する一方で、物価と給料の上昇によって借金が実質的に軽くなっていくことは実感しにくい。
加えて、人は同じ大きさの利益より損失を強く感じる。返済額が増えるかもしれないという不安は、借金が目減りしていくという目に見えにくい利益よりも、はるかに大きく感じられる。
その結果、金利上昇を実際以上に恐れ、家を買うことやローンを組むことを控える人も出てくるだろう。理論上は有利不利がないはずだが、もし物価と賃金の上昇が金利を上回ることになれば、リスクを取って借りた側が有利になり、恐れて控えた側が不利になるという差が生じうる。
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理論上では、金利が上がれば収入も上がるはずで、実質金利が低いままであれば、あまり心配する必要はないのだが、未来は予測できないため、心理的にはそのような判断をそのまま受け入れられるとは限らない。
「いずれ家は余る」は、たぶん起きない
住宅ローンとは話が少しずれるが、空き家が多いから家を今買わなくても大丈夫だろう、という主張もあるようだが、たぶんそうはならない。
確かに統計上の空き家は増えていて、2023年の住宅・土地統計調査では、空き家は約900万戸、空き家率は13.8%と、いずれも過去最高になった。
しかし、この数字をそのまま「家が余っている」と読むのは早計で、日本には、1981年の新耐震基準より前に建てられた、いわゆる旧耐震の住宅がまだ大量に残っている。
国土交通省の推計では、耐震性が不十分な住宅は約570万戸ある。
こうした住宅がいくら空いていても、誰も住みたいとは思わない。
住みたいと思われない家が空いていることは、家が余っていることを意味しない。むしろ、2000年以降に建てられた品質の高い住宅は不足しているというのが実感に近い。
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いずれ金利が上がるなら、金利上昇のリスクがない固定金利が有利だが、人間には現状が続くと感じるという、いわゆる正常性バイアスがあり、金利が上がると思っていても、それほど大きくは上がらないだろうと考え、目先の返済額の低さを優先して変動金利を選ぶ人が多い。
住宅金融支援機構の調査では2025年度上期に借り入れた人のうち、今後1年間で金利が上昇する、と見ている人は73.7%もいたのに、変動型を選んだ人は75.0%もいることがそれを示している。
今にして思えば、2025年時点では、フラット35が2%以下だったので、変動金利との差が1%以上あったとしても、今後のさらなる金利上昇を考えれば、固定金利のほうが良かったということになる可能性もある。
固定金利と変動金利の差、すなわち金利に対する“保険料”が1%程度なら、固定金利を選ぶ人も一定数いるだろうが、現状のようにその差が2%以上と大きくなれば、毎月の支払い額の差はそれなりにあるため固定金利を選びにくくなる。
2%以上もの“保険料”を払ってでも固定金利にする、というのは、今後猛烈な金利上昇が起きる、ということを前提にすることになるが、それに賭けられる人は多くはないだろう。この状況で変動金利を選ぶのは、バイアスというより、合理的な判断でもあるのだ。
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金利に「天井」がある可能性
金利がいつ、いくらになるかという「点」の予測はできなくても、金利が動ける「範囲」には構造的な制約がある可能性がある。制度と財政の仕組みから導かれる話であり、鍵になるのは「金融抑圧」という考え方だ。
金融抑圧とは、政府が金利を物価上昇率より低く抑え込むことで、実質的に政府債務を減らしていく政策のことで、第二次世界大戦後の米英は、この方法で巨額の戦時債務を目減りさせたとされる。
金利を上げずに物価を上げれば、名目の借金は変わらなくても、経済規模に対する借金の重さは軽くなっていく。
GDPの2倍を超える政府債務を抱える日本は、まさにこの道を進んでいるのかもしれない。
財務省の試算でも、金利上昇によって国債の利払い費は2029年度に21.6兆円と、2026年度の約7割増に膨らむ見通しで、金利が上がれば上がるほど、その負担は政府自身に跳ね返ってくる。
だとすれば、政府には、長期金利を利払いに耐えられる水準に抑え込もうとする強い動機が働くことになる。金利については、こうした可能性も考慮したい。
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そもそも、2000年ごろから2020年ごろまで、家賃が緩やかに下がり続けてきたのには理由がある。
ひとつは経済がデフレだったことで、もうひとつは、1981年、2000年と建築基準が段階的に強化され、そのたびに既存の住宅の品質が相対的に下がる「陳腐化」が起きてきたことだ。
新しい基準の住宅が出るたびに古い住宅は見劣りし、築年数とともに家賃が大きく下がっていった。
ところが2000年以降は、こうした大きな陳腐化は起きていない。2025年4月からは新築住宅の省エネ基準への適合が義務化されたが、耐震基準の変更ほど大きな品質差を生むものではない。
品質も十分に高いため、少し古くなったからといって家賃が大きく下がることはなくなった。そこにインフレが重なり、いまは築年数の経った物件の家賃まで上がっている。
東京23区では、マンションもアパートも募集家賃が過去最高の水準にある。
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家賃が上がる世界では、借り続けることのコストも上がっていく。「借りたほうが安い」という前提そのものが、デフレと陳腐化の時代の産物だったのである。
未来は誰にも予測できない
強調したいのは、金利も景気も、未来は誰にも予測できない、ということだ。
であれば、家を買うかどうかの判断も、未来予測を前提にすべきではない。
今、買えて、住宅ローンを借りても返せると思えば、買えばいいし、そうでなければ買わなくてもよい。
家が欲しい、必要だと思えば、買える範囲の家を買えばいいし、欲しくなければ買わなくてもよい。
ことさら理由を付けて、持ち家を否定する必要もない。
注意が必要なのは、将来の金利や価格の予測に基づく損得を判断の基準にすることだ。未来は誰にも分からない。
ただし、一つだけ確実なことがある。それは、人生はとても長い、ということだ。
日本人の平均寿命は男性で81歳、女性で87歳であり、30歳の時に35年ローンを借りて65歳で返し終わっても、その後の平均余命を考えれば、配偶者が年下なら30年近くの間、住む場所が必要になる。
この時、年金生活で家賃を払い続けられる保証はない。年金の水準は、住居費のかからない持ち家での暮らしを暗黙の前提にしているといってよい。実際、65歳以上の8割以上が持ち家に住んでいる。
予測できない未来に備える、という意味では、買えるのであれば家はいつでも買い時なのだ。
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