福井県の杉本達治前知事のセクハラ問題を調べた特別調査委員による報告書の要旨

 福井県の杉本達治前知事(63)が複数の職員にセクハラに当たるメッセージを送ったと認め辞職した問題で、事実関係を調べていた特別調査委員は1月7日、調査報告書を公表した。報告書の要旨は次の通り。

⇒【本記】前福井県知事の杉本達治氏、セクハラ1000通認定 女性職員4人被害

⇒特別調査委員の報告書を受けた杉本達治氏のコメント全文はこちら

【1】特別調査委員による調査の概要

(1)特別調査委員による調査開始までの経緯

 2025年4月中旬、福井県の公益通報の外部窓口に対して、県職員から「通報書」が提出された。通報書は内部窓口である総務部人事課に共有された。

 ▽通報内容の概要 業務に関連して杉本達治知事の求めに応じる形でLINEの交換を始めたが、その後、愛人になることを求めるような内容や食事に誘うような内容のLINEが複数回届いた。杉本氏によるこれらの送信行為は、公務員倫理およびハラスメント防止に関する法令などに違反する。職場環境に対する今後の配慮を求めたい。

 ▽県による内部調査 県は通報を受けて人事課を中心とする調査メンバーにより、5月の連休明けから事実関係などの調査を開始し、8月上旬までに通報者や杉本氏、関係者に対する聞き取り調査を実施した。

 これらの調査結果を踏まえ、県は今後の対応方針について外部の有識者に相談するなどして慎重に検討した結果、公正・中立かつ専門的な観点での調査等が必要であると判断し、特別調査委員に対し必要な調査を依頼することとした。

(2)特別調査委員に対する調査の依頼

 ▽特別調査委員の構成 河合健司弁護士(第二東京弁護士会)江黒早耶香弁護士(第一東京弁護士会)井筒智子弁護士(福井弁護士会)

 ▽利害関係の有無 3人の委員はいずれも杉本氏や通報者、職員約6千人対象の調査で情報提供を受けた職員と、特段の利害関係を有していない。

(3)調査の経過

 ▽調査期間 25年9月24日~26年1月6日

 ▽調査方法

 ・通報事案に関し、杉本氏、通報者や関係者数人に対する聞き取り調査を実施した。

 ・職員約6千人対象の調査により調査委員に対し情報提供があった職員のうち、協力が得られた情報提供者に対する聞き取り調査等を実施した。

 ・杉本氏、通報者や情報提供者から写しの提供を受けたテキストメッセージ(LINE、私用メール)、関係書類を検証した。

 ▽県職員に対する調査の内容および調査結果 調査期間中に受領した情報をもとに、調査委員が接触を試みた職員の人数は計17人。そのうち実際に接触できた職員数は14人で、それ以外の3人は接触できなかった。また、調査委員が接触した14人のうち、最終的に詳細な事実関係の聴取や客観資料の提出などの協力を得られたのは3人だった。通報者と合わせて4人の被害者らはいずれも女性。

【2】調査結果

(1)はじめに

 情報提供者4名はいずれも、個人情報が厳重に保護されることを条件に調査委員のヒアリングに応じた。とりわけ、通報者以外の3名は、杉本氏および本調査を担当する県職員に対しても個人が特定されないことを強く要望した。関係法規を踏まえ、調査報告書では、個人が特定されることを避けるため、全事案について包括的、概括的な記述をするに留めた。

(2)事実認定

▽杉本氏によるセクシュアルハラスメント事案の全体像 本件調査事案は、杉本氏が、県の総務部長として勤務した後から知事に就任し昨年に至るまでの間に発生したものであり、総務省に在籍していた時期も含まれる。いずれも、杉本氏と情報提供者が職務に関連して対面する機会がある中で発生した。いずれの事案も、杉本氏から情報提供者に送信された、セクシュアルハラスメントを裏付けるテキストメッセージ(LINE、私用メール)が残されている。検証したテキストメッセージのうち、セクシュアルハラスメントを裏付けるメッセージの総数は約1千通に上る。

 また、本件調査事案の中には、身体的接触を伴うセクシュアルハラスメントの被害供述もあった。

▽身体的接触を伴うセクシュアルハラスメントの被害供述 被害者らへの聞き取り調査で3件の身体的接触を伴うセクシュアルハラスメントの被害を述べた。

①杉本氏に誘われて断り切れず入った飲食店で、二人がけソファに横がけで座らされ、飲み物を頼んだ後すぐに、杉本氏が、「触っていい?」と言いながら、横から手を伸ばして私の太ももを触ってきたので、私が強く抗議し、杉本氏は手を放して「ごめんなさい」を繰り返し、私は飲食店を一人で出て帰った。

②懇親会の席で、私と杉本氏がテーブルの相向いに座っていたところ、杉本氏が私の両足の間に足を入れ絡めてきて、私は驚いて足をすぐに引っ込めたが、非常に気持ち悪い嫌な思いをした。

③杉本氏と飲食する機会があったが、私が飲食後のごみの始末などをしていた際に、突然、杉本氏が背後から私のスカートの中に手を入れ太ももの裏と臀部(でんぶ)を触ってきて、私が驚いて振り向くと、杉本氏は、すぐにその場を離れていき、私は突然のことで声も出ず、抗議できなかった。

 3件の被害供述はいずれも、日時・場所を含めて詳細かつ具体的であり、供述の一部または前後の状況について、テキストメッセージ等で裏付けがなされており、信用性が高いと認められる。杉本氏は、調査委員の聞き取り調査で、これらの身体的接触について「全く記憶にない」「触ったり意図的に足を絡めたりしたことはない」などと述べるが、信用できない。

▽被害感情

ア 概要

 被害者らは、被害感情について、長年にわたって苦痛に耐えてきたこと自体による怒りや悲嘆に加え、次のように述べている。

 杉本氏は発覚後の記者会見で「軽口や冗談のつもりだった」「調査委員に指摘されるまで自己の行為がセクハラに該当することに気づかなかった」などと自らの行為を軽くみている発言をした。信じがたい発言で、誰が見てもセクハラに該当する内容で、確信犯である。杉本氏も「確かにこれはセクハラだよね」などと認めるメッセージを送信している。被害者らは、杉本氏の記者会見での発言は、長年の耐えがたい痛苦を軽視し、自己の責任を回避するための弁明と考え、被害感情は極めて厳しい。

 被害者らは▽杉本氏からの謝罪は一切受けたくない▽示談もしない▽接触を断ちたい▽受けた精神的苦痛は一生忘れることが出来ない▽二度と会いたくない▽恐ろしいので福井から出ていってほしい▽どこかで会うかもしれないと思うと不安でならない▽絶対に許さない―などと強く訴えている。

 調査過程で、被害者らは当時の苦痛を記憶喚起することにより涙を流す場面も多々ある。あらためてテキストメッセージを見返すと「本当におぞましい」「自己中心的な内容である」などと感想を述べた。

イ 被害当時の感情

 被害者らは、業務上の一般的なやり取りを行っていたところ、突如、性的なテキストメッセージを受信し、自らが性的な対象として見られていることに気づき、驚愕し動揺した。

 被害者らは、最上位の責任者であり、既婚者でもある知事から、突然、脈絡なく、性的な関心を自らに寄せていると明らかにわかるメッセージを受信し、驚愕した後、機嫌を損なうと自らの仕事を失うのではないかという社会的・経済的不利益の憂慮を思い、強く悩んだ旨を訴えている。

 被害者らは、性的な関係を要求された場合に応じなければ職を失うのであろうかと真剣に悩んだ。特に若い被害者は、親子ほども年の違う杉本氏と性的な関係を持つことを想像して気持ちが悪くなり、恐怖を感じた。加えて、人事権を持っている一番トップなので、気に入るような対応をしないと、やりがいをもって続けたい自分の仕事がなくなってしまうのではないかという恐怖感もあった、と述べる。悩みながらもはっきりと拒絶することができず、知事の気に入るような返事をしながら、二人きりで会うことについては婉曲的に断る返事を送信したが、執拗に連絡が続いた。知事の性的なノリにあわせるような返信をすること自体が極めて屈辱的で、権力の傾斜を背景に、メッセージの返信を強制されていることに、強い苦痛を感じたと述べている。恋人のように愛してほしいという性的なテキストメッセージを何度も受信し、恥ずかしく屈辱的であった、心の底から気持ち悪かった。本来の仕事よりも杉本氏の機嫌を優先してほしいという趣旨のテキストメッセージさえ受信した被害者もおり、職員は知事のストレス発散の道具ではない、遊び相手でもない、自己の尊厳が非常に傷つけられたと述べる。杉本氏は被害者らの仕事を「応援している」などとテキストメッセージに記載するが、人事権をちらつかせているようにも思えた。被害者は女性を完全にバカにしている、女性蔑視である、女性として侮辱されていると感じ、大きく失望、絶望している旨を訴えている。

 被害者の中には、明示的にセクハラに当たるので止めるようにと忠告し、時に激怒した者もおり、杉本氏も一度は被害者に謝罪するが、その2か月後には「〇○ちゃんは、まだ怒ってるの?」というテキストメッセージを突如送信してきて「体の関係なんて言わないから」「二人きりでさしつさされつで楽しもうね」などという性的なテキストメッセージの送信が続くようになった。

 杉本氏は「相手が優しく受け入れてくれたので」などと弁明するが、被害者らは、あまりにも執拗で、深夜、休日、業務時間内など、時間を選ばずテキストメッセージが送られてきて、深夜も「またスルー」「冷たい」「放置プレイかあ」「〇○ちゃん悲しいよう」「〇○ちゃん眠れないよう」「〇○ちゃん助けて!」「起きて、起きてえ、眠れません」などのメッセージがしつこく送信されてくるので、テキストメッセージ受信の音で度々起こされ、あきらめて返信した。自分から先に杉本氏に対して好意を示したことは「ただの一度もない」と述べており「相手が受け入れた」と杉本氏が勝手に捉えること自体を苦痛に感じている。

 特に、夜のセクハラメッセージは、スマホを見るのが怖く、無視して寝たとしても、次の朝、恐る恐るメールを見ると、その内容が不快であり心が病んだ。セクハラの言葉に反応しないと「またまた素っ気ないメールだね」「冷たい」「愛情は?」「ハートマークが少ない」というようなメッセージがあったことがある。

 被害者は、知事からの数々のセクハラを、決して許したわけではない。セクハラとして正面から受け止めてしまったり、怒ったままでいると仕事が続けられないため、なるべくセクハラと思わないようにしていた。一方で、そのような毎日に慣れていくしか方法がない自分に対し「仕方がない」と容認したり、「誇りはないのか」と嫌悪したり、不安定な気持ちが交錯した状態で、今でも、メッセージを思い出すだけでつらくなり、仕事をすることが困難になることもある。ずっと心に蓋をしてきたが、負った傷がうずき出す感覚を今も感じていると訴える。当時は執拗なセクハラに、抗う気力も失せ、読み流したり、機嫌を損ねない程度で返信したり我慢を続けていたが、いつか自分の感情が爆発するのではないかと思っていた。杉本氏には、想像力や人の心を思いやる力が欠如している。

 なお、被害当時、感じた感情を処理するため「キモイ」「いい加減にしろ」「屋上から知事室の横に飛び降りてやる」「いつかバレる」「もてない男ほどそういうことをする」「しつこい」などと独り言をつぶやきながら、対応に心を悩ませていたと述べている。

ウ 二次被害に対する恐怖等

 被害者らは、杉本氏本人の弁明や言動によりさらに心が傷つくことや、杉本氏の支持者らによる攻撃、インターネット上の言説による攻撃にさらされることに強い恐怖を感じ、以下のように訴える。

 ニュース等で杉本氏の顔を見るたび、心がざわついたり吐き気がする、表と裏のギャップがありすぎる。表向きは「気さくでいい知事さん」と人は思っただろう。職員にとって親しみやすい知事でも、セクハラはありえない。元々の人格の問題だと思う。知事はあんなに頑張っていたのだから、テキストメッセージぐらい許してやれという世間やインターネット上の言葉に傷つく。

 通報者は、杉本氏の行為は常習性を感じるものであったため、自分以外にも被害者がいるかもしれず、放置してはさらなる被害者が発生すると思い、勇気を出して通報した。他の被害者は、黙って我慢していたが、他にも被害者がいると聞き、ショックだった。県民や職員の「テキストメッセージぐらいで大騒ぎする方がおかしい」「嫌なら断ればよいではないか」との声や、年配の女性職員の「昔はもっとひどいセクハラがあったけれど、自分たちは耐えてきた、乗り越えてきた」などの声を聞くと、男女・年齢問わず職員の意識改革や研修・啓発が必要だと思う。

 「セクハラメッセージの内容は、たいしたことがないのではないか」「送られた方が騒ぎすぎだ」「知事がそのようなことをするとは思えない。知事がかわいそうだ」等の声を聞く。被害実態が軽視され、知事をかばう言動について強い精神的苦痛を感じており、世間に被害実態を十分に知ってもらいたい。

 杉本氏の退任の記者会見は、非常にショックであり、謝罪の言葉を述べながら「福井に残って福井のために尽くしたい」などと発言することは、問題をはぐらかせようとしていると思う。「海外旅行に行きたい」と発言するなど、もってのほかであり、反省しているとは到底思えない。

 被害者らの中には、上長に訴えて被害自体を信じてもらえなかった者、相談した相手からさらにセクシュアルハラスメント被害を受けた者などが複数おり、不適切な対応にさらに傷ついた旨を述べている。相談した際の二次被害のおそれが杞憂ではなかったことが明らかとなっている。

▽杉本氏の供述 杉本氏は調査委員の聞き取り調査において、おおむね次のような供述をしている。

 ・被害者に対する距離感の取り方や接し方、被害者の思いが分からなかった。本当に被害者が悩み苦しんでいたということを初めて知り、被害者に対し申し訳ないという気持ちでいっぱいである。

 ・テキストメッセージを送った当時はセクハラに当たるとの認識はなかったが、今回調査を受けてよく考えてみたらセクハラであるとの認識に至った。

 ・自分が勝手に被害者に対する思いをもっていて、いろんなことを書いてしまっていた。それが被害者を傷つけてしまったと痛感している。

 ・酔っていて気持ちが緩んでおり、相手から優しい返事があったこともあって、書くべきでない不適切なテキストメッセージを送ってしまった。

 ・性的な関係を求めるようなテキストメッセージもあるが、相手に性的関係を求めていたのではない。自分の中で勝手に盛り上がり、そのようなメッセージを送ってしまった。男女関係を持つことを真に希望していたものではない。

 ・相手が同意すれば関係をもつとまでは断定できないが、好意はあった。

 ・被害者が仕事を奪われる恐怖を感じていたことは、当時は全く考えが及ばなかった。

 ・読み上げてもらったテキストメッセージについて、一つひとつは覚えていないが、相手が優しく受け止めてくれていたので、気分が高揚して相手がどう感じているかも考えず自分勝手に送ってしまった。

 ・勃起したとも読めるテキストメッセージについては、普通に読めばそのように受けとられるかもしれないが、直接的に何かを求めているのとは正直違う。自分の中で勝手にエスカレートして、面白おかしく書いているということだと思う。

 ・被害者が述べている身体的接触について、①、③は、そのような場面があったことは記憶にあるが、被害者の身体に触れたことについては全く記憶になく、私は触っていない。②は、その場面は正直記憶にないが、被害者がそのように言っているのであれば、誤って触れたのかもしれないので申し訳なく思っている。

 ・相手が拒絶しているテキストメッセージについて、厳しい言葉もあり、それを見た当時は感じるところもあったが、その後のやりとりの中でやさしい言葉もあったので、甘えてしまい、相手の本当の気持ちが理解できていなかった。いずれにしても私の相手に対する思いやりの足りなさを痛感している。

【3】認定事実に対する評価および原因分析

(1)認定事実に対する評価

 セクハラ(性的な嫌がらせ)とは、一般的に、相手方の意に反する性的な言動をいうが、職場におけるセクハラは、男女雇用機会均等法において「職場における性的な言動に対する他の従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること、または性的な言動により他の従業員の就労環境を害すること」をいうと定義している。また、セクハラの防止等に関する人事院規則では、セクハラを「他の者を不快にさせる職場における性的な言動および職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」と定義している。

 これらの定義に照らすと、本件調査事案に係る杉本氏の言動が、いずれも情報提供者に対するセクハラに当たることは明らかというべきである。

 しかも、セクハラが一過性のものではないと思われること、テキストメッセージの中には、「キスしちゃう」「ハグとチューをしていいってこと?」「エッチなことは好き?」などという明らかに性的表現を用いたものが数多くあることや、セクハラであることを自認する内容のものもあることなどに照らすと、杉本氏は、セクハラに当たることを十分認識していたものと認められる。

 テキストメッセージ全体を通読すると、被害者らは、知事という圧倒的に優越的地位にいる加害者からの数々の性的なテキストメッセージに対して、婉曲的に拒否したり、冷たいという知事の要求に応じて加害者を褒めたり、おだててかわしたり、絵文字を使ったりといった返信をしているが、時に、当該テキストメッセージはセクハラにあたると指摘したり、明確に拒絶して、嫌悪感や拒否感をあらわにしている。

 被害者らは、知事に対して、テキストメッセージを受領した最初に冷たく拒否したり無視することは、権力勾配に鑑みて、後の不利益を憂慮して到底できず、知事に少しでも迎合した返信を返すことのみじめさや屈辱、知事のテキストメッセージの異常な執拗(しつよう)さとその恐怖についても具体的に語っている。被害者らが知事に対して嫌悪感を感じていないような返信を部分的に行っているとしても、それはセクハラを受けた被害者の迎合的な反応として一般的な範囲にとどまるものであって、被害者らが杉本氏に好意を持つ証拠とは認められず、また、これをもって、杉本氏が、相手が自分に好意を持っていると誤解したなどとは到底解されない。

 また、本件調査事案の中には、被害者が明確に厳しく拒絶し、杉本氏も一度はセクハラを認めて謝罪しながら、しばらくすると再び同様のメッセージを送り始めたり、執拗に飲食に誘ったり、暗に性的関係を繰り返し求めたりするものもあり、セクハラにとどまらず、ストーカー規制法に抵触する違法行為である可能性を否定できない。

 さらに、3件の身体的接触を伴うセクハラの被害供述はいずれも信用性が高いことに照らすと、杉本氏がいわゆる痴漢行為に及んだことがうかがわれ、刑法上の不同意わいせつ罪に抵触する可能性も否定できない。

 加えて、被害者らはいずれも、杉本氏によるセクハラにより深刻な精神的被害を受けており、被害感情が大変厳しい。

 以上に照らすと、杉本氏が反省の態度を示していること、知事の職を辞したことなどの事情を考慮しても、杉本氏の責任は重大であると言わざるを得ない。

 被害者らが杉本氏に返信した内容については、直接的、間接的な拒否反応のほか、一部に杉本氏に迎合した内容も見られるが、性被害のターゲットとなった者が、さらなる加害行為を回避しようと抵抗を試みた結果の反応としてごく一般的なものと評価でき、被害者らの対応に一切の落ち度がないものと認められる。

(2)原因分析

 ▽セクハラの防止を率先して実践すべき職責にある者としての自覚の著しい欠如 杉本氏は、長年にわたって県の要職に就き行政に深く関与してきた。職員が安心して働ける職場の環境づくりに努め、意欲と能力のある女性職員が一層活躍できるよう、さまざまな施策を推進する立場にあった。地方公共団体の長として、セクハラに対する関心と理解を深め、職員に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない職責にあった。

 杉本氏の言動は、知事や幹部職員に求められる姿勢や責務とは全く相いれないものである。率先してセクハラの防止に努めるべき杉本氏が、決して許されないセクハラに及んだことは、知事として、幹部職員としての自覚が著しく欠如していたと言わざるを得ない。

 ▽私的コミュニケーションツールの安易な使用 本件は、杉本氏が被害者との間で、県の業務に関連して、あるいは無関係に、私的コミュニケーションツールを使用してやりとりする中でセクハラに及んだものである。杉本氏が知事や幹部職員という優越的地位にあったことを考えれば、杉本氏は職員との間での私的コミュニケーションツールの使用を厳に控えるべきであった。杉本氏は、職責に対する自覚が乏しかったと言わざるを得ない。

 ▽管理職のセクハラに対する問題意識の希薄さや対応の不適切さ 通報者は、セクハラ被害発生直後に上司に相談したものの、上司は半信半疑で受け止め「また同じようなLINEが来たらすぐに言ってほしい」などと助言をしたのみで、被害情報が上司を通じてハラスメント対応を所管する人事課に提供されることはなかった。通報者は知り合いの職員にも相談し、その職員を通じて別の部署の管理職にも伝わったが、この管理職は、まずは通報者自身で加害者に断ればよいとの考えから、被害情報はハラスメント対応を所管する部署に提供されなかった。上司ら管理職が通報者の相談に真剣に向き合っておらず、セクハラに対する問題意識の希薄さや対応の不適切さがうかがわれる。もし、上司らを通じて情報がハラスメント対応を所管する部署に提供されていれば、早期に適切な措置が取られていた可能性がある。

 ▽内部通報体制の機能不全 人事課にはハラスメント相談窓口が設けられていたが、通報者は被害発生当時その存在を知らず、利用されなかった。窓口は、県のハラスメント関連研修や福井県ハラスメント防止ハンドブックの配布などを通じて職員への周知が図られていたが、十分ではなかったと思われる。通報者が窓口を通して人事課に相談していれば、早期に適切な措置が取られていた可能性がある。

 なお、県の人事委員会事務局内に人事相談所が設置され、一般職員がハラスメントなどの人事管理・職場環境に関して相談できる体制が整っている。通報者は公益通報をするとともに、人事相談所に電話で相談をしたが、適切な対応には結びつかなかった。

 ▽セクハラの被害を通報しにくい組織風土 被害者らは、個人が特定されないことを強く要望している。理由として、インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷を恐れるとともに、職場内で嫌がらせなどを受ける懸念を述べている。また、職員に対する調査の過程で、個人が特定されて職務上不利益な扱いを受けることを恐れて、途中で情報提供を断念した者や連絡が途絶えた者もいた。

 他方で本件では、通報者から相談を受けた上司ら管理職の姿勢に、通報者の相談に真剣に向き合わず、セクハラに対する問題意識の希薄さや対応の不適切さがうかがわれたほか、聞き取り調査をした関係者の中には、問題を穏便に収めたいという思いもあってか、供述を殊更回避しようという姿勢がみられる者もいた。

 加えて、これまで本件が適切に対処されてこなかった実情にも照らすと、今回の事案が知事によるセクハラという特殊性を考慮しても、福井県庁という職場にはセクハラ被害を通報しにくい組織風土があるように思われる。

【4】被害者の安全確保および再発防止に向けた提言

(1)被害者の安全確保

 今回の件が報道されて以降、県に対して多くの意見が寄せられ、またインターネット上でさまざまな情報が飛び交っているが、中には通報者を誹謗中傷する内容も少なくない。また、県庁の内外を問わず、通報者が誰であるかを詮索するような動きもみられると聞いている。調査委員としては、本調査報告書が公表されることで、このような誹謗中傷などが被害者らに向けられることを強く危惧している。被害者らの安全を確保するため、県が以下のような対策を取ること要望する。

 1 個人情報保護の徹底

 被害者の同意がない限り、その個人情報を絶対に開示しない。

 2 不利益取り扱いの禁止

 被害者を含めて、本件に調査協力した職員に対する、当該協力が原因とみられる不利益な人事異動、配置転換、昇任の見送り、人間関係からの切り離し、過小要求など、いかなる不利益取り扱いも禁止する。

 3 SNSや報道などにおける誹謗中傷や被害者特定への対策

 SNSや報道などで、被害者に対する誹謗中傷や被害者を特定する書き込みや記事に接した場合、県が組織的に対応することとし、被害者の意向をくみつつ、抗議や法的措置(損害賠償請求、発信者情報開示請求、刑事告発)を行う。

(2)再発防止に向けた提言

1 セクハラを含めたハラスメント(以下、単に「ハラスメント」という)防止に向けた取り組み

ア ハラスメント防止研修の充実   県は各種の研修の機会を捉えて、職員に対するハラスメント防止の重要性や相談窓口の周知などを行っている。その内容をさらに充実させるとともに、例えば特別職・管理職に向けた実効性のあるハラスメント防止研修を新たに設け、その受講を義務化することにより、上層部や管理職の意識改革を図ることが必要かつ有益である。

イ 特別職も含めた、業務に関連した私的コミュニケーションツールの使用禁止の徹底    県は福井県情報セキュリティポリシー対策基準を定めており、職員が個人で利用するLINEや電子メールを業務で使用することを禁止している。その対象に特別職を追加するとともに、「業務上必要」と称したものも含め、業務に関連したあらゆる私的コミュニケーションツールの使用禁止(災害時などの業務連絡を除く)の徹底を図ることが必要である。

ウ 職場アンケートによる職場実態の把握とそれを踏まえた職場環境の改善   ハラスメントは早い段階で発見して対策を取ることが必要かつ有効であり、発見が遅れると被害が拡大する。解決手段の一つとして、実効性のある職場アンケートを定期的に実施して職員の本音を引き出すよう努め、職場の実態を把握することが考えられる。

2 ハラスメント相談体制などの充実に向け考えられる方策

ア ハラスメント相談体制の強化   知事が加害者であるような事案であっても、職員が安心してハラスメント被害を相談できる独立性を持った相談体制を整備する。

イ 上司がハラスメント事案を覚知した際の報告の義務化   上司に対するハラスメント相談に実効性を持たせるため、上司が相談を受けた場合、内容の軽重や種類を問わず、ハラスメント対応を所管する人事課に対する報告を義務付ける。

ウ 被害者のメンタルケア   被害者のメンタルケアに万全を期すため、必要に応じて外部の専門家の助言を得る。

エ 出向元組織との関係性   出向者や元出向者による加害行為を県が把握した場合は、出向元組織とコミュニケーションを取り、早期に適切な対応を求める。

3 再発防止策の検証と見直し(組織風土の改革に向けて)

 再発防止策は策定して終わりではなく出発点である。組織の状況や職場環境は常に変化しており、運用上の実効性が確保されているか定期的に検証し、その都度見直しを行っていくことが不可欠である。その積み重ねによってハラスメントを未然に防ぎ、発生しても早期に適切な対応ができる組織風土に変えていくことが期待できる。

【5】付言

 本件の被害者は、大きな精神的ダメージを受け、今も苦痛や屈辱感に耐え、心身に大きな負担を負っている。被害者は差別的な言動や侮辱、その他の社会的な不利益を憂慮し、長期間、被害申告できない状況にあった。今後もSNSなどによる誹謗中傷や被害者の詮索などさらなる精神的被害を受けるのではないかと強い恐怖心を抱いている。

 被害者らには何ら非はなく、本件について論評するいかなる者も、被害者の詮索や被害者らに対する侮辱、名誉毀損(きそん)行為により被害者らをさらに苦しめることは許されないことを付言する。

⇒特別調査委員の報告書を受けた杉本達治氏のコメント全文はこちら

【福井県からの注意事項】 本調査報告書に関して、情報提供者を特定しようとする行為や、誹謗中傷などの不適切な行為は絶対におやめください。そのような行為は、個人の権利を侵害するものです。このような行為が確認された場合は、県として、必要な措置を講じる場合がありますのでご了承ください。


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